12月20日
クリスマス・デストロイヤー。
“あいつ”がそう呼ばれるようになってからおよそ10年が経つ。クリスマスイブの深夜にのみ現れるそいつは、子供のいる家に侵入し親が枕元に置いたクリスマスプレゼントの中身を蒟蒻やら木綿豆腐やらにすり替える、なんともくだらな……非道な犯行を繰り返す、最低最悪のサンタクロース。クリスマスの破壊者だ。
その被害に遭うのは都会から少し離れたここ、釘丘町だけ。
何ともトリッキーなことに、その犯人は未だに捕まっていないのだ。すごいのかすごくないのかは分からないけれど、私たちは、一年でも早く犯人が捕まることを願っている。
「未紗や。メシはまだかのう……」
私は今、入院中の祖父のお見舞いに来ている。
「……じーちゃん。ご飯は一日三回って決めたじゃない」
「えー、じいちゃんは一日六回食べないと元気が出ないんじゃよ……」
「元気が出なくっても病院のご飯は三回しか出ないのー! あとその無駄に年寄りみたいな喋り方、やめてよね」
「ちっ……。つれねーガキだ……」
祖父はもう60歳になるというのにそのファンキーさは未だ衰えを知らず、むしろ最近はより若々しくなったように思える。
私の両親が交通事故で亡くなって以来、祖父は私を男手一つで育ててくれた。祖父も2年前に妻を亡くしており、当時は傷心していたものだ。妻のいない寂しさを、両親のいない寂しさを、祖父は、私は、二人で少しずつ克服していった。
そんな祖父も老いには勝てなかったようで、今年の夏あたりからこうして寝たきりになっていた。
精神はまだ元気そのものなので、それだけが唯一の救いだ。
「ところで未紗お前、今年もクリスマスは―――」
「うん。やるよ」
「そうか……くれぐれも気ぃ付けてな」
「大丈夫だよ。心配しないで」
私は祖父の手を一度きゅっと握り、立ち上がる。
「それじゃあまた、明日」
ユニオンジャックのストールを首にぐるぐると巻き付け、私は病院をあとにした。