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夏休みハルと春  作者: 栖樺
3/5

3日 あぁ、もうっ!

出会いは別れの種であり、発芽したときの嬉しさは出会ったときの比ではないらしい。

おばあちゃんの家に来てから三日目私は、毎日家を出て、過ごしている。

おばあちゃんは、

「まったく、外で遊ぶならオトコのひとりでも捕まえてきたらどうなんだい。」

そんな蝉捕まえてこいみたいなノリで言われても困る。

それはさておき、私がやっていることは、変わらない。

毎日河原近くの木の木陰にあるベンチにいって、本を読む。

お昼御飯を食べて、また別の本を読んで、これをひたすら繰り返す。

毎日何冊かの本を並行して読んでいるためカバンが必要になるのだ。

「重い・・・・。」

「そんなに重いなら、一冊ずつ読めばいいだろうに。」

「読み終わって、いちいちとりに来るのがめんどくさいんだもん。」

「あんた、女子高生が聞いてあきれるよ。まったく。」

そりゃ、まぁ、あなたにあきられちゃあね。

毎日同じことを繰り返していても飽きることはないのだ。

「なんで、あそこで読んでるんだい?」

「・・・・、別に。」

「・・・・・・・・・・。」

「ニヤニヤしないで!!」

網戸を勢いよく閉めた。

「隙間開いてる。」

「わかってるっ!」

スニーカーをどしどし言わせて歩く、砂利道。

私があそこに向かっているのは、二年前のあの日のせいだ。



~二年前・夏休み~

「はぁ、・・・・・疲れた。」

タオルを片手に、走り回った。

15歳女子にしてはそこそこレベルには速い足は逃げ足になると、スピードをあげる。

中学で、なんとか県大会を勝ち越したものの、地方大会までには届かず、私は部活を引退した。

そんな私を待っていたのは、毎年のように鬱とうしくついてくる、田舎の子供たちだ。

おばあちゃんは、ここでは有名人でその孫であり、彼らの言う【都会】に住んでいる私は、

彼らからおっかけまわされる日々を過ごしていた。

「田舎っ子恐るべし・・。」

野山を自由に走り回っている彼らの体力はあなどれない。

スポーツとかに向ければいいのに。

もてあましているのだ。色々と。

もちろん、田舎へ帰省してくる子供が他にいないわけじゃない。

多いわけではないが、夏休みの帰省は他にも当然ある。

けれど、私はよくおっかけられていた。

「どんな服があるの?」

「都会って、○○があるんでしょ?」

「都会の人ってどんな格好?」

「都会に虫っていないの?」

などなど、エトセトラ。

こんな質問を四六時中答えていたら、私のせっかくの夏休みが台無しになる。

「あぁ、もうっ!」

河原の堤防を歩く、太陽がじりじりと言ってる。

暑い。

「帽子、かぶってくればよかったなぁ・・・。」

ほとんど男の子のように短いベリーショートの髪を触る。

汗で少し濡れていた。気持ち悪い。

タオルで拭いてもあまり変わらない。

「シャワー、浴びたいな。あと、水飲みたい。」

ぼけっとしながら、歩く。

偶然にも逃げてきたここの堤防はおばあちゃんの家に近かった。

人通りが少ないから、田舎っ子にも見つからない。

「つっかれた・・・。」

一時座る。

しゃがみこむ。

少しくらくらしていた。

しばらく目を閉じて、周りの音に耳をすませる。

蝉の鳴き声、川の水の音、少しなまぬるい風の音、砂利の音、犬の鳴き声・・・。

・・・・・・・砂利?

誰もいないと思っていた堤防に砂利の音はおかしいことに気付き、顔をあげる。

周囲を見渡す。

そして、10メートル先ぐらいに。


肌の白い、キレイな顔をした少年がこちらを怪訝な顔でみていた。


「・・・・あ。」

つい、声を出してしまった。

一瞬また、おっかけかと思ったが、男の子の服装からそれはないと察した。

白いシャツに紺色のベスト、ベージュの半パン。

おそらく、私と同じ境遇の帰省組だ。

私よりは、少し年下に見えた。12、3歳くらだろうか。

少し嬉しさを感じて話しかけようと立ち上がる。

男の子は後ろに下がった。

警戒されていることに気付く。そして、自分の格好にも気付く。

バスケットの練習着の下に履き、上はただのしろのタンクトップ。

田舎っ子はおそらくはいてないであろう、スポーツブランドものの赤いスニーカー。

室内スポーツのくせに若干黒い肌。

はたからみたら、田舎の少女。

「あ、の・・・。」

恥ずかしい。

恥ずかしいけれど、立ち上がってしまったからには何か言わなくては・・。

「えと・・・。」

「・・・・・・・。」

男の子は少し息が上がって、ほんのり顔が赤い。

おそらく彼も逃げてきたのだ、田舎ッ子から。

つまり、当然。

「・・・・・。」

後ろを向いて、走り去って行った。

私は茫然とした。

初めて、見る子だった。

今まで一度も見たことのない帰省組の子。

また来年あえるだろうか。そんなふうにたかをくくっていた。

けれど、実際のところ、私は去年、部活のおかげでここへは来ていない。

そのため、二年振りになるのだ。

もし、彼に会ってもきっとわからないかもしれない。


~現在・夏休み~

「・・・・。」

思い出そうとしてもなかなか顔を思い出せない。

ぼんやりとはイメージできる。

でも、10メートル離れていた。

ぎりぎりお互いの顔を認識できる程度だった。

「はぁ・・・。」

あのとき、話しかければ何か変わったかもしれないのに、

この、田舎のつまらない夏休みが。


驚きの出会い、田舎。

まさかの出会い、田舎。

田舎にいけばなにかしらには必ず出会う。


おばあちゃん、若いですね。

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