28 銀等級ケッパー
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毎日朝8時頃投稿予定です。
テスカポル冒険者協会
冒険者ギルドの静かな午後の空気を、重たい衝撃音が切り裂く。
ドンッ!!
カウンターの上を埋め尽くしたのは、まだ生々しい魔力を帯びた、大量のハーピーの羽根。それは重なり合って、受付の女性の顔が見えなくなるほどの山を築く。
「……ハーピー。狩ってきた。お願い」
ケッパーのいつも通りの平坦な声。しかし、置かれた「証拠」の量は尋常ではない。
「あはは……。これは、また…」
受付嬢は顔を引きつらせ、羽根の山を前に言葉を失った。
「あの、ケッパーさん。失礼ですが、これは本当に……お一人で?」
ケッパーが答えるより早く、背後から地響きのような声が割って入る。
「ああ、間違いねえ。俺がこの目で見届けた。ついでに白銀の剣の二人も証人だ」
バルダスが腕を組み、ニヤリと笑って保証する。
「左様でしたか……失礼いたしました。ハーピーの討伐証明は正確な計数が難しいため、基本的には自己申告制なのですが…。これだけの量となると、相当な数ですよね?」
「ざっと百体は超えてるわよ」
横からシエルが身を乗り出し、得意げに補足する。
「あの『星明りの崖』にいた群れ、ケッパーちゃんがたった一人で全滅させちゃったんだから!」
「えっ、あの崖の群れを!? ということは、もしかして、あの街道が再び通行可能になったということですか?」
受付嬢の目が驚愕に見開かれる。長年の物流の悩みが、たった一人の少女によって解決されたのだから。
「一度、ギルドから調査員を送る必要はあるだろうが……。まあ、当分は安全だろうぜ」
バルダスの言葉に、受付嬢は震える手で書類をまとめる。
「わかりました、ありがとうございます! ケッパーさん、ライセンスを。これだけの功績があれば、ランク昇格の要件は十分に満たしています。すぐに『青銅級』への……」
「――おい。話を聞いてねえのか?」
バルダスがカウンターを叩いて言葉を遮った。
「こいつの実力は、そんなチンケな枠に収まるもんじゃねえ。……支部長に連絡しろ。俺が直々に推薦する。こいつを、一気に『銀等級』へ引き上げる」
「ぎ……銀等級に飛び級ですか!? ですが、規則では……」
「規則なんざ、これだけの異常事態の前じゃ意味ねえよ。いいからセドラックを呼べ!」
「わ、わかりました……! 少々お待ちください、すぐに確認してまいります。ケッパーさん、あちらの椅子に掛けてお待ちいただけますか?」
受付嬢は慌てて奥の執務室へと走り去っていく。 ロビーにいた他の冒険者たちが、遠巻きに
「あの子供が銀等級?」とざわめき始める中、ケッパーはどこ吹く風で、空いた椅子にちょこんと腰を下ろし足をぶらぶらさせている。
(銀ランク…。確か…「ケッパー、できたら金等級くらいまでは上げておいてくれ、色々と便利だからな」って言ってたし、もうちょい)
数分後、ギルドの喧騒を割って、奥の扉から一人の男が姿を現れる。テスカポル支部長、セドラックであった。
「君がケッパー殿だね。……話は聞いたよ」
セドラックは、カウンターに積み上げられた羽根の山を一瞥もせず、真っ直ぐにケッパーの瞳を見つめる。その声は低く、とても落ち着いている。
「これほどの功績だ。君を銀等級へ引き上げることに異論はない。……だが、その前に少し話をさせてもらえないだろうか」
セドラックは流れるような所作で、奥にある執務室を指し示す。
「あ、私たちも」
シエルが心配そうに一歩踏み出そうとしましたが、セドラックはそれを静かな、しかし拒絶の色の濃い視線で制する。
「すまないが…、ケッパー殿と二人だけで話をしたい。他の方々は、ここで待っていてくれないか」
有無を言わせぬ威圧感。さすがにシエルもルルも、それ以上言葉を重ねることはできず、重苦しい沈黙が流れる中、当のケッパーだけは、いつもと変わらぬ様子でシエルたちを振り返る。
「……ん。ちょっと、行ってくる。あとで」
短い挨拶だけを残し、ケッパーは迷いのない足取りでセドラックの後に続く。
「改めて自己紹介をしよう。ガルグガマ大帝国、テスカポル冒険者組合支部長のセドラックだ」
セドラックは執務机に深く背を預け、組んだ両手の上に顎を乗せた。その鋭い眼光は、目の前に立つ少女の「中身」を透かし見ようとしているかのようだった。
「ケッパーです。よろしく」
ケッパーは微動だにせず、淡々と返した。その瞳には、支部長という権威への畏怖も、正体を探られることへの動揺も欠片も存在しない。あまりに平然としたその佇まいに、セドラックはわずかに目を細める。
部屋を重苦しい沈黙が支配する。壁にかけられた振り子時計の刻む音だけが、不自然なほど大きく室内に響いていた。
「……先ほど、ある熟練のパーティーから重要な報告を受けてね。オルカ大密林を抜けた先に、突如としてアンデッドの都が現れたという内容だ。そして、それと時を同じくして、新人とは到底思えない実力を持った『レンジャー』が私のギルドに現れた」
セドラックの声は低く、逃げ場のない圧力を伴っていた。彼は一文字ずつ言葉を置くように続ける。
「これがただの偶然だと言えるかな……。ケッパー殿、単刀直入に聞こう。君は、一体何者なのかな?」
執務室の空気が、一気に張り詰めた。それはもはや一介の冒険者と職員の会話ではない。帝国の国境を守る男と、未知の勢力から放たれた「何か」との、静かなる対峙であった。




