肥溜めの死体
蝉の声が耳から離れない。
もう日はとっくに暮れているはずだ。だのに、蝉の騒がしい鳴き声が止まなかった。ああ、頭の中に糞と一緒にこびり付いてしまったのだろうか。それとも、山の中なのに街と何も変わらない、このジメジメとした蒸し暑さが、蝉たちを狂わせているのか。
ともかく、こうも暑いと、死体が臭くて仕方ねえ。
参った。俺は今実に参っている。なんでこんな時期に、こんなところに、捨てやがった。よりにもよって山奥の肥溜めの中に突っ込むなんてことを。馬鹿野郎としか言いようがない。俺はどうすりゃいい。出来ることならここを出て誰かに知らせたいが、今の俺はそれも出来ない身の上なのだから、なお始末が悪い。俺を捜索している奴らの声が、蝉の鳴き声に混じって聞こえて来る。勘弁してくれ。全くもって、参ったとしか言いようがない。
蝉は鳴り止まない。糞尿の臭いと腐敗臭とが入り混じって、目に見えそうな程の異臭が辺りを漂っていた。その悪臭は俺の身体の穴という穴から入り込んできて、グズグズと蠢き回ってやがる。吐き気を感じる気も失せた。頭も、もう機能しなくなったのだろう。ああ、なるほど、ここなら腐敗はぐんぐん進んで、すぐに死体は誰だか分からなくなるという寸法だったのか。よく考えられてるじゃねえか、畜生が。感心している場合じゃないのは自分自身が一番分かってんだ。でも感心している場合じゃないなら、どうすりゃ良いんだよ? いや、それも分かっている。
もう、どうしようもないんだ。
あーあ、早く誰か気づかねえかな。
身体が臭くて、仕方ねえよ。