2日 いじわるだ
出会いは必然と物語を生んだり、別れさせたりする。
「ひさしぶりねぇ。」
おばあちゃんは出会いがてらそういった。
決まり文句だ。
「正月以来だね。おばあちゃん。」
「恵凛さんから話は聞いているよ。ゆっくりしていきな。」
「うん。そのつもりで来た。」
おばあちゃんは基本的にモノ言いがさっぱりしていて、どこか若々しい。
でも、根本的に優しくて、ちょっぴり甘いときがある。
ボケはまだ始まっていないし、始まることはないんじゃないかと思う。
「しかし、こっちも暑いんだね。おばあちゃん。」
「だろうね。結局夏だからね。都会もかい?」
「都会って・・。まぁ、そうだね。変わんないよ。」
田舎って言うと、クーラーとか無くって、扇風機や風鈴でひと夏を過ごすイメージがあるけれど、
おばあちゃんの家は普通にクーラーがある。
といっても、おばあちゃんの家付近の家にはほとんどない。
おばあちゃんはお金持ちなのだ。持っている土地もかなりの大きさらしい。
怖くて聞いたことはないが、当分お金に困ることはなさそうである。
「荷物置いてきな、麦茶でも出そうか?」
「あ、うん。わかった。麦茶お願い。」
おばあちゃんの夫、つまりはおじいちゃんは農業が趣味だ。
仕事じゃなくて、趣味。
一日中畑にいても飽きないらしく、家にはほとんどいないのだ。
「荷物、荷物っと。」
なにせ、夏休み中ずっとここにいるわけだから、当然荷物も多い。
階段を上がって部屋にいく。
さすがはお金持ちのおばあちゃんは部屋は余分に造られている。
私達家族全員が入っても平気だろう。
階段を上がっていけばすぐ右に私の部屋があった。
去年来た時と特に変わっていなかった。ドアを開けると埃っぽかった。
家具も特になく、あるのはベッドと机だけ。
一年に数回しか来ないから、十分なのだが。
「荷物の整理は、夜でいいかな。」
一階からおばあちゃんが呼ぶ声がする。
麦茶が用意できたらしい。網戸だけしておいて、一階へ降りる。
今日から、私は約一カ月ここにいることになる。
「おばあちゃん、ありがとう。」
麦茶を受け取りながら言うと、おばあちゃんは笑った。
「孫娘一人引き取るくらいなんでもないさ。あんたこそ、こんな田舎暮らしで平気かい?」
「平気だよ。そこまでもやしっ子じゃないし。」
「もやしっ子って、今の子でも言うもんなんだね。」
おばあちゃんは呆れたように言う。
お母さんのせいで、私の語彙は他の人よりちょっとおかしいのは気にしない。
おばあちゃんは思い出したように言う。
「そういえば、あんた。昼ごはん食べてきたのかい?」
「うん。電車でぱぱっと。」
「そうかい、特にやることもないだろうから、のんびりしてな。
アタシはじいさんの様子見てきたら、部屋でテレビ見てるからね。」
「はぁーい。」
なんだかんだいって、おばあちゃんとおじいちゃんは仲がいいようだ。
いい関係だとつくづく思う。
私の両親と生活スタイルが似ているので安心する。
ここは、過ごしやすくていいところだ。
ふと、おばあちゃんが私を振り返る。
縁側で麦茶を飲む孫娘を。
「あぁ、そうだ。外であるいてもいいけど、気をつけるんだよ。
このへん、変なやからも多いからね、田舎だけど。まぁ、あんたは平気か。」
私の体を上から下まで見ておばあちゃんは言う。
そして、鼻で笑って前を向いた。
「えっ、ちょ、どういう意味かな!おばあちゃん!」
「あんたは、なんていうか。もう少し色気のある格好できないもんかね。」
「うっ・・・・・。」
私は自分の格好を見る。
上は白いシャツ一枚、下は赤いチェックの学校指定スカート。
夏休みに登校する格好そのままだった。
「これが、学生の正装でしょう。」
「少なくとも女子高校生の夏休みの服装じゃあ、ないだろうね。」
おばあちゃんは、部屋から出て行った。
鼻歌を歌いながら、出ていくおばあちゃんは嬉しそうだった。
「いじわるだ。」
その日は、川の近くの木陰にあるベンチで家から持ってきた本を読んだ。
時間を忘れて読みふけっていたので、おばあちゃんから怒られた。
夕飯はすごく美味しかった。
ようやく、私の夏休みが始まった。
おばあちゃん家の家が金持って言う。もやしっ子。
もやしっ子って死語っぽいですけどね。