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ドラゴンキャッスル~城ゲーやってたら異世界に転移したっぽい~  作者: なすちー


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38 ケッパー帰還する

 ドレイクゾンビの思わぬ可愛らしさ?に一同の空気が和んでいた、その時だった。 南門の方から聞き慣れた足音が近づき、一人の少女が姿を現した。


「あるじ様、ただいま」


 帝国へと偵察に向かっていたケッパーである。彼女はその無機質な瞳に、どこか誇らしげな色を浮かべながら、胸元に掲げた「銀等級」の冒険者証をナナシに示す。


「ケッパーちゃん、おかえりー! 無事でよかったよ」


 アニスが弾んだ声で駆け寄る。ちょうどそのタイミングで、リマの村での往診を終えて戻っていたエキナシアも、柔らかな微笑みを浮かべて歩み寄った。


「ケッパーさん、おかえりなさい。お久しぶりですね、お元気そうで何よりです」

「エキナシアも久しぶり。みんな、ただいま」


 淡々と、しかし再会を喜ぶように応えるケッパー。エキナシアはそのまま、そばに控えていたソレルにも視線を向け、淑やかに頭を下げた。


「ソレルさんも、北への遠征お疲れ様でした。先ほどお戻りになられたと伺いましたよ」

「ええ、エキナシア殿もご苦労様です。リマの村の様子はいかがでしたかな?」


 英雄たちが互いの無事を確かめ合う光景は、ネクロエリシュオンが着実に「国」として機能し始めていることを物語っていた。ナナシは満足げに頷くと、ケッパーへと向き直った。


「ああ、ケッパー、よく戻ったな。それで、帝国はどうだった?」


「……にぎやかで、楽しいところ」


「立ち話もなんだ。場所を変えよう」


 ナナシの促しに、一同は城の奥にある広間へと移動した。重厚な石造りの廊下に足音が響き、そのすぐ後ろを、例の『ドレイクゾンビ』が短い翼を一生懸命にパタパタとはためかせながら、必死についてくる。


 広間に着くと、それぞれが使い込まれた革張りの椅子に腰を下ろした。ようやく一息ついた空気が流れる中、ペットことドレイクゾンビははナナシの足元で満足げに丸まり、喉をごろごろと鳴らしている。


 ナナシは居住まいを正し、正面に座ったケッパーへと視線を向けた。


「さて、ケッパー。帝国の話の続きを聞かせてくれ。お前が見てきたこと、感じたこと、些細なことでも構わない」


ケッパーは帝国で見てきた光景を語り始めた。 冒険者ギルドという組織の仕組み、階級による扱いの違い。この世界におけるスキルの発現方法や、生息する魔物の生態、そして帝国を取り巻く政治的な空気感――。


 かつてのゲーム知識と重なる部分もあれば、現実となったこの世界特有の変化もある。ケッパーが持ち帰った情報は、北の山脈で得た素材以上に、今後の国家運営を左右する貴重な財産だった。


「なるほどな……。冒険者の階級制度、それにスキルの実態か。想像以上だ、ありがとうケッパー」


 ナナシはケッパーの報告を頭の中で整理し、思考を巡らせる。 北には飛竜が舞う未踏の山脈があり、南には高度な文明と冒険者制度を持つ帝国が広がり、西は英雄に匹敵する冒険者の存在が確認できる王国がある。


 打てる手は山ほどあった。 銀等級まで上り詰めたケッパーならば、その身分を盾に帝国のさらなる深部、あるいは未知の王国側へ潜り込ませることも不可能ではないだろう。もっとも、彼女のトレードマークであるメイド服が「ネクロエリシュオン」の象徴として警戒されている恐れはあるが、それでも彼女の隠密性は捨てがたい。 あるいは、卓越した弓の技量と機動力を活かし、ソレルが引き返した北の山脈のさらに奥深くへと彼女を派遣するという選択肢も魅力的だった。


 ナナシが次なる一手への思考を巡らせていた、その時だった。


「……あるじ様。また、帝国に戻ってもいい?」


 ケッパーが自ら口を開いた。その瞳には、淡いながらも明確な意志の光が宿っている。


「今度は、帝都へ行きたい。――『白銀の剣』のみんなと一緒に」


 ナナシは虚を突かれた思いで、彼女を見つめ返した。 かつてのゲーム上の「英雄」たちは、主であるプレイヤーの指示には絶対服従だったが、自ら主体的に行動を提案してくることなどほとんどなかった。プログラムされた駒ではなく、一人のアンデッドとしてこの世界に立ち、自分の望みを語っている。


 その事実が、ナナシにはたまらなく嬉しかった。


「いいよ、ケッパー。行ってくるといい。……そうか、『白銀の剣』の連中とは、ずいぶん仲良くなったんだな」


ナナシが相好を崩して快諾すると、ケッパーは小さく、しかし満足そうに頷いた。


「うん。……楽しい。シエルは、特にお気に入り」


 簡潔な言葉だったが、そこには確かな情愛がこもっていた。 効率や戦略だけでは測れない「縁」が、この異世界で芽生え始めている。 ナナシは、かつてのゲーム画面越しには決して味わえなかった温かな充足感を胸に、帝都へと向かう彼女の背中を、信頼を込めて見送ることに決めた。


「帝都での情報収集と、冒険者等級の更新は引き続き頼む。あと帝国で有名な冒険者の情報も集めてほしい、セレーナという冒険者の情報もあれば頼む。だが……あまり無理はするなよ。定期的に顔を見せに帰ってくることも、重要な任務の一つだ」


 ナナシは、かつてのプレイヤーとしての効率重視な思考を少しだけ脇に置き、主として、そしてどこか親のような心境で念を押した。


「あはは! ケッパーちゃん、なんだか見ない間に大人になっちゃって。ちょっと寂しいくらいだよ」


 アニスが明るい笑い声を上げながら、ケッパーの肩を軽く叩く。その屈託のない言葉に、広場の空気がさらに和らいだ。


「ええ。ケッパーさん、瞳に宿る光が少し変わりましたね。外の世界に触れることが、あなたにとって良い薬になったようです」


 エキナシアも慈愛に満ちた声で語りかけ、彼女の成長を優しく肯定する。


「ケッパー殿、体だけは厭うてくだされ。何かあればすぐに、我らという『家』があることをお忘れなきよう」


 ソレルもまた、最古参の従者として深い労いの言葉を贈った。


 仲間たちの温かな言葉を真っ直ぐに受け止め、ケッパーは明日、再び帝都へと向かうことに決める。

 ナナシの胸中には新たな迷いと、確かな野心が渦巻いていた。


(……英雄の派遣には、当然リスクが伴う。もし彼女たちが命を落とせば、ネクロエリシュオンにとって取り返しのつかない損失になるはずだ)


 だが、ケッパーの目覚ましい変貌がその懸念を上回っていた。 城の中に閉じ込めておくよりも、外の世界という荒波に揉まれることで、彼女たちはゲームのデータにはなかった「意志」と「強さ」を獲得していく。


(情報収集だけじゃない。帝国や王国のような場所には、まだ見ぬ異能の持ち主や、国益に繋がる逸材が眠っているはずだ。それらをスカウトし、自国の戦力として取り込むのも一つの手か……)


 ネクロエリシュオンが発展すれば、それはさらなる英雄召喚――新たな「家族」の顕現にも繋がる。 リスクを恐れて現状を維持するか、それとも英雄たちを世界へ放ち、国としての地平を広げるべきか。


「……可愛いペットだけじゃ、この国は守れないからな」


 ナナシは足元で暢気に欠伸をしているドレイクゾンビを見やり、自嘲気味に呟いた。 王としての決断。その重みが、少しずつ、しかし確実に彼の肩に乗り始めていた。



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