地下室にて-Prologue-
鉄の冷たい温度が私が生きて熱を持っている事を教えてくれていた。
黴臭い地下に放り込まれてから何年が経ったんだろう。
石造りの暗い部屋に響く水滴の落ちる音がたまにして耳を楽しませてくれる。
布擦りの音一つしないこの部屋で唯一私が気に入っている他人が奏でる音楽だった。
木の板に少し分厚めの布をかけただけの硬いベッドに座るとギシリと音を立てる。
日課を終えた私は剣を目の前に掲げていた。
物心付いた時には私は剣を握っていた。
刃は潰されておらず、鈍く光るそれは所々血錆びを浮かべていた。
≪切る≫
それだけが私の自己。
私に父親の記憶は無い。
私に母親の記憶は無い。
あるのは饐えた匂いの地下室と、肉と骨を断ち切る感触と、そして血の匂い。
私は勇者、(仮)が取れない勇者。
勇者候補生としては0925番目の。
最初の「0」は必要なの?
と言いたい所だが1000人単位で勇者候補生を集めては勇者を選んでいっていると聞いたから一応必要なのだろう。どうだっていいが。
私に与えられていた情報は少なかった。
私に割り当てられていた部屋には世界中の魔物の詳細なデータ、各種の剣術の指南書、各種の魔術の指南書、あとは各地の地図。そして一般的な知識を集めた本。それだけだった。
地図には場所によっては挿絵が入っていて、それを見るのが私の楽しみだった。
剣を振り、苦手な魔法の練習を少しして、一通り汗を流してから木の上に分厚い麻布を敷いて作られたベッドの上で剣の手入れをした後に地図を読む。
いつも通りの1日の過ごし方だった。
そんな私の楽しみも望まない来訪者によって奪われるようだ。
石畳の階段を下りてくる音がする。
コツンコツンと響く靴音は私の部屋の前まできて止まった。
「0925番、出番だ」
職員の声で私は立ち上がる。
いつも通り剣を腰に携え、部屋(独房)を出る前に両手を部屋のドアに小さく空いた窓に差し出す。
カシャン。と音を立てて手錠を嵌められる。
「よし」という職員の声と共にドアが開く。
職員に連れられて部屋を出て、明かりの少ない廊下を歩いていく。
湿気が多く苔むした廊下と壁。
まるで本に書いてある洞窟ね。と頭の中で独りごちる。
行き場はいつもの通り。
暫く歩いていけばアリーナの入り口に着いた。
職員といったが奴隷の管理人とでも言ったほうが納得されるような強面の男があごで扉を指し示す。
「入れ」
私は深く溜息をついて扉に手をかけた。
──今日は
誰を殺すのだろうか──
どうも初めまして。瑠璃です。
女性が主役のファンタジーというのを書いてみたくて、その上でちょっとしたエログロナンセンスを織り交ぜてみようという悪戯心で始めてみました。
悪意を戯れ程度に出しながら進めていきます。
宜しければお付き合いくださいませ。