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夏休みハルと春  作者: 栖樺
4/5

4日 よかったやん


発芽した目は成長を止めることはなく、ひたすら伸び続ける。伸びなくなった時、それは単純に出会いの終わりとみるべきだ、と誰かが言っていたらしい。


三日目になっても、私はここにいる。

木陰がすごく気持ちいい。

今日は風があまりふかないのが残念だった。

おひるごはんを食べ終え、おやつの時間ぐらいになった。

少しその辺を散歩し、本を閉じようとする。

そして、そこで重大なミスに気がついたのだ。

本を閉じるときには必ず必要な『アレ』がないのだ。

どこかに簡単に吹き飛んでしまう【アレ】が。


お母さんから珍しくもらった『栞』がない・・・・っ!!


「な、なんで・・・・。」

カバンのなかをあざくる。

当然、なかった。

どこかで落としたらしい。

けっこうな時間歩いたハズだ。

しかも、この田舎、景色がどこでも変わらないから目印とかもない。

「ど、どうしよう・・・。」

お母さんは昔から忙しい人で、もらったプレゼントは数すくない上に、貴重なモノが多い。

もしもそれを失くそうものなら怒られる。

怒られる、髪を逆立てて怒られる。

私の夏休みが血の色になってしまう!!

あわてて探し歩く。

カバンをしっかり握る。

どうして、私はなんか色々と抜けてるんだろうか?


夕方になった。

まだ太陽は明るい。

受験のときから伸ばし始めた髪の毛は、セミロングとロングの中間まできた。

「なんか、ヘアゴムとかもってくるんだったなぁ・・・。」

薄笑いをしながら下を向いて歩く田圃道。

見つからないまま、とぼとぼ歩く。

できるかぎりの人に話しを聞いたりしたけれど、

栞一枚、簡単には見つからないのだった。

どうしようかと考える。

警察に届けを出そうか・・。

いや、栞一つに?

おばあちゃんに相談しようか・・。

だめだ、お母さんに報告されて終わりだ。

栞なんてもらってなかったことに・・。

できるわけないしなぁ・・・・。

自問自答を繰り返しながら、ひたすら歩く。

まさか、田んぼに落ちたのだろうか。

それだけは避けたい。

探しようがないじゃないか、こんなの。

紙切れ一枚に等しい、あんなものを、このだだっ広い田舎で探すなんて。

もう、あきらめなくてはいけないのかと、思案する。

集中している私の背中に声がかかるが、無視する。

どうせ、田舎ッ子だろう・・・。

「・・・・・・・・!!」

うるさいので指で耳をふさいでみる。

「・・・・・・・・・・・!!」

まだ言うか、田舎ッ子め。

逃げてやるぞ、さすがに。

砂利の音がする。

相手も走っているらしい。

とはいえ、私も現役高校生。負けるわけにはいかない。

耳をふさぐのをやめると声が入る。

「おいっての!そこの女子高生!」

「・・・・・。」

なんで女子高生ってわかるんだこいつ。

後ろを振り返らずそのまま走り続ける。

そのあいだもひたすら声をかけてくる田舎ッ子。

「夏休みにもかかわらず、制服きてる高校生っ!!」

あぁ、そうか。私制服来てるんだった。

だからわかったのか、痛いとこついてくるな。

「夏休みなのに一人で、歩いてる高校生ってば!!」

今それはいわなくていいんじゃないかな。

傷つくんだが、ココロ折れるんだが。

やがて田舎少年(?)は走るのをやめたらしい。

私もスピードを緩める。

そして、そこに、最後の一声。


「夏休みなのに彼氏もつくらず、私服センス階無の半泣き女子高生ーーーーーーっ!!」


最後にまとめていいやがった。

事実を淡々とまとめていいやがった。この少年。

顔も見たくない、こんなやつ。

また、走ろうとすると、


「聞こえねぇーのかっ!のろまっ!独り身!ださ子!」


「もういっかい言わなくていいんじゃないかなっ!!!?」

さすがに聞き捨てならない。

第一、こいつ私に追いつけなかったくせにのろまだと・・。

後ろを向いたまま叫んだ。

思いっきり叫んだ。

少年は少々驚いたようで、しばらく声をあげなかった。

私は後ろを振り返る。

私の後ろ25メートル地点に、少年は棒立ちしていた。

本当に驚いたらしい。

少し、自分を反省した。

みれば、少年はまだ中学生ぐらいだった。

二年前に見たあの少年と同じぐらいに見えた。

けれど、あの少年とはあきらかに違っていた。

日に焼けた黒めの肌。

中学ジャージの袖をまくりあげている。

髪は明るい茶色をしていて、腕にはリストバンドが見えた。

どうやら、スポーツ少年らしい。

『夏』が似合う少年だった。

少年は笑って、言った。

「聞こえてんなら、反応してや。」

「・・・・・ごめん。」

なんで私がこいつに謝らなきゃいけないんだよ。

順番逆だろう。

少年は私の前まで歩いてきた。

近くで見ると、キレイな顔立ちをしていた。

「そっちこそ謝ってよ。人こと独り身だのださ子だの、足が遅いだの・・。」

足が遅いのはそっちじゃないかと、言おうとして気付いた。

七分の中学ジャージの下には、


下駄を履いていた。


これであのスピードで走りながら喋ってたのかこの少年。

いままでにない、かなり高レベルだ。

「事実だから、しょうがないやろ。」

少年は明るく笑った。

息が乱れていなかった。

そして何故かエセ関西弁だった。

敗北感を感じた。いくらバスケットから離れていたとはいえ、こんな中坊にまけるとは。

「それでも、言い方ってもんがあるでしょ。」

「そりゃ、そやな。」

そこで、なぜ『すまん』の一言がでないんだ。

最近の田舎ッ子は・・・。

ん?

違和感。

この子本当に田舎ッ子か?

田舎に子供はそんなに多くない。

ほぼ毎年来てるんだから、顔くらい覚えているが、こんなこみたことない。

そもそも髪が茶色の田舎ッ子なんておかしい。

しかも、この子まで中学生じゃないのか?

少年は少し小首を傾げた後、急に自己紹介を始めた。

「オレな『ハル』って言うんよ。よろしくな。陸上部やってん。」

「はぁ・・・。」

生返事を返す。

何故ここで自己紹介・・・。

陸上部と言うのなら、あの速さも少しは納得できる。

「あんたは?」

少年は私の顔をまっすぐ見て訊いてくる。

『夏』みたいな雰囲気のくせに、『ハル』だなんて・・。

名前、ってそんなもんか。

「名前?」

「そそ。」

そもそもこいつなんでフルネームを名乗らないんだ。

自己紹介なのか、これ。

「・・・・『ハヤ』だよ。よろしく、高2だよ。中学生ぐらいなのに足速いね。」

丁寧にも歳までいってやった。

『ハル』が年齢を名乗らないところからして、中学生で間違いないのかもしれない。

訂正する素振りもない。

そのかわりに、ちょっと切なそうな顔をした。

「ん、せやな。オレ足速いのはとりえやねん。」

何か、まずいことを言ったのかもしれない。

ちょっと気まずい。

「てか、本当に高校生やったんか。わかいなぁ。」

いや、そっちの方が若いだろうに、何言ってんだこの少年『ハル』は。

そもそも、なんで私ハルと喋ってるんだっけ?

「それで、何か用事?」

「あぁ、せやせや。」

ハルは、ポケットを探った。

そして、

「はい。」

と、飴をくれた。

私の手に、ぽんとおいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

「あ、まちごうた。」

そういってもう一回手を突っ込む、反対のポケットに。

「こっちや、こっち。」

そういって、笑って私の手に置いた。


少し汚れていたが、お母さんからもらった栞だった。


「・・・・なんで、これ。」

「あんた町中に聞きまわってたやろ。オレ、顔広いからみんなから言われてん。

 『高校生らしき子が探し物してる』ってな。なにぶん田舎やから、

 話題なんてみんなモノ珍しいものに限られるねんな。だからや。」

あまり、説明になっていない。

いや、確かにそのことも重要だが、

私にとって、この栞がどこに会ったかの方が知りたかった。

「それで、なんで、これを・・。」

「ん?あぁ、あんた河原のとこで本読んどったやろ?

 あそこ、橋の方からよう見えるねんな。だから、知っててん。」

「はぁ。」

「そんでな。探し物してるって言うから、河原の方探してみてん。

 したら、ベンチの木と木の間に挟まっとってな。あんたテンパってて気付かなかったやろ。」

よくはわからないが、

少年は私のことを橋から見たことがあり、

私が本を読んでいることを知っていたらしく、

町の人から私が探し物していることを聞き、それを発見し、

ついでに私まで発見してくれたらしいのだ。

「気をつけや、ひとりで歩いとったら、危ないで。」

「あ、ありがとう・・。」

「よかったやん、見つかって。」

何かはわからんが、私はハルにひとまずの命をすくってもらった。

少し、大げさだが。

「ほら、送ったるさかい、ついてきい。」

少年は私に背を向けて歩き始めた。

背格好とか表情は子供なのに態度は何故か頼りがいがあった。

「あんたの家どこや?」

知らないのに、格好つけたのかよ。

ていうか、なんで『あんた』『あんた』って名前で言わないんだ。

「『あんた』じゃないよ。私の家は、小林夏実さんの家だよ。」

「えっ!?そしたら『ハヤ』金持ちやん!」

すっごい、ナチュラルに下の名で呼ぶんだな。

この年の男子ってもうちょっと複雑なものじゃないのか・・・。

あっぴろげというか、なんというか・・。

「私は金持ちじゃあないけど、おばあちゃんがね。」

「へぇ~、そんでもすごいやんけ。うらやましいわぁ。」

ハルは私を見て笑った。

ハルは私の家につく間色んな話しをしてくれた。

今日、私を発見するまでの経緯とか。

夏休みの私の様子とか、おばあちゃんの噂とか。

ハルは、田舎っ子と違って、私をモノ珍しげな眼で見なかった。

それが、ちょっと嬉しかった。

あの少年とは正反対だけれど、ハルは私が気を許せる相手になってくれるかもしれない。

夏休みに、少し感謝した日だった。


ハル登場~☆

どうにもハヤのつっこみは手厳しいですが、根は素直ないい子ですよね。

ハルくんの関西弁がちょっとおかしいのはしょうがないんです。

しょせんエセですからね。

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