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5話 根も葉もない噂



「え、オ……じゃなくて、アタシにやれって?」

「そうなの。お願い出来ないかしら?」

 問題の数学の時間がアクシデントだらけで少し、ごちゃごちゃとしていたけれども無事に終了した後、昼休みの時間を亜季と一緒に昼食をしたり、その際に一悶着あったりもしたんだが、割愛する。

 そして今は、教室内でオレはクラスメイトの女子達に囲まれていた。

「篠崎さんしかお願い出来ないの!」

「クラスで満場一致な意見だったのよ。でも、今までは話も聞いてくれなくて」

 オレは以前の『自分』を知らないが、この話を聞いているだけで、理解した。彼女はかなり唯我独尊な性格をしていたのだろう。

 彼女というよりは、『篠崎 優』。今のオレの事だが、オレの意識はまったくなく、別人格の人間なだけだがな。

「……そんなの、絶対、アタシに似合わないと思うんだけどな。ほら、キャラじゃないっていうか」

 今更なんだけど、オレが『アタシ』って一人称を使っているの自体に違和感を感じるな。

 姿形は女であるから周囲の人間からすれば、違和感は感じないだろうけども。中の人物であるオレの視点からすれば違和感だらけでしかならない。

「お願いよ。篠崎さんしか出来ないのよ」

「そう言われてもなぁ……」

 クラスメイトにより言われた内容は比較的簡単だ。

 学校で一番、美しく綺麗であるとされている女王こと高瀬亜季、紛れも無い幼馴染とイチャイチャして欲しいという話だ。

 この学校の女子は少し特殊で百合趣向が強く、男子達にしても、女の子同士がきゃっきゃうふふしているのが見たいという思いが強いらしい。なので、この女子達が思い切ってオレに話をつけに来たというわけか。

「あいつとはただの幼馴染だ。とはいえ、そこまで親しい間柄じゃないんだけど」

「うっそだー」

「だって、篠崎さんと高瀬さんって結構な頻度で一緒にいるじゃない」

「もしかして、既にデキてるんじゃないの?」

 オレの言葉を聞き、即座に反応してくる女子達。オレの言葉には決して嘘は何一つ入ってないんだが、お前らはどんだけオレ等をくっ付けたいのさ。主に最後の人。百合ップルにそこまで興味が大有りなのか。

「……何がデキてるって?」

「わー! 高瀬さんっ!?」

「な、なんでもないよ~」

 いきなり現れ出た亜希の姿を見た途端に、追求をやめ、それぞれに散っていく。

 超本人が来た瞬間に逃げ出すってどういうことだよ。残されたオレの意思はどうなるのさ。


「まったく、人が来た瞬間に逃げ出すってどういう事よ」

 そうだよね。でも、一言一句同じ言葉になるとは思わなかったよ。

「まぁまぁ、それだけ言い難い事をしてたんじゃないの?」

「……それなら良いけど。あ、そうだ。優」

「んー? 何」

 放課後の教室に残るのも一興かなと思ったけれども、あれ以上、追求されていたらどうなるかわからなかったため、オレは追求をやめてくれた今のうちにさっさと帰る事にした。

「今からさ、ちょっと部活を見ていかない?」

「え、何で今から? 帰宅部のままで良いじゃん」

「いや、だってさ、このまま帰宅部っていうのも、華がないしさ」

 まぁ、華の高校生活という割には、それらしい事何もないしな。

 部活動に入ったら、そこで毎日活動して、高校生活の中で行われるイベントにも部活動として参加出来るし……。

「私達好みな部活動がなければ作るのも良いし」

「うーん……」

「……それに、私は優としたいなって」

 少し恥ずかし気に俯きながら呟いた言葉。口説き文句なような台詞をこんな風に言われてしまったら、こっちまで無性に恥ずかしくなってしまう。

 男だった時の意識があるからこそ、正常と思わてしまう思考回路だが、今のオレは認めたくないけれども、女なのだから、同性同士の付き合いはねぇ。

「そ、そう? ま、部活の内容によって変わるけどね。良さげなら前向きに考えるよ」

「やった! じゃ、見学に行こっ♪」

「あ、うん。そうだね」

 強引に手を引かれて、流れに身を任せる結果になってしまった。

 けれど、こういう生活も悪くないと思えてしまうのは、オレが賑やかな生活に慣れすぎているせいかな。



 ◇



「……結局、良さげな部活はなかったね」

「そうね。こう、ピンとくる部活動がないのよね」

「やっぱりないんじゃない?」

「作るしかないかな。新しく斬新な『文芸部』を」

 新しく斬新がテーマな文芸部って。それは最早、文芸部と呼べる代物じゃないんじゃないかな。というツッコミが頭の中で湧いたが、言ったところであんまり効果がない事を知っているオレは口を挟まない事にした。

「名前はそうだね……」

 もうどうなっても良いから勝手に決めておいてよ。オレはもう知らないから。

「『百合部』とかどうかな」

「ちょっと待て。それは色んな意味でやばいからやめよ」

 元々、変な噂で持ちきられているオレらが、同じ部活にいて、名前がそんなだと、くっついてると思われるのが関の山だから、匂わせるような部活名を付けるのはやめよう。ホントに!!

「中々に良い名前だと思ったのだけどな……」

「……そう思ってるのは、お前だけだからな。亜希」

「まぁ、部活名は明日までに考えておくよ。あと、活動内容や顧問の教師も」

「うん、お願い」

 時計をチラッと確認する。

 長針は六の数字を差し、短針は四を差し示していた。六時二十分。今の時間なら、ここから歩いて行けば普通に間に合いそうだな。


「行ってきたら?」

「へっ?」

「だって、優。さっきからチラチラと時計を確認する仕草が増えてるんだもん。何か用事でもあったのかなって」

「んー。笑われるかもと思ったから言わんかったんだけど、タイムセールがあったのを思い出して、ね」

 男の間に見ていた記憶なので、ここでもあるのかどうかはさておき、今日この日に近所のスーパーでタイムセールが行われているかどうかを見る事で、このおかしな現状に対して新しい情報が手に入るかなと思ったので、少し見に行きたいと思っただけ。

 買い物はきっと、しなくても平気だと思うから。

「……じゃ、それこそ早く行きなよ。あとは私がしておくから、ね♪」

「う、うん。それじゃ、行ってくる」

 満面の笑みを浮かべた亜希に一抹の不安を抱きながら、オレは彼女の好意に応じて、近所のスーパーへ足を運ぶ事にした。


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