【単銃単剣 -ガン・エッジ-】
「久しぶりだな、カナタ」
俺は立ち上がり後ろを振り返る。
そこに居たのは美しく磨かれた白銀の甲冑を身に纏った女性ーー俺に長文メールを毎日のように送ってきていたプレイヤー、そして俺が所属するギルド【正八面体の結晶】の【ギルドマスター】カナタだった。
右の腰には長剣、左の腰には拳銃が収められている。その装備から分かるように【単銃単剣】と呼ばれる中遠近どの距離にも対応できるスタイルを得意とするプレイヤーだ。
その姿を確認し、自身の武器をアイテムボックスに送る。
「この頃、ログインしていなかったみたいだけど……何かあったの?」
彼女は心配そうな目でこちらを見る。
「あー、いや。自宅の無線サービスが故障してな」
俺はログインできなかった事情を正直に話す。それを聞き、彼女は安堵の息を吐き口を開く。
「良かった。心配したんだよ、もしかしたらアヤト、AO飽きちゃったのかと」
「いや、そんな事ないさ。ここまでかなりの時間をこのゲームに費やしてきたからな」
「そう。うん、多少予定が狂っちゃったけど、それなら大丈夫かな」
俺は彼女の言葉に引っかかりを覚え、聞き返す。
「予定?」
「あ、うん。個人的な話だから気にしないで」
少し気になったが現実の方に関係する話の可能性を考え、それ以上は詮索するのをやめる。
「そういえば、アヤト。どれくらいレベルは上がった?」
「おかげさまで、こんな短時間で7も上がったよ」
そう答えながら、そろそろ敵がリポップする時間だった事を思い出す。
「そろそろ敵が湧くから、場所変えるか?」
俺がカナタに提案すると、彼女は目を瞑り深く思案する。そして何かいい考えが思いついたのか目を開き、満面の笑みで口を開く。
「私、アヤトと行きたい場所があったの」
彼女はアイテムメニューを開く動作を行い、結晶型のアイテムオブジェクトを取り出す。
それは【転移門結晶β】というアイテムだった。
βの名前から分かる通り、もう一つ【転移門結晶α】というアイテムがあり、それとセットで使用するアイテムだ。αを最後に使用した地点を保存し、βを使用する事でその地点への転移門を開き、パーティメンバーを転移させる事ができるというアイテムだ。
……確か中層裏ボスのレアドロップのため、希少でかなりの値段で取引されているアイテムだったはずだ。
俺はそんな物を躊躇なく取り出したカナタの笑顔に何か嫌な予感を覚えながらも……。
「まあ、俺に候補はないから、カナタが行きたい場所でいいぞ」
と答えてしまった。俺の返事を聞いたカナタはメニューウィンドウを操作し、パーティ申請を送ってきた。俺は迷わず【承諾】を選択しパーティに加入する。
「パーティの加入確認。じゃあ使うね」
彼女はそう言って目を閉じる。そして意を決したようにその言葉を口にした。
「【転移門結晶β】解放、【第147階層・宵闇の吸血城】保存地点αへ!」
……。
「え?」
俺に何か意味のある言葉を発する事が出来る時間は残されていなかった。周囲が青白い光に包まれ、ログイン時のような一瞬の浮遊感と共に転移が開始されたーー【第147階層・宵闇の吸血城】。全くの未開地、事実上の最前線への転移が。
【単銃単剣】
アヤト、カナタが得意とする拳銃と片手剣を装備した基本的な戦闘スタイル。近距離、中距離に対応することができる。
それに加えカナタはコードスキル、アヤトは装備している武器の付加スキルにより遠距離戦闘を可能にしている。