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第6話 王都襲撃、予言と魔獣遣い 後編

少し短めです。

 突如空から現われた魔獣の襲撃により、王都が混乱の極致へと至る中、それでも何とか市街に残っている騎士や兵士達は奮闘を続けている。


「畜生! 化け物め……! げはっ!? 」


 しかし、そんな抵抗もむなしく一人、また一人と王国の騎士と兵士とが、未知の獣達の目にも留まらぬ速さで繰り出される一撃に次々と沈んでいく。

 獣とは言うが、騎士の一団を蹂躙している()()は、少し毛色の違った存在だった。その魔獣は二足の足で地を踏み、手に持った簡易な武器で暴れまわる、どちらかといえば人に近い姿をしてはいる。ただし、人の背をはるかに越える巨躯に暗緑色の肌、そして首から上に据えられた醜悪な豚の顔、これらの特徴がそれを化け物たらしめている証となっている。交戦経験のある一部の騎士や傭兵達はそれを豚頭(オーク)と呼んでいる、れっきとした魔獣なのだ


「たかが獣ごときに王国騎士団が……!?」


「早くあいつを止めろ! これは命令であるぞ!」


「こんなの聞いてない……嫌だ、死にたくない……!」


 市街地のいたるところで戦闘が繰り広げられ、そしてその殆ど豚頭(オーク)が無造作に振るった棍棒で何も出来ないまま蹂躙されていた。 


「コイツ等は唯の獣では無いぞ! 魔術で対抗を!」


「待て、市街地での魔術発動許可は出てないぞ! 勝手なことはするな!」


「そんなことを言っている場合か!」


 実戦経験の乏しい上級騎士達の多くは命令を出す早々に戦死するか逃げ出し、その下の部隊長単位での指示が途切れ、各地での命令系統は既に壊滅状態。それでも規律を守ろうとするものや、規則を破ってでも対抗しようとするもの、そして、規則を破ったことに対する叱責と怒号。もはや何と戦っているのかも判らなくなるような有様である。


「今は口論するよりもアレを排除することが先だ! 《魔力付与(エンチャント)身体強化(ブースト)! 魔術隊も援護を頼む! なんとしても乗り切るんだ!」


 そんな混沌とした戦場の最中、下級騎士のドランは必死に声を上げ、目の前の獣達を切っては捨てる。他の下級騎士たちも、命令系統は既に役に立たないと判断して各々で武器を構え、魔術を発動し、反撃に移っていく。

 劣勢にあった王国騎士団たちは少しずつ体制を整え、今度は魔獣たちを蹂躙する側へと移って行く。

  


――――――――



「あれあれ~ぇ? もう片付いちゃった? う~ん、やっぱり豚頭(オーク)風情じゃ相手にならないよね~ぇ?」


 相変わらず、空に浮かび王都を見下ろす女。彼女は先ほど放った魔獣の群れが粗方掃討されたことに気づくと、それを賞賛するようにひとりごちる。


「さてさて、どうしようかなぁ~。っと、なに? 今いいところなんだけど。」


 城下を見下ろして文字通り高みの見物を決めていた女だったが、何かに気づき、先ほど石を取り出したのとは反対側にある小さな鞄から、掌ほどの透き通った球状のものを取り出すと、何かと会話をするように毒づく。


「なに? 今仕事してるんだけど。そう。あの鬱陶しい『境界面』にいる連中の本拠。今、駒を撒いたとこ。」


 傍から見れば、突然独り言を始める奇妙な人間に見えたことだろうが、あいにく彼女の細かな様子が見られる人間は周囲には存在しない。此処は王都を見下ろせる空の上なのだから。


「……それが以外にやるもんでさ。多少の被害は出せたけど、豚頭(オーク)じゃやっぱり力不足なんだよね。」


 誰かとの会話を続けつつ、あっさりと退けられた豚頭(オーク)の働きぶりに怒りの色を見せる。


「……はぁ!? ドラゴン!? 馬鹿じゃないの!? そんなの召喚()んだらアタシが帰れなくなるっつうの! 無理! ワイバーンでもダメ!」


 そこで見えない相手が何を言ったのか、女はさらに感情をむき出して怒鳴り散らす。


「……はぁ、それならいいけどさ。……そういうんだったら、次はもっと良い魔石を用意しといてよ。今回は次でおしまい。豚頭(オーク)よりは戦果があるだろうけど、あんまり期待しないでね。」


 そういって会話を終えると彼女は球体を仕舞い、先ほどと同じように小石を取り出す。今度の小石は先ほどよりもすこし大きめで色合いも気持ち濃い目のように見える。女はその石をかざして、先ほどと同じように何事かを呟いた。そして投げられた石が砕け散ると、彼女の周りには新たな影達が現れる。先ほどの獣と同じく人型をしてはいるが、さらに肥大化した巨躯の魔獣。


「それじゃ、御褒美ってことでおかわりだよ~。」


 王都に再び影が降り注ぐ。そして彼女はそれを見送ることなく、翼を大きく広げると、何処かへと飛び去ってしまった。その直後、地上の王都からは再び阿鼻叫喚の声が響き渡るのであった。



――――――――



 王都上空より魔獣が降り注ぎ始めてら数刻後、市街地に残っていた兵士と騎士達により、街は何とか被害を抑え持ちこたえていた。


「そっちはどうだ? こっちはあらかた片付いたぞ。」


「こっちもだ。だが、被害が抑え切れなかった。」


 住民達を避難させ、街中に溢れた夥しい数の魔獣達を、互いの連携と地の利を生かした戦術であらかた掃討し、冷静になったところで俺達は改めて被害の大きさを認識した。

 突然のことだったため、街の人たちも逃げ遅れたり、人ごみの中で怪我をしたりと散々な有様だが、混乱をしていたのは何も市井の人々だけではない。

 戦闘を繰り返す中、徐々に街門から離れ、他の分隊と合流をしながら市街地の魔獣を殲滅してはいったが、一部の上官の指示の拙さで無駄に失われた騎士もまた相当数いたのだから。


「……実戦経験の無い上官ってのはホントに使えねぇ。」


 誰かに聞きとがめられたらヤバそうな言葉を呟きつつ、辺りを見やれば、生き残った上級騎士が命令違反だのなんだのと部下に向って喚き散らしている姿が見える。

 貴族出身の騎士というものは箔や名を得るために据えられた腰掛みたいなものだから、実戦の可能性のある戦場にはまず出ない。害獣だの野盗だのを相手にするような治安維持隊の街道巡回など以ての外だ。そして戦果も武勲も無いのに勝手に出世して、気づいたら何かの役職に付いている。俺達平民出とはそもそも住む世界が違うんだよな。

 まぁ、それだったら、有事の際には城の防衛だって建前用意して城の中に逃げ込んでいて欲しいとも思うわけだが。


「……そういや、ウチの上級騎士様はどこに行ったんだ……?」


 慣れ無い現場での戦闘に早々に逃げ出したか、それとも既に魔獣の餌食か……


「……まぁ、どっちでもいい、か……?」


 よくよく考えれば、俺は奴の前で堂々と命令を無視したし、下手に生き残られてもあとで面倒なだけだ。適当にどこかで倒れててくれた方が俺としてはありがたいな。


「はは、騎士失格だな。」


 気に入らない上官とはいえ、王都の危機で死を望むなんていう考えに自嘲しそう呟いて、俺はふと上を見上げる。その視線の先に新たな影が現れたことに気づいた。そして、その影は先ほどのように数を増しながら少しずつ大きくなっている。


「……第2弾ってことかよ、畜生!」


 それが先ほどのような敵影であることに気づくと、毒づきながら再び両手剣を構える。その声に呼応して、他の兵士達も武器を構え、魔術の発動体制を整える。


「敵襲! 再び空より敵襲!」


 同行していた他の騎士が叫び、他の兵士達は再び伝令を報せを叫びながら街中を走り回る。どうやら闘いはまだまだ続きそうだ。



――――――――



「ぐわっ!?」


「くそぅ……此処までか……」


 街門の中にある詰め所の中、通行人の確認をしていた衛兵達が魔術で魔獣たちを退けていた。最初の豚の顔をした魔獣は難なく退けられていたのだが、次に現われた一際大きな魔獣には対処し切れなかったのか、次々と魔獣の振るう豪腕により地に臥していた。


「嫌、こないで……」


 街門の通路に集まっていた馬車は馬を外して並べ替え、何とか簡易の陣地を作り、魔獣の襲来を拒むように配置された。街門の外にいた行列や、馬を移動させた人たちは先に街門から外側へと避難している。しかし、街門にいたのは馬車や馬での通行人ばかりではない。徒歩で入ってきた人たちもかなりの数がいたのだ。

 その中には流れの傭兵や魔術師もいたため、有事ということもあって魔獣退治に借り出されていたのだが…… 


「やめて、お願い……」


 しかしその命運も尽きたのか、馬車を並べ替えて誂えられた簡易な防壁は、再び現われた巨大な魔獣に殴り飛ばされ、ついにわたし達は獣の群れに追い詰められてしまった。それは、人の形をした二足歩行の化け物だった。頭部には角を生やし、腕も足も筋肉で膨れ上がり、身の丈は七尺ほどの巨人のような体躯のそれは、わたしたちを部屋の隅へと追い詰め、まさに今捕食しようとしているところだ。


「やめ……あぐっ!?」


 そんなわたしの願いもむなしく、わたしは魔獣の一体に身体を掴み上げられる。その巨人はわたしを喰らうべく大口を開け、その顔を近づけた。


 ――食べる……? わたしを食べるの……?――


 そんな時、わたしの心を、例のあの奇妙な感覚が支配した。


 ――……食べる、わたし……わたし、食べる……わたしを……わたしが……食べ…れる? 食べる、たべる、タベルタベルタベルタベ――


 直後、わたしの体に激痛が走る。恐らくは目の前の魔獣に食いつかれたか食いちぎられたか。でも、そんなことはどうでもいい。今は目の前の()()に集中したいから。

 そうして、わたしの意識はまたも暗転したのだった。



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