4日 よかったやん
発芽した目は成長を止めることはなく、ひたすら伸び続ける。伸びなくなった時、それは単純に出会いの終わりとみるべきだ、と誰かが言っていたらしい。
三日目になっても、私はここにいる。
木陰がすごく気持ちいい。
今日は風があまりふかないのが残念だった。
おひるごはんを食べ終え、おやつの時間ぐらいになった。
少しその辺を散歩し、本を閉じようとする。
そして、そこで重大なミスに気がついたのだ。
本を閉じるときには必ず必要な『アレ』がないのだ。
どこかに簡単に吹き飛んでしまう【アレ】が。
お母さんから珍しくもらった『栞』がない・・・・っ!!
「な、なんで・・・・。」
カバンのなかをあざくる。
当然、なかった。
どこかで落としたらしい。
けっこうな時間歩いたハズだ。
しかも、この田舎、景色がどこでも変わらないから目印とかもない。
「ど、どうしよう・・・。」
お母さんは昔から忙しい人で、もらったプレゼントは数すくない上に、貴重なモノが多い。
もしもそれを失くそうものなら怒られる。
怒られる、髪を逆立てて怒られる。
私の夏休みが血の色になってしまう!!
あわてて探し歩く。
カバンをしっかり握る。
どうして、私はなんか色々と抜けてるんだろうか?
夕方になった。
まだ太陽は明るい。
受験のときから伸ばし始めた髪の毛は、セミロングとロングの中間まできた。
「なんか、ヘアゴムとかもってくるんだったなぁ・・・。」
薄笑いをしながら下を向いて歩く田圃道。
見つからないまま、とぼとぼ歩く。
できるかぎりの人に話しを聞いたりしたけれど、
栞一枚、簡単には見つからないのだった。
どうしようかと考える。
警察に届けを出そうか・・。
いや、栞一つに?
おばあちゃんに相談しようか・・。
だめだ、お母さんに報告されて終わりだ。
栞なんてもらってなかったことに・・。
できるわけないしなぁ・・・・。
自問自答を繰り返しながら、ひたすら歩く。
まさか、田んぼに落ちたのだろうか。
それだけは避けたい。
探しようがないじゃないか、こんなの。
紙切れ一枚に等しい、あんなものを、このだだっ広い田舎で探すなんて。
もう、あきらめなくてはいけないのかと、思案する。
集中している私の背中に声がかかるが、無視する。
どうせ、田舎ッ子だろう・・・。
「・・・・・・・・!!」
うるさいので指で耳をふさいでみる。
「・・・・・・・・・・・!!」
まだ言うか、田舎ッ子め。
逃げてやるぞ、さすがに。
砂利の音がする。
相手も走っているらしい。
とはいえ、私も現役高校生。負けるわけにはいかない。
耳をふさぐのをやめると声が入る。
「おいっての!そこの女子高生!」
「・・・・・。」
なんで女子高生ってわかるんだこいつ。
後ろを振り返らずそのまま走り続ける。
そのあいだもひたすら声をかけてくる田舎ッ子。
「夏休みにもかかわらず、制服きてる高校生っ!!」
あぁ、そうか。私制服来てるんだった。
だからわかったのか、痛いとこついてくるな。
「夏休みなのに一人で、歩いてる高校生ってば!!」
今それはいわなくていいんじゃないかな。
傷つくんだが、ココロ折れるんだが。
やがて田舎少年(?)は走るのをやめたらしい。
私もスピードを緩める。
そして、そこに、最後の一声。
「夏休みなのに彼氏もつくらず、私服センス階無の半泣き女子高生ーーーーーーっ!!」
最後にまとめていいやがった。
事実を淡々とまとめていいやがった。この少年。
顔も見たくない、こんなやつ。
また、走ろうとすると、
「聞こえねぇーのかっ!のろまっ!独り身!ださ子!」
「もういっかい言わなくていいんじゃないかなっ!!!?」
さすがに聞き捨てならない。
第一、こいつ私に追いつけなかったくせにのろまだと・・。
後ろを向いたまま叫んだ。
思いっきり叫んだ。
少年は少々驚いたようで、しばらく声をあげなかった。
私は後ろを振り返る。
私の後ろ25メートル地点に、少年は棒立ちしていた。
本当に驚いたらしい。
少し、自分を反省した。
みれば、少年はまだ中学生ぐらいだった。
二年前に見たあの少年と同じぐらいに見えた。
けれど、あの少年とはあきらかに違っていた。
日に焼けた黒めの肌。
中学ジャージの袖をまくりあげている。
髪は明るい茶色をしていて、腕にはリストバンドが見えた。
どうやら、スポーツ少年らしい。
『夏』が似合う少年だった。
少年は笑って、言った。
「聞こえてんなら、反応してや。」
「・・・・・ごめん。」
なんで私がこいつに謝らなきゃいけないんだよ。
順番逆だろう。
少年は私の前まで歩いてきた。
近くで見ると、キレイな顔立ちをしていた。
「そっちこそ謝ってよ。人こと独り身だのださ子だの、足が遅いだの・・。」
足が遅いのはそっちじゃないかと、言おうとして気付いた。
七分の中学ジャージの下には、
下駄を履いていた。
これであのスピードで走りながら喋ってたのかこの少年。
いままでにない、かなり高レベルだ。
「事実だから、しょうがないやろ。」
少年は明るく笑った。
息が乱れていなかった。
そして何故かエセ関西弁だった。
敗北感を感じた。いくらバスケットから離れていたとはいえ、こんな中坊にまけるとは。
「それでも、言い方ってもんがあるでしょ。」
「そりゃ、そやな。」
そこで、なぜ『すまん』の一言がでないんだ。
最近の田舎ッ子は・・・。
ん?
違和感。
この子本当に田舎ッ子か?
田舎に子供はそんなに多くない。
ほぼ毎年来てるんだから、顔くらい覚えているが、こんなこみたことない。
そもそも髪が茶色の田舎ッ子なんておかしい。
しかも、この子まで中学生じゃないのか?
少年は少し小首を傾げた後、急に自己紹介を始めた。
「オレな『ハル』って言うんよ。よろしくな。陸上部やってん。」
「はぁ・・・。」
生返事を返す。
何故ここで自己紹介・・・。
陸上部と言うのなら、あの速さも少しは納得できる。
「あんたは?」
少年は私の顔をまっすぐ見て訊いてくる。
『夏』みたいな雰囲気のくせに、『ハル』だなんて・・。
名前、ってそんなもんか。
「名前?」
「そそ。」
そもそもこいつなんでフルネームを名乗らないんだ。
自己紹介なのか、これ。
「・・・・『ハヤ』だよ。よろしく、高2だよ。中学生ぐらいなのに足速いね。」
丁寧にも歳までいってやった。
『ハル』が年齢を名乗らないところからして、中学生で間違いないのかもしれない。
訂正する素振りもない。
そのかわりに、ちょっと切なそうな顔をした。
「ん、せやな。オレ足速いのはとりえやねん。」
何か、まずいことを言ったのかもしれない。
ちょっと気まずい。
「てか、本当に高校生やったんか。わかいなぁ。」
いや、そっちの方が若いだろうに、何言ってんだこの少年『ハル』は。
そもそも、なんで私ハルと喋ってるんだっけ?
「それで、何か用事?」
「あぁ、せやせや。」
ハルは、ポケットを探った。
そして、
「はい。」
と、飴をくれた。
私の手に、ぽんとおいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
「あ、まちごうた。」
そういってもう一回手を突っ込む、反対のポケットに。
「こっちや、こっち。」
そういって、笑って私の手に置いた。
少し汚れていたが、お母さんからもらった栞だった。
「・・・・なんで、これ。」
「あんた町中に聞きまわってたやろ。オレ、顔広いからみんなから言われてん。
『高校生らしき子が探し物してる』ってな。なにぶん田舎やから、
話題なんてみんなモノ珍しいものに限られるねんな。だからや。」
あまり、説明になっていない。
いや、確かにそのことも重要だが、
私にとって、この栞がどこに会ったかの方が知りたかった。
「それで、なんで、これを・・。」
「ん?あぁ、あんた河原のとこで本読んどったやろ?
あそこ、橋の方からよう見えるねんな。だから、知っててん。」
「はぁ。」
「そんでな。探し物してるって言うから、河原の方探してみてん。
したら、ベンチの木と木の間に挟まっとってな。あんたテンパってて気付かなかったやろ。」
よくはわからないが、
少年は私のことを橋から見たことがあり、
私が本を読んでいることを知っていたらしく、
町の人から私が探し物していることを聞き、それを発見し、
ついでに私まで発見してくれたらしいのだ。
「気をつけや、ひとりで歩いとったら、危ないで。」
「あ、ありがとう・・。」
「よかったやん、見つかって。」
何かはわからんが、私はハルにひとまずの命をすくってもらった。
少し、大げさだが。
「ほら、送ったるさかい、ついてきい。」
少年は私に背を向けて歩き始めた。
背格好とか表情は子供なのに態度は何故か頼りがいがあった。
「あんたの家どこや?」
知らないのに、格好つけたのかよ。
ていうか、なんで『あんた』『あんた』って名前で言わないんだ。
「『あんた』じゃないよ。私の家は、小林夏実さんの家だよ。」
「えっ!?そしたら『ハヤ』金持ちやん!」
すっごい、ナチュラルに下の名で呼ぶんだな。
この年の男子ってもうちょっと複雑なものじゃないのか・・・。
あっぴろげというか、なんというか・・。
「私は金持ちじゃあないけど、おばあちゃんがね。」
「へぇ~、そんでもすごいやんけ。うらやましいわぁ。」
ハルは私を見て笑った。
ハルは私の家につく間色んな話しをしてくれた。
今日、私を発見するまでの経緯とか。
夏休みの私の様子とか、おばあちゃんの噂とか。
ハルは、田舎っ子と違って、私をモノ珍しげな眼で見なかった。
それが、ちょっと嬉しかった。
あの少年とは正反対だけれど、ハルは私が気を許せる相手になってくれるかもしれない。
夏休みに、少し感謝した日だった。
ハル登場~☆
どうにもハヤのつっこみは手厳しいですが、根は素直ないい子ですよね。
ハルくんの関西弁がちょっとおかしいのはしょうがないんです。
しょせんエセですからね。