1-1 彼女の正体
彼女は、ベッドの隣にある小さな腰掛けに腰を下ろすと、改めてお辞儀をしてきた。
「…まぁ、その前に。自己紹介するわね。」
そう言うと彼女は胸元らへんに手を添え、また、小さく微笑し、口を開いた。
「私の名前は、希白 麻綯よ。この学園…四魂学園の生徒会長をやっているわ。よろしく。」
龍我に向かって差し出してくるその手は、色白で、小さかった。
きょとんとした顔で、仁は一瞬固まっていたが、慌ててそっと手を握る。
「…あ、あぁ。よろしく。…龍我 仁です」
「存じ上げてるわ」
サラッとそう返す希白は、すぐに真顔へと戻し、左手に持っていた資料を徐に開き始めた。
そして、資料を見ながらそっと口を開く。
「仁さん。家系同士の繋がり…すなわち、家帳をご存じ?」
龍我は考えるが、そんな言葉は聞いたことがなかった。
家では、部屋で読書をしていることが多いし、部屋の外に出ると、知らない人たちがいそいそと動いているので、ご飯や特別な外出以外、外には出ないようにしているので、テレビとか、両親の部屋に入ったこともないのだ。
そもそも、情報を得る場が学校だというぐらいなのだから。
「…いや、聞いたことない。それがどうしたんだ?」
首を傾げながら、希白へと聞き返す。
その返答に対して、希白は目を見開いた。
「…え、一度も?」
「あぁ。一度も」
「本当に?」
「本当に」
「絶対?」
「絶対」
そして訪れる沈黙。
気まずい雰囲気を漂わせながらも、希白は資料ノートを閉じた。
落ちてきていた髪をさっと分けると、立ち上がろうとするところを、龍我が腕を掴み、制した。
「…何か?」
表情を変えないまま、龍我にそう返す。
「何か?…じゃない!ここどこだよ!?」
彼女は”四魂学園”というフレーズを口にした。ということは、学園…すなわち学校…なのだろうか。
だが、予測だけではここが本当にどこなのか分からない。その不安が龍我は嫌だったのだ。
その問いかけに、小さく微笑し、自分の腕をつかんでいた龍我の手を握り、そっと、ベッドへと戻した。
「そうね。…その質問には後で答えてあげるわ。…すみません」
カーテンの外側で、そっと希白が手を上げると、白衣を着た人が数名走ってやってきた。
「彼を最終診察してくれるかしら?」
そう希白が言うと、白衣を着た人達は一斉に頭を下げた。
”了解した”と言う意味なのだろう。
彼女はクスッと微笑むと、カーテンへと消えていった。…が
すぐに顔だけをだして
「あぁ。彼だけれど。」
白衣の人は一斉に希白のほうへと体を向けるが、頭は上げない、そのままの姿勢だ。
「診察終了したら、私のお部屋に通してくださいね」
さらに頭を下げた。ところを見ると2つ目のお願いも了承されたのだろう。
いつもそんな感じなのか、それを確認すると、希白は龍我を見て、微笑すると、今度はカーテンの裏へと消えていった。
小説でいう、1巻の1章目の回でございます。
彼女の正体がわかりましたね。
次回は、四魂学園の表の顔が見えてくるのではないでしょうか。
勘のいい人は、裏の顔もわかってしまうかもしれませんね。
まぁ、いろんな意味で楽しんでいただければ幸いです。