表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

9話 ……ホント、バカみたい

今回は少し短いです……。



 オレの予想通り、次の授業に彼女は姿を現さなかった。

 遅れてでも出席すると思っていたのだが、思ったよりもダメージが大きかったのか、保健室で一時間寝込んでいたそうだ。授業中盤辺りに保健医の


先生が彼女の授業欠席を伝えに来た。

「……申し訳ないことしたかな。あいつ、なんだかんが言って無遅刻無欠席を貫いていたやつだからな」

 オレが彼女を弄り倒していなければ、彼女は授業でも無欠席でいけたのにな。

 そう思うと、オレが悪者みたくなってくる。

「あーあ、なんかやっちまったなー」

 周りに人が集まっていないことを確認したオレは、思いっきり体を伸ばしながらリラックスしていた。

 優の態度にはいつも男らしさが滲み出ていたことから、オレがおっさんみたいな態度をとっても問題はないだろう。年寄り臭いとは思われるだろう


が、対して変化はない。

「やっぱり、謝りに行くべきだろうか」

 昼休み以外の休み時間は決まって十分間しかない。なので、思い立ったが吉日。直ぐに保健室に向かうとしよう。

 保健室に行くまでにジュースを買ってから行こうかな。一応、彼女の分のジュースも買ってから、ね。



「……ねぇ、篠崎さん」

「ん?」

 行くと決めた瞬間に動き出したオレの前に立ち塞がるように広がる女子生徒達。

 達と言ってもたかだが三人で、クラス全員の女子が纏まって来たわけではない。それもガラの悪そうな女子三人だったので、難癖付けに来たのは容


易に察知出来た。

「あなた最近、調子に乗ってない?」

「…………」

 はっ? 言っている意味がよくわからないんだけど。

 誰がどうだって?

「周りからチヤホヤされ、お姫様のように扱われて、挙句の果てにやっぱりいらないって拒否して」

 要するに朝の騒動が気に食わないって話だよね?

 まぁ、優の性格も嫌だったって感じは掴めるけども、一番気にいらないのはオレが取ってしまった朝の態度だろうね。

 わがままお姫様の態度を首尾一貫していたのであれば、「あの子の性格だから仕方がない」となるのだが、急な態度の変化を見た彼女らはそれが嫌


だったのだろう。

 これは優の落ち度であると共に、オレの落ち度でもあるな。

 昨日の間に癪だけど、姉さんを頼っておくべきだった。オレならどうにか出来ると高を括ってしまった末路がこれだ。

「……ホント、バカみたい」

「なっ!?」

 不意に頬に強烈な痛みを負ったオレは、流れに逆らうことなく、そのまま床に転ぶ。

 クラスメイト達が寛いでいるこの場で手を出してくるとは思いもしなかったので、盛大に尻餅を付き、床に倒れ伏す。

「アンタが悪いのよっ! 何もかもバカにしたような態度を取って」

 目の前で大声を放っている女子生徒よりも、今は廊下を歩く人の足音が耳に入ってきた。

 もう考えるのも面倒だし、オレをこんな状態にした主犯も実行犯に対して怒るのも面倒に思えた。

 何もする気がなくなる――。

 一度躓くと復帰するのに多大な時間が掛かるオレの悪い癖の一つだ。このままじゃあダメだと、自分でわかっているのに実行するのがだるくなる。


すべてが無意味なものだと思えてしまう。


「……ああ、じゃあな」

 ガラッという扉が開いた音と共に、誰かが教室に入ってきた。

「あれ、皆。どうしたんだ?」

 わかりたくなかったけど、声を聞いた瞬間にわかってしまった。

 それと同時に更に面倒なことになるとオレは予知してしまう。すぐにでもこの場所を離れないと。

「優っ!!」

 彼が入ってきた扉とは別の扉から教室を出ようとしていたのが無駄になった。

 騒動の中心となった彼女の姿を見て、床に倒れたオレの姿が目に入ったのだろう。と予想しながら、心の中ではずっと面倒だなと思っていた。

「大丈夫か?」

 そういってオレの体を大事そうに抱え込もうとするアキ。でも、オレが今欲しいのはそんな言葉でも、態度でもない。

「はなして」

「え?」

 下を向いたままでは声が篭って彼には届かなかったみたいだ。

 だけど、今、彼の顔を見るわけにはいかない。今のオレは感情を抑えられない。きっとみっともない表情をしているに決まっている。

「離して……」

「こっち見て話してくれよ。そうじゃないと聞こえな……」

「離してって言ってんの!!」

 何度言っても届かない現状に嫌気が差し、拒絶の言葉を発する一瞬だけ彼の顔を見て大声をあげると彼は驚愕の表情を浮かべていた。

 驚愕の余り力が抜けてしまった彼の腕をスルリと潜り抜けたオレは、一目散に教室から逃げ出す。途中で次の時間担当の先生に会うも一言も交わす


ことなく走り抜ける。



「ホント、バカだよ……。オレは」

 性別が変わってもオレはオレのままで生きていれるなんて安直な考えでいたオレ。友人や先生、そして姉に心配ばかり掛けるオレ。

 自分の性格すらも否定したくなる。

 行き場のない怒りや悲しみを背負ったまま、オレは校内を駆ける。

 決してどこへ行くかなんて決めていない。だけど、心休まる場所なら良いなと思うオレだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ