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7話 疑いの心

すみません。長くなった上に、(色んな意味で)糖分多めな気がします。

飲食しながら読む場合は、糖分控えめな物が良いと思います。私自身、色んな意味で甘いなぁと思いました、まる



「……なぁ、機嫌直してくれよ」

「うるさい、黙って」

 あの後、オレはその男に連れられてファミレスに来ていた。

 ほぼ強引にキスをさせられた事に対して、オレは少し怒っていた。絶賛恐怖体験を受けていたオレを助けてくれたのは本当に助かったけれども、予想外な事までされてしまったから。

 ……男であった時ですら初キスを経験しなかったのに、女になってから経験するなんて。

 あれから超不機嫌になったオレをあやす為か、少年はオレに飯を奢ると言った。好きな物を好きなだけ頼んで良いって言われたし。

「はぁ……。確かに強引にしたのは悪かったけど、助けてやったんだし報酬って事でな?」

「むー」

 確かに、ね。

 あの場面で彼がいなければ、オレはどうなっていたかわからない。

 恐怖に慄き、些細な抵抗すら出来なくて、不良共の玩具にされていたかも知れない。それを助けてくれた少年だからこそ、これぐらいのお返しはあっても良いのかも知れないけどさ。

 やっぱり……。でも、気持ちの整理が付かない。

「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は『高瀬(たかせ) 陽斗(あきと)』」

「高瀬……、陽斗?」

 高瀬って事は、もしかして、亜希のお兄さんか弟なのかな?

「……あぁ。一応言うと、高瀬亜希の兄に当たる感じになるのかな」

 何か含みがあるような言い方をされたが、気にしない方が良いのだろうか。

 別に気にしないで良いか。兄的な立場っていうのも、親戚とかなら良くある話だし、タイミング良くオレの前に現れたのだって、偶然だって可能性が捨てきれないからね。今は……ね。

「ん。まぁ、今はそういう事で納得するよ」

「ほっ。良かった。いやぁ、君みたいな可愛い子から疑われ続けるのは、正直、ショックで立ち直れない所だったよ」

 本当に今の話に納得して、信じても良いのか心配になってきた。……けど、今回は助けてくれたのも事実なんだよね。

「……さっきは、ありがとう」

 正面切ってお礼を言うのは何故か気恥ずかしくなり、そっぽを向きながらオレは礼を言う。

 チラッと陽斗の顔色を伺って見ると、彼は驚愕の面持ちでオレをじっと見ていた。

「な、何だよ……?」

「いや、ちゃんとお礼を言えたんだなって」

「ばっ、馬鹿にすんなよな! オレだって、ちゃんと世話になった人にはきちんとお礼を……」

 机をバンっと叩きながらその場で立ち上がる。そして、ヒートアップした頭のまま反論しようとしていたら、急に頭を撫で撫でされた。

 座った姿勢のままでは届かないとわかっているのか彼も立ち上がって、オレと視線が変わらない高さだった。だが、次の瞬間。グッと体が押し潰されるかのような力が上から伸し掛って、オレはその場で座らざるを得なかった。

「熱くなるのは結構だが、場所を考えようね。お転婆姫」

「……っ!?」

 釈然としないが彼のお陰で冷めた状態のまま周囲を見回してみると、オレらに視線が集まっているのがわかった。

「だ、誰がお転婆姫だ。誰が!」

「君以外に誰がいるのさ? そのすぐに食ってかかる所や、ちょっとおっちょこちょいなとことかね」

「うぐっ……」

 それは男であった時から今に至るまで、ずっと言われ続けていた事だからグサッと突き刺さるな。もう少し大人になった方が良いのかもね。いつもは澄まして生活を送る事が出来るんだけど、頭に少しでも血が昇ると冷静な判断を出せなくなって。

「……まぁ、そういう所が君の良い所で可愛いんだろうけどね」

 まるで自身の周りにキラキラマークが飛んでそうなぐらい綺麗な笑顔をこちらに向けつつ、明るい声音で言う。そんな彼をじっと見つめてみる。

 ――人当たりが良い。全体的に明るく接しやすい。ルックスは整っている。決して喧嘩慣れしてるってわけではないが強い。ぶっちゃけて言うと、オレが前々からこんな男子に成りたいと思い願っていた完璧な形じゃないか。

 なんで、こんな奴に生まれ変わる事が出来なくて、こんな女子に成ってしまったんだろうか。

「はぁ……」

「お待たせしましたっ! 当店オススメの『シェフの気まぐれパフェ』になります♪」

 オレの溜め息に被せるかの如く、一人のウェイトレスさんが巨大なパフェを持ち運んで来た。

 全体的にボリューミィーな出来をしており、パフェの入れ物が特大サイズで、下部分にはヨーグルトが入っている。その上にサクサクッと美味しいシリアルが敷き詰められていて、ソフトクリーム、アイスクリームが上乗せされる。更には苺とチョコがたっぷり掛かっているバナナを半分に切った物。そして、ポッ○ーが置かれていた。

「美味しそ~♪」

 ネット上で噂にはなっていたけれども、実物を見たのは今日が初めてだな。

 甘い物の内でも特に好きなのがパフェなオレからすれば、この品物はまさに天国と言っても過言ではない。オレの好きな物がギッシリと詰め込まれている宝箱。

 その宝箱をゆっくりと開けるように、オレはアイスクリームを一口食す。

「ん~。美味しいっ!!」

「……喜んで貰って良かった」

 自らの好物を目前に自然とテンションが上がっているオレをじっくりと観察するように微笑み掛ける陽斗を気に掛ける事なく、パフェを食べていたのだが、周りから色々と視線を感じた。特に女性からの睨み付けるような視線が痛い。

「た、食べる?」

「いや、気にしなくて良いよ。俺は君が食べてる姿を見てるだけで満足だから」

「そ、そう?」

 そう言われてもね。さっきこのパフェを持って来てくれた店員さんを含めた女性達からの鋭い視線が痛いんだよ。『そこにいるのが私だったら、彼に無理矢理にでも食べさせてあげるのに~! 何であんな子が』みたいな視線がチクチクと刺さるんだよ。

 周りに視線を送り警戒しながら、パフェの上に置かれていたポッ○ーを少しずつ囓る。

「……あ、でも、少しだけ貰おうかな」

「んー」

 パフェを彼の目の前に置き、店員さんが気を利かせて置いてくれたもう一本のスプーンをセットで彼に渡そうとする。

 ……が、彼はまたもやオレの想像を遥かに超える事をして来た。

 一瞬、ほんの一瞬だけ彼の顔がグッと近くなったと思ったら、口に咥えていたポッ○ーを反対側から一口で食べられていた。本当に口と口が接触していてもおかしくない距離だった事に唖然としていると、彼は……。

「ホントに甘いね」

 呑気にポッ○ーを食べた感想を述べていた。

「な、ななななっ……」

 状況を漸く把握する事が出来た途端、オレは驚きと羞恥のために顔を赤くする事しか出来なかった。頭は真っ白になり、思考回路は甘さ故に完全に麻痺していた。

「一口食べさせて貰ったし、俺はもう良いから、君はゆっくり食べな?」

 そう言って彼は徐ろにポケットからスマートフォンを取り出し、ただひたすらに弄っていた。

 色々と文句を言いたい気分に駆られたが、これは元々はオレが不覚を取ったばかりに自然と辿ってしまった運命の路線(レール)に過ぎない。もしも、オレがしっかりと気を付けて歩いていれば、恐怖体験を味わう事も、こんな男に会う事もなかった。

 全ては自分の責任。そう考えたら、彼を怒りたいと思う気分も萎えていった。

(……でも、なんでだろ。あれから、こいつの顔を直視出来ないのは)

 スマートフォンを弄りながら、時希に微笑みを浮かべる彼の姿を傍目にオレは一口ずつパフェを味わっていた。

 最終的に全部食べ切るまでには結構な時間が掛かり、その間、彼はずっとオレを待ってくれていた。


「……ごめん。遅くなっちゃったな」

「良いよ。別に気にしてない」

「それに本当にお代まで払わせちゃって」

 俺が君のファーストキスを無理矢理奪っちゃった事が原因だし、これぐらいするのが男の義務ってもんでしょ。と軽々しく言い放ってしまう少年。

 そんな彼を溜め息混じりに、怪訝な目で見つめる。

「もう遅いし、送るよ」

「え、良いよ。そこまでさせちゃったら悪いし」

「良いから良いから、気にするなって」

 これまた強引に付いて来る陽斗を突き放す事が出来なくて、結局、オレの家まで送って貰う事になった。だが、しかし、二人共、高校生と言う事もあって、オレらは二人共歩きだ。彼は免許を取れる歳になったら即、バイクの免許を取りに行くらしいけどね。

 歩きの最中もオレを車道側を歩かせないように気を使ったり、鞄を持ってくれたりと色々と気を使ってくれた。


「……ここまで付き合ってくれてありがとう。家も近いし、ここまでで良いよ」

「そうか? まぁ、そういうなら良いけどさ」

 鞄を前に差し出して来たので、オレはそれをしっかりと受け取ってから、家へ向かって歩みを再び開始する。

「じゃあな。『優』」

「えっ?」

 役目を終えたと言わんばかりに帰って行く陽斗の後ろ姿をオレはしっかりと捉えていた。

 ……彼が最後に放った言葉に少しばかり違和感を感じ取ったのだ。

 オレは一度として、彼に名前を告げていないはずだ。不良共に絡まれた際も、ファミレスでの一件の時もだ。その証拠として、彼はオレの事を名前で呼ばず『お転婆姫』だの『君』だのと呼称していた。だけど、最後のアレはどうやっても最初から解っていたようにしか思えない。

「ど、どういう事……?」

 あいつはどうやってオレの名前を知ったんだ。

 妹に当たる亜希に教えて貰ったと考えると、合点は行くが……、彼女の前々からのオレへの執着度を考えるに有り得ない。と思う。

 なら、どうして……。

「どういう事は私の台詞なんだけどね~」

 背後から聞こえる悪魔の囁き。

 その声音に背中をビクッとさせながら、オレは壊れたロボットのように少しずつ後ろを確認する。

 そこにいたのはオレの予想通りの人物がいた。弄り甲斐のある玩具を見つけたと言わんばかりの笑顔を浮かべている姉の姿を見た瞬間、オレは終わったと思った。

「ね、姉さん」

「ちょっと良いかな、優~♪ お姉ちゃん、聞きたい事があるんだけど」

「お、お手柔らかにお願いします」

「やだっ♪」

 表面上はあまり変化がないけれど、その笑顔の内面にいるのは悪魔だ。

 今日はこってりと絞られる厄日だなと絶賛ドナドナ最中のオレは、暗く染まりつつある空を見ながら密かに思った。


※作者の一言

改正前と改正後、内容が変わりすぎじゃね!?


それと、狙ってないですからね。

別に11月11日だから、ポッ○ーに関係する話を書こうなんて一回も……。

ごめんなさい。ちょっとだけ意識しました、はい。

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