3話 私は可愛い女の子が好きなのよ。by姉さん
・エロチックかも知れません。ご注意くださいませ
「なんで、姉さんがここにいるのさ!?」
「何よ。久しぶりに帰って来たのに、その連れない態度は」
いつもはオレを無視するくせに、今日に限っては逆に絡む気満々なテンションだ。
「当たり前だ。急に入って来て……」
「急にも何も、私が借りた一室なのだからいいじゃない」
「えっ?」
「私が親を説得して一人暮らしをしていたところに、優が勝手に住み付いたのだし」
何を言っているの?
ここはオレの家で、オレしか住んでいないはず。オレは姉さんと仲が悪いし、こんな立ち話もする関係じゃない。
「……ところで、今月の分も払ってくれないのかしら?」
「払う?」
「優が使っているパソコンや携帯のお金は誰が払っているのでしょうかねー」
意地悪そうな表情をする姉さんを見て、わかったことがある。
この世界と前のオレが育ってきた世界では色々と立場が違っているのだろう。
冷静に考えてみれば、女になったことをつっこまれていない。つまり、姉さんからするとオレは女だったということ。
「ね、姉さん……」
「正解。それで今月も払ってくれないのね?」
「……も、じゃなくて今月はじゃないかなー」
「今月もに決まっているでしょうが! 何万円分立て替えてると思ってるのよ。既にうんじゅう万円よ」
おーい、どんだけ借金してるんだこの世界のオレよ。
「……それはごめんなさい。今、返します」
確か財布の中に十万円ぐらいならいれていたはずだ。使う機会がなかったからな。
「この百円しか入っていない財布から、どうすればそんな大金があるのかしらね」
男だった世界で使っていたカジュアル系な財布を掲げながら言葉を発する姉。その言葉に「えっ!?」と反応するも、こちらとあちらを同一視してはならないんだったと自分を戒める。
「さぁ、どう返すつもりだったのかしら?」
「え、えと……。バイトして」
「直ぐに返してって言ったら返せるの?」
こんな事態になるなら「今、返す」なんて言わなきゃよかった。
「……さぁ、どうするの?」
「今月も待ってください」
あの姉に頭を下げるのは何か嫌だったが、仕方がない。
「どうしよっかな〜。お母さんに電話してチクってあげようかな」
姉の言葉にビクッと反応してしまう。
あの親はこちらでも一緒で金には煩いことが既にわかっている。そんな人に大金を貸していて返してくれない。おまけにそれがうちの娘だなんて知られたら説教確定だ。
「お願い。それだけは許して!」
目の前で仁王立ちしている姉に縋り付くように許しを乞う。
まだこんなところで死ぬわけにはいかない。男に戻りたいのだから。女のまま死ねるか。
「どうしよっかな〜♪」
「姉さんの言うこと聞くし、何でもしますから!! だから……」
もう土下座する勢いだ。だが、それだけ説教は嫌だと言うことが重々わかっていただけるだろう。
「ふぅーん。だったら抱かせてよ」
「はい……はぁ!?」
「何でも聞くのよね?」
「いやいやいや、その前にオレ女だよ?」
自分で言うのはアレだが、事実なのだから仕方あるまい。
「私は可愛い女の子が好きなのよ。ほら、小さい口から可愛らしい啼き声が聞こえると思うと」
頭の中で想像したのか少し締まりのない表情をした後に、獲物を前にした肉食獣のように鋭い視線をこちらに向ける。
「そういえば、じっくりと見たことなかったけど。優って結構、私好みな女の子なんだよね」
「ほ、ほら、姉さん。お金は来月に纏めて払うから、ね?」
このままだと食べられる。そう脳が判断したのだろう。姉さんから距離を取り、こうなったキッカケのお金を来月に纏めて返すということで決めたかった。
「お金はいいわ。その代わり……」
上体を低くし、一気にこちらまで走りだしタックルを仕掛けてきた。
「きゃっ!?」
まともに力がないこの体では、姉さんのタックルを受け止めきれなくて、その場で押し倒される。
両腕は強く床に押し付けられ、両足に自身が乗ることによって抵抗されないようにする。
「なっ!?」
完全に身動きが取れない状態になり、更に主導権があちらにある状況だ。絶体絶命、今はこの言葉が当て嵌まるだろう。
「……ねぇ、お願い。離して」
「あなたが本当に私の言うことを聞いて、何でもしてくれるのであれば、解放してあげる」
オレの両腕を片腕で押さえつけ、もう片腕でポケットからスマホを取り出し録音アプリを起動させていたことを明かす。
つまり最初からやり取りが録音されていた。
「さぁ、もう一度宣言してもらいましょうか」
「それは……」
「一度、言った言葉だからいいでしょ。『私は姉さんの言うことを忠実に聞き、姉さんのためなら何でもします』はい」
律儀に録音していたものを一度きり、新しく録音をし始めてからオレへ向ける。
「お、オレは……っ!!」
文章を間違えたからか、携帯をオレの傍らに置き、胸を握り潰すかの如く全力で揉まれた。
ただただ痛みだけが染み渡ってくる。
「わ、私は姉さんの言うことを忠実に聞き、姉さんのためなら何でもします」
半ば涙目になりながら姉さんに向かって宣言してしまう。
宣言をし終えたと同時に、姉さんはオレを離してくれたが、両腕には軽く痕が残っていた。
「はい、保存完了!」
こうしてオレは姉さんに逆らえない立場となってしまったのだ。
録音したのは、忘れるんじゃねぇよ。という意味を込めて、胸を強く揉んで来たのは、オレなんて好きに出来るんだぞという意味を込めてだ。
最初から弱味しか握られてなかった不平等な戦いはオレの惨敗だ。
「わかってると思うけど、親や友人に話して助けて貰うのは無しだからね。でないとばら撒くよ」
もう一つのスマホをオレに見せた瞬間、オレの背筋に寒気が走り酷く精神が不安定になった。
見せられたのは、下着を着けずに胸や……恥部などを曝け出しながらぐっすりと寝ているオレの姿。
「な、なんで、こんな写真が」
「一昨日の夜にね。実はジュースと偽って酒を呑ましていたのよ。それで完全に酔ったあなたを撮るのは容易買ったわ」
この人は鬼だ、悪魔だ。
絶対に敵に回してはいけない人種の人間だ。
「ま、これをばら撒かれたら男達はどう思うのかしらね?」
単純でエロいだけが取り柄なうちの学校の男達に見せただけで、どうなるかなんてわかりきっている。
「……わ、わかった。絶対に逆らわないからばら撒くのだけは」
「うふふ、いいお返事」
オレの背に回り優しく宝物を扱うかのような手つきでオレの体を触ってくる姉さん。
「よろしくね。私のペットちゃん♪」
「ふにゃっ!?」
いきなり耳を甘噛みされ、猫のような悲鳴をあげてしまったことをオレは忘れられないだろう。
この世界の実の姉は鬼畜人間で、家族にも容赦しない悪魔のような百合女だったことを身を持って実感した。
(これから、一体どうなるのだろうか?)
始まったばかりの日常に一抹の不安しか感じなかった。