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黒ノ聖夜 BLACK SANCTION  作者: さわやかシムラ


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黒ノ聖夜 BLACK SANCTION29

 スノーボードで夜を越え、『サンタクロースの隠れ家』に帰ってきた夜咎クロウを出迎えたのは、仁王立ちする聖成クラウスだった。

 扉を開けてすぐに、凄まじいオーラを放つ赤いサンタクロースを見て、クロウは思わず身じろぎした。


「お、おう、ただいま」

「『おう、ただいま』……ではない! クロウ! なんだこの請求書は!」


 血相を変えたクラウスが手に持った請求書には、コンビニの棚一式と書かれていた。


 クロウの視線が宙を泳ぐ。

 クロウは万引き少年を取り押さえた時に、吹っ飛ばした棚のことを思い出していた。


「それは……、少年を助けるのに必要だったんだよ」

「うるさい! そんな状況があってたまるか! それに、クリスマスの夜に配達をしないサンタクロースがあるかっ!? いったい私が何件回ったと思っているんだ!」


 ソファーの上でくつろいでいた黒い子猫が、大きな口であくびをする。


 クラウスは子猫を指さしながら、激しくまくしたてた。

「貴様より、クネヒトの方がまだ役に立つわ!」

「流石にそれは無理がある」


「はん! 見ていろよ」

 鼻で笑ったクラウスがポケットから小さなネズミのぬいぐるみを取り出し、部屋の隅に放り投げた。

 黒い子猫は、即座に反応。放物線を描きはじめた瞬間から落下地点に駆け始め、着地したぬいぐるみを口にくわえてクラウスの足元に持ってきた。

 ぬいぐるみを地面に置いて、胸を張り「にぁあ」と鳴く子猫に、クロウは軽く拍手をした。


 クラウスは子猫を抱え上げて頭を撫でると、得意気に、歪ませた笑顔でクロウを見下ろした。

「どうだ」

「お、おう。確かに凄いけどよ」

「来年のクリスマスには立派にサンタの補助が務まるように、指定したポイントへ荷物を持って行けるところまで教育するつもりだ」

「お前……それは……クロネコさんの配送サービスがあるからやめとけよ……」

 クロウは苦笑いを浮かべたまま、ソファーへ深く腰を下ろした。


 ポケットからスマホを取り出し、通知履歴を確認すると、さらに困ったような顔をする。


 そこにはメッセージアプリの通知があった。

 送信元のアイコンは小さなサボテンの写真。その横にはクロウが表示名の変更をしたのであろう、「アンラッキーガール」と書かれていた。

 本文には「プレゼント」と「待ってます」のスタンプ。


「なぁ、クラウス」

 特訓と称して子猫と戯れるクラウスに、クロウはスマホを眺めたままの姿勢で声をかけた。

「なんだ?」

 クラウスも、子猫に視線を向けたまま背中越しに答える。


「金貸して」

「はぁ!?」


 驚きのあまり、そこでようやくクロウへと振り返った。


「貴様よく言えるな!? だいたい、何のために!?」

「いやー、ちょっとさぁ……クリスマスプレゼントでスマホ買ってやる約束をしててさ」

「いったい誰に!? ちゃんと記憶操作はしているんだろうな!?」


「いや、それがさ、話せば長くなるんだけど……、良い子は報われなきゃならんだろ?」


 クラウスがテーブルの上に置きっぱなしだった紅茶のカップを手にして、クロウを押しやってソファーの隣に座った。

「長くなっても構わん。仔細に話せ」

「……へいへい」

 クロウは肩をすくめ、観念したようにこの数日の話を語るのであった――。


◆◆◆◆◆


 迫る新年を前に、街の人たちが最後の慌ただしさを迎えるころ。

 良子がアパートに帰宅すると、テーブルの上にはクリスマスラッピングされたプレゼントが置いてあった。


「え……私ちゃんと鍵かけていったよね……」

 ほんの少しの驚きと、「でも、まあ、サンタクロースなら、なんとかするか」という妙な納得感。


 ラッピングが破れないように、丁寧に取り外していくと、中には新品のスマートフォンが入っていた。

 そして、それには「メリークリスマス」と手書きのメッセージカードも添えられていた。

 良子はメッセージカードを拾い上げて、苦笑する。

「スマホより、こっちの方が嬉しいな。……明日フォトフレーム買ってこよう」


 頬を綻ばせると、綺麗に折りたたんだラッピングと共に、とりあえずクリアファイルに挟み込み、大切に机の引き出しにしまった。


 そして、画面の割れたスマホを取り出し、ヒビに指を引っかけないよう慎重に指先でタップしていく。


「『ありがとう、私のサンタクロース』っと、送信」


 良子はカップを取り出し、粉末のカフェオレを入れ、お湯を注いでテーブルに置く。


「さて……機種変更、大変だけど。今日中に終わらせちゃいますか」


 目の前に突如現れた、年内最後の一仕事に奮闘するのであった。

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