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7話 この、女たらしー!!


「……あれ、オレは何を」

「やっぱり、まだ完全にはいかないか」

 何かしら作戦を企んでいたのか、アキは口角をあげ密かに笑っていた。

 完全にはいかないってどういうこと。何かオレに仕掛けたんじゃないよね。

「……ま、気にしないさ。じゃ、頑張ってね♪」

「なっ!?」

 耳元で囁かれた「小悪魔ちゃん」というフレーズとその後にされた首元への熱いキスに対して、オレは顔を真っ赤にしていた。

 何がきっかけかわからないが、急に恥ずかしくなりいても立ってもいられなくなったのだ。その恥ずかしさが全部、何処へ行くかは安易に予想出来るだろう。

「この……女たらしー!!」

 優の記憶とオレの記憶がごちゃ混ぜになったが、二つの記憶に共通点があった。

 どちらの世界でも、アキは女たらしであったこと。

「ん?」

 それに違和感を感じていたはずなのだが、その違和感はいつの間にか消え去っており、何も感じなくなった。

「……何で」

 さっきまで一つのことを考えていたはずなのに。今や何を考えていたのかさえ思い出せない。思い浮かべようとすれば、霧がかかったように頭の中が真っ白になる。

「さっきまで普通に考えてたのに」

 アキに接するまで……いや、キスをされるまではちゃんと追求するつもりで。

「……もしかして」

 オレが思い出そうとしても思い出せないようにアキは何かを仕掛けたのか?

 口に何かを流し込まれた感触はなかったから、やっぱり行為に意味があるのだろうか。

 考えれば考えるほど意味がわからなくなる。

 ーーオレに何かを強制する理由は?

 自分の唇を汚してまでオレに何かを強制したいのか。それとも、オレに思い出して欲しい要件があったからなのか。

 アキに何かしら特殊な力はあると考えた方がいいかも知れないな。



「おっはよー♪」

「えっと、お、おはよう」

 自分の教室に入るとほぼ全員に見られ、二人の女子生徒に声をかけられた。

 ここ、オレのクラス……一年A組であってるよね。何でクラスメイトはびっくりしたような顔でこちらを見るんだ?

「えと、おはよう。早水さん、浅野さん」

 とりあえず挨拶をしてくれた二人の女子生徒に挨拶を返す。

 朝の騒動は見ていたのか、オレに向ける笑顔は硬いままだった。

「……そういえば、今朝の騒動は凄かったわね」

「あ、あぁ、そうだな」

「性格は変わり果てたと言われてるけど、口調は変わってないのね」

「ん、何か言った?」

 本当に小さな声で呟かれた結果、何も聴こえず、ただ単に口を動かしていただけにしか見えなかった。

「ううん。別になんでもないわよ。それよりも物理の宿題やって来た?」

「え……宿題?」

「そうよ? もしかして、忘れて来ちゃった、とか?」

 慌てて鞄を探り、教科書とノートを開くが、手はまったく付けられていなかった。ほぼ真っ新なままで、一度として勉強した結果がなかった。

「ど、どうしよう……」

「見せないわよ? 先生から忠告されてるから」

「あ、でも、優ちゃんなら許してくれるんじゃないかな。仮にも妹なんだし」

 この学校で教師をしていることは、前世と同じなのでわかったが、まさか嫌いな教科ベスト一の物理だとは思わなかった。

 ……って、やばい!!

 昨日の今日でこれだと、あの危ない趣味を持つ姉に襲われてしまう。

「えと、物理って何時間目?」

「一時間目」

 あ、終わった。

 ここまで絶体絶命な状況だとは思わなかったよ。

「お願いだから見せてよ……。そうじゃないと」

「優ちゃん?」

 背後から聴きたくもないが、家に帰ると嫌でも聴こえてしまう声が響き、オレの耳へと入ってくる。

「な、なんでしょうか? 篠崎先生」

「お姉ちゃん。って呼んでもいいのよ?」

 ……などと言う姉さんだが、軽く無視をする。構っても構わなくてもめんどくさいなら構わないからだ。

「まぁ、それが優ちゃんらしくていいんだけどね」

「わざわざ、ここに来た理由は?」

「優ちゃんに会うため!」

 半眼で睨み付けると姉さんは、慌てふためき、身振り素振りでオレのご機嫌を取ろうとしていた。そこまでオレは機嫌を損ねてはいないが、いい気味なので放っておく。

「まぁ、それはそうとして。一時間目は私の担当教科だけど、きちんと宿題はして来た?」

「……してない」

「あらら、それは残念」

 満面の笑みを浮かべながら残念とか言われても、ちっとも残念がってないってわかりますよー。

「一時間目までに出来てなかったら、お仕置きするからね♪」

「うひゃっ!?」

 いきなり耳元へ囁かれ、さりげなく耳を舐められる。

 予想もしなかった耳への攻撃は、オレの脳内を犯し尽くし、体に力が入らなくなる所謂腰砕け状態になる。

「な、何言われたのっ!?」

「あの不良気味な優が、糸もたやすく落ちるなんて……。さすがは姉」

 もしかして彼女が変貌したのは、篠崎先生が理由なんじゃという声が聴こえたが、既に腰砕けになり、姉の後姿を視界に入れておくことしか出来なかった。

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