1-7 家帳
「…。そうね。貴方知らないのよね…」
小さく微笑浮かべながらカップに紅茶を注ぎ、コクッと一口飲む彼女。
笑っているといえばそうなのだが、普通の笑顔とは違う複雑な顔で龍我を見つめ、口を開いた
「…知っとかなければならない話しだし。」
龍我から視線を逸らし、「ふぅっ」と息を吐くとまた龍我を見つめた。今度は複雑な笑顔…ではなく、真面目で凛とした顔立ちで。
「そうね…。じゃぁまず、貴方の家の情報を教えてくれないかしら?」
「俺の家の情報?なんでだよ」
頭にはクエクションマークが浮遊するぐらいに、彼には意味が分からなかった。
首を傾げ、ついつい強めの口調で行ってしまう。
「”家”と付くぐらいなのだから家柄とかの話なのよ。…で、どうなの?」
龍我は思い出すためにカップに手を運び、一口啜る。そして「ふぅっ」と息を吐くと、小さく口を開いた。
「…俺は両親の顔をあまり覚えてない。小さい時から海外に居たそうで顔合わせなんかほぼしなかった。…だから俺は、祖父母の元で育った。」
ぽつりぽつりと話す龍我の声は、部屋に響き渡り、余韻を残す。
彼は続ける
「…家はそこまで大きく無かったし、メイd……お手伝いさんは時々来るぐらいだから、普通の家庭だったんじゃないかな。親はほとんど家にいなかったけど。」
メイド、という単語を言いかけて慌てて咳でごまかす龍我だが、彼女はそこは気にしていなかった。
彼から見ると、彼の居た状況を本心から悲しんでいるようにも見えた。
一度訪れる沈黙だが、希白の息を吸う音が漏れた。
「…そうだったの。…家帳というのはね、有名な家系のことを言うの。」
「家系の?」
小さく、細々とした声でそう呟いた希白だが、咳をして凛とした顔に戻す。
それに気づいた龍我は慌てて元の顔に戻し、疑問を飛ばした。
彼女はピースサインをして、2つという言葉に置き換えた。
「家帳の意味は、地位の明白にすることと、この学園で多少優位なほうに進むように決まっているのよ。」
そこで一呼吸おいた希白は、覚悟したかのように口を開いた。
その声はやけに静かに、小さく、部屋にこだました。
「…そしてあなたは、世界で3本の指に入るほど有名な、”龍我家”の家系の唯一の子孫なのよ」
一瞬訪れる沈黙。彼は自分自身を指さし、口を開く
「…俺が?唯一の?」
「えぇ。最後の龍我家の。」
希白はコクリと頷き、立ち上がった。
もう何を聞いても答えてはくれないだろう。その分かり切った空気を再認識させるためなのか、希白は口を開いた。
「さて。今日の質問はここまでね。…なんかあったら今日以降に聞いて頂戴。」
「…あぁ」
「じゃぁ、頼まれていることだし、貴方に学園内案内するわね」
希白はくるっと半回転し龍我に向かって微笑み、そう言った。
彼も微笑み返し、口を開く
「あぁ。それはありがたいな。宜しく頼むよ。…だけど、俺の寮は?」
これだけは聞いておかないと、と思っていたことなので口にする。それを知らなければ生活するのにも不便だし、何も出来ない。
それを知ってなのか、彼女はニコリと微笑み、龍我の手へと校章を落とした。
「とりあえず、次のテストまではダイヤモンドクラスね。そして、水晶もあげるわ」
ころっと綺麗なダイヤモンドと、透明な水晶の交渉が手に落ちる。
慌てて龍我は水晶を希白のほうへと向けた。
「ちょっ、ちょっと待て!なんで水晶まで!?」
「ダイヤモンドは一番上。何かと面倒なことがあるから、偽名で水晶クラスに入れているの。…まぁ貴方の場合は家帳に名前が普通に載っているから、普段から偽名を使ってもらうんだけどね。」
どうやら、ほどんとのダイヤモンドの人は水晶クラスの証も持っているようだ。
それが本当なのかは龍我には分からなかったが、ダイヤモンドでチヤホヤされるよりはマシだと考え、ポケットに水晶をしまうのだった。
「さて、じゃぁ行くわよ。学園内部。貴方の偽名やその辺の詳細は、目的地に向かいながら話すわね」
ニコッと微笑んだ彼女は扉を開ける。
龍我にとって新しい生活の幕開けである…。
第一章:END
…さて、小説でいう、一巻目の最終回を迎えました。
…次はあとがきですので、見たい方だけでどうぞ。