【仮想現実-Alternative Online-】
『仮想現実 』。
オルタナティヴ。
二者択一、代替世界。
既存の世界の代わりとなるもう一つの世界。
かつて世界に栄えていた古代文明の遺跡より発掘された謎の量子コンピューター『Aeon』。
その内部に広がる広大な電子仮想世界を舞台に繰り広げられる『開拓者』と呼ばれるプレイヤー達が紡ぐ自由な物語がそこにはあった。
◆
俺は最後にログアウトしたプレイヤーホームに建っていた。古代の塔という巨大ダンジョンのすぐ側にある街、『アンクルカ』の一等地に立つ高級マンションの一室だ。
家具の類は少なく、部屋の中心に簡素なテーブルと椅子、壁際にアイテムを保存するアイテムボックスがあるだけだ。
半年前はThe・仮想世界というような近未来デザインなプレイヤーホームを拠点としていたのだが、すぐに使いづらさに気づき、見慣れた感じの落ち着いた部屋の方がいいとここに引っ越してきたのだ。
俺は指を空中で動かしメインメニューを開こうとし……。
「うおっ!」
突然に出現した半透明のメッセージウィンドウに驚く。
『【カナタ】さんから17件のメッセージが届いています。』
『【マルティカ】さんから1件のメッセージが届いています。』
『【†斬†】さんから3件のメッセージが届いています。』
『その他のプレイヤーから合計37件のメッセージが届いています。』
俺はメッセージウィンドウの内容を確認してため息をつく。
「あー、うん。一週間もログインしてなかったら、こうなるよな」
中身は廃人フレンドからの安否確認のメッセージが殆どだった。中には24のクリスマスイベントまでにログインしなかった場合ギルドから追放するぞとかいうおっかないメッセージが見えた気がするが気にしない事にした。……廃人、怖いでしょう。
俺は最後に、一人だけ件数が異常な【カナタ】のメッセージリストの一番下のメールを開く。
『【カナタ】 今日は145階層の攻略に参加しました。敵Mobはアンデッド系のモンスターが中心で物理攻撃力が高い反面、物理防御力が低く量を捌くのに適したステージでした。今後、ログインする機会がありレベリングを行うなら第145階層『夢幻の古戦場跡』をオススメします』
……。
他のメッセージも、日記のような語りから始まり俺へのアドバイスやメッセージで締めてあった。
「お前は俺の母ちゃんか!」
まるで引きこもりに語りかける家族のようなメッセージに大声をあげてツッコミを入れてしまう。しかもなぜメッセージが敬語になってるのか。
「……考えるだけ無駄か」
自由奔放な彼女の姿を思い浮かべ、ため息をつく。
俺はメール機能を立ち上げて、それぞれのメッセージに返信を返す。そして俺は次にフレンドリストを開き、フレンドのレベルを確認する。
・【アルシャード】Lv.850
・【村人Z】Lv.850
・【カナタ】Lv.850
・【Clowd】Lv.792
・【マルティカ】Lv.832
・【†斬†】Lv.843
俺は一ページ目に表示された六人のフレンドのレベルを見て悔しい思いをする。
前にログインするまでは800でレベルが並んでいたのに、上の奴らとは50も差がついてしまっているのだ。
「……うん。古代の塔の新層とかも気になるけど、先ずはレベル上げだな」
俺は今日の予定を決め、カナタオススメの古代の塔145階層『夢幻の古戦場跡』へと向かった。
【古代の塔】
Aeonの内部世界の中心に存在する巨大な塔。
250階層まで存在するAlternative Online最大のダンジョン。
最新のアップデートで第150階層までが解放されており、現在、第146階層までが攻略されている。