8話 小さな欠片(ピース)
・今回は短いですが、これからの物語に深く影響するもの……だと思うので、これだけにしました。
「……で、彼とはどんな間柄なの? もしかして、コレ?」
そう言って小指だけを立てて見せてくる姉。
おそらく姉は陽斗の事をオレの彼氏かなんかだと誤解をしているのだろう。
「違うし。ただ単に困ってた所を助けて貰った恩人」
姉の部屋に軟禁されて、全部吐くまで出させないと言わんばかりの空気を漂わせている姉。
その姉の雰囲気に当てられて、オレも正直に話さないといけないと思い、椅子に座って姉の問いにきちんと答えていた。
気分はそう、事情聴取を受けている囚人だ。
「本当に?」
「本当だって」
「へぇ、そう言えばこれを聞くの忘れてたんだけど、彼とどうやって知り合ったの?」
「ん? 不良に絡まれてどうしようもない時に助けてくれたんだ」
これ以外に説明のしようがないからね。
陽斗との出会いの話なんて、この言葉でしか表現出来ないし。
それから、陽斗に……キ、キスされたり。それで怒ってしまったオレに償いとして、助けて貰ったのはこっちなのに、陽斗の奢りで巷で有名なパフェを食べる事が、ね。
「あぁ、そりゃあ惚れても仕方ないわ」
「なっ!? だから、惚れてないって!」
諄い姉の質問に腹を立てたオレは、椅子から立ち上がり、その勢いのまま部屋を出ようとする。
「嘘ね。優……あなた、不良との件を話している時から、ほんのりと頬が赤いわよ」
「っ!! うるさいっ!」
自分でも気付かなかった点を指摘されて、でも、その点に関して何故、『オレ』の体がそうなっているのか嫌でも想像が付いてしまった。
自身の部屋へと戻り、寄り道する事なくベッドに横たわる。
顔だけを動かし、部屋中を見回す。
可愛らしさを全体的に強調した内装で、机の上は綺麗に片付いており、机の横の本棚には年相応というか少女漫画が羅列していた。
やっぱり『優』は女の子女の子してるんだな。
「……なんで、無性に照れてしまったんだろ」
先週に見たあの少女漫画が原因なのかな。強引な男子に詰め寄られて、気付けばその人の事が好きで好きで堪らないって展開のせいで、自分もそれにほんの少しは憧れてしまって、強引にキスされたのだって、本当に嫌って感じはしなかったし。
「今は考えるのをやめよう。どうせ今考えたって、答えは出ないだろうから」
そう思い、オレは静かに目を瞑った。
今日起こった事、嬉しかった事を一人で噛み締め、余韻に浸るかのようにスヤスヤと眠る。
――オレはこの時、気付く事すら出来なかったんだ。
気付けば避けられたかも知れない事なのに、気付く事すら出来ず、後に苦しむ事になる。そのキッカケとなる小さなピースがこの時点で嵌め込まれていた事をオレはまだ知らない。
この話を読んでいて、「あれ?」と思った方は戻って、改正後の最初の方を読みましょう。
話の展開上の都合であり、勘違いではないのであしからず。
話の展開が読めてしまった方は、お口にチャックをして、更新を心待ちにしてくださると助かります。きっとその通りですから……たぶん。