【有天・紫電蒼光】
右手の剣を振り抜き間近の骸骨を切り裂き、一歩後退し距離を取る。ダメージにより怯んでいた敵に向け左手の銃を構え射撃。青緑色の魔力弾が敵の頭を吹き飛ばす。
撃破。
後方の敵に狙いを変え引き金を引く。
光が視界を横切り骸骨の左腕が宙を舞う。引き金を引く。チラと横目で敵が近づいてきているのを確認し、遠くの敵へ向けて残弾を撃ち尽くし、足止めをする。
そして切りかかってきた敵の剣を右手の剣で弾きかえす。そのまま剣と剣を打ち合いながら、左手では空になった魔力蓄積弾倉を片手で外し、新しい魔力蓄積弾倉を装填する。
「一世一夜に人見殺。見敵必殺、【無天・攻刃】」
俺はスキルを発動し攻撃力を上げ、接近してきていた敵に剣を振るい、牽制しながらさらに後退する。よし、視界に全ての敵を認識。
「我は弓、汝は矢。其は鉄を駆ける者、其は地を這う者、其は命を刈り取る者。その名は雷。神の怒りの代行者よ、顕現せよ!【有天・紫電蒼光】」
詠唱。再びスキルを発動し、剣を振り下ろす。それを合図にして俺の背後に雷光で形取られた刃が出現する。その数は十二。俺が存在を確認している敵と同数。
「殲滅せよ」
その言葉と同時に視界を光が埋め尽くす。超高速の剣は宙を舞い、踊るように全ての敵を切り裂き、地を伝わり、ライフゲージを一瞬で削り取り、敵の消滅エフェクトと同時に空中に霧散した。
《Lv上昇 806→807》
「……はぁ」
出現していた敵を全て殲滅し、一息つく。この一帯の敵が再出現するのは約5分後といった所だろう。
分かっていた。
分かっていたことなのだが……。
「進まねえ……」
レベル上げが進まないのだ。いや、実際のところはかなり進んでいるほうだとも言える。
この短時間で7レベルも上昇しているのだ、ここの階層の効率が良いと言っていた彼女の目に間違いはなかったのだろう。
俺は別段、レベリングというものが嫌いなわけではない。
取得経験値確認画面で次のレベルまでの残り必要経験値量が少しずつ減っていくのがたまらなく楽しい。あの単純作業なら幾らでも続けられる自信があった。
単純作業ならの話だが。
「……少し休むか」
俺は自身のステータスバーを見る。SPの値が減っていることを確認し、そう呟いた。そして、近くの枯れ木の幹に背中を預け、座り込み数分の休息を取ることにした。
このゲームにはSPが存在し、長時間、戦闘行動、逃走、道具作成などを行っていると減少していき、SPが空になると行動できなくなるのだ。
一定時間の休息をとればSPは回復し再度行動が可能になる。しかし、回復するのは仮装データで割り振られたアバターのスタミナであって、思考をし行動している自身のスタミナではない。そう、この世界では現実と同じく疲労を感じるのだ。
レベリング作業を続けることができない理由の一つ、それはこの疲れだった。
アバターが元気でも身体を動かすという行動をするたびに操作するプレイヤーが精神的に疲れるのだ。
「やっぱり、パーティぐらい組んでくるべきだったか」
そしてもう一つの理由。それは今行っているレベリング作業がこのゲーム中で最も経験値効率が悪い方法だということだ。
AO内の経験値分配の設定はこうなっている。
・自身が組んでいるパーティメンバーが倒した敵Mobの経験値の五割がパーティメンバーにも加算される。(パーティメンバーとのレベル差により多少の増減有)
・一度でも攻撃した敵Mobをパーティメンバー以外の他のプレイヤーが倒した場合、敵Mobの経験値の三割が攻撃したプレイヤーに加算される。(このシステムのせいでモンスタートレインを他のパーティに押し付け経験値を稼ぐという迷惑行為が行われる事もある)
・自身が召喚した召喚獣が倒した敵Mobの経験値の全てが加算される。
そして今、自分が行っているのは『パーティを組まず』、『多人数のプレイヤーがいる狩場でレベリングを行わず』、『召喚獣を召喚していない』という、本当の意味で自分で経験値を稼ぐしかないという方法だった。
俺は自身の装備一覧を開き付加スキルの一つを睨みつける。
【獣の数字】
俺が持つ唯一の召喚系スキルだった。ただしこいつは燃費、使い勝手、ともに最悪で経験値稼ぎなどという細かい作業には全く向いていない召喚獣なのだ。
「……はあ」
俺は深くため息をつく。もうすぐ休憩をし始めて五分ぐらい経つだろう。俺は重い腰を上げ……。
「久しぶりね、アヤト」
その時、背中から彼女に声をかけられた。
ーーAO内、最強のプレイヤーに。
【スキル】
スキル習得時に設定したコードを詠唱することによって発動することができる。
同一のスキルでも【詠唱破棄】、【短縮詠唱】、【完全詠唱】と別々のコードを設定でき、詠唱の長さによって使用するEP、威力などが変動する。