26 何狩る?
はじめて作品を書きます。
よろしくお願いします。
毎日朝8時投稿予定です。
「あ、やっぱり! ここにいたんだ」
人混みを軽やかに縫うようにして、シエルが手を振りながら駆け寄ってきた。
「もう、勝手に行っちゃうんだから。美味しいお店に連れて行くって約束したじゃない」
ぶう、と頬を膨らませて見せるシエルだったが、その瞳にはケッパーを見つけ出した安堵の色が浮かんでいた。
「……ごめん。忘れてない」
「いいけどね。カイトたちは先に宿へ荷物を置きに行ったわ。重いし、汗もかいたからって。私は身軽だし、ケッパーちゃんを迎えに来たってわけ」
シエルがいつもの調子で笑いかけた、その時。ケッパーがぴたりと足を止め、シエルの瞳を真っ直ぐに射抜くような、強い視線を向けた。
「シエル。……話、ある」
「えっ……? どうしたの、ケッパーちゃん。そんな顔して」
普段の無機質な様子とは違う、どこか張り詰めたケッパーの空気に、シエルは思わず言葉を詰まらせた。
◇
帝国食堂『七香路』
テスカポルでも指折りの名店とされるその店で、カイトたちは豪華な個室を貸し切っていた。
円卓の上には、香ばしい匂いを漂わせる鶏の丸焼き、滋味溢れる琥珀色のスープ、彩り豊かな卵と野菜の炒め物など、帝国の豊かな食文化を象徴する料理が所狭しと並んでいる。
豪勢な料理を前にしても、ケッパーの表情はいつになく真剣だった。彼女は食べるのを止め、正面に座るシエルを見つめた。
「それで? 話って何かな」
シエルがスープを口に運びながら促すと、ケッパーは講習会でバルダスと交わした実技試験の約束について、かいつまんで説明した。
「この近くで、強い魔物。常駐依頼があって、倒すとランクが上がるやつ。教えてほしい」
「なるほどねぇ……。あのバルダスを黙らせるほどの獲物か」
シエルはうーんと唸りながら考え込んだ。そこへ、デザートの果物を摘んでいたルルが口を開く。
「ケッパーちゃん、弓は得意だったよね?」
「……? うん。得意。外さない」
「なら、南西の崖にいる『ハーピー』はどうかな?」
ルルの提案に、シエルが「あ、いいかも!」と指を鳴らした。
話によれば、南西の断崖を通る道は、本来は商人たちが使う重要な交易路だったという。しかし、いつの間にかハーピーの群れが巣を作り、今では誰もが遠回りを強いられている。
「あ、でもなぁ…」
とシエルは迷いながらも答える
「ハーピー自体は、銀等級なら十分に対処できる相手なんだけどね……。問題は場所なのよ」
シエルが困ったように肩をすくめる。
「あそこは切り立った崖で、下は深い谷底か海。撃ち落とした瞬間に、死体が真っ逆さまなの。討伐証明の『羽根』が回収できないから、手間ばかりかかって誰も寄り付かなくなったのよ」
「谷底まで拾いに行くのは、時間の無駄。……だから、みんな行かない」
ケッパーの言葉に、シエルは苦笑して頷いた。だが、ケッパーは平然と、とんでもない解決策を口にする。
「……問題ない。撃ち落としたあと。ハーピーが落ちるまでに、羽根をもぐ。そうすれば、大丈夫」
「…………え?」 シエルが固まった。
「……待って。落ちるまでに、もぐ? どうやって?」
「矢を射る。落ちる。その間に、私が飛ぶ。羽根を取る。地面に着く前に」
「「…………」」 個室に静寂が流れた。
重力という概念を置き去りにしたその提案に、シエルは顔を引きつらせる。
「ケッパーちゃん……冗談、だよね? 物理的に無理じゃない?」
「いや。ケッパーができるって言うなら、できるんだろう。俺は信じるよ」
カイトが鶏肉を頬張りながら、あっけらかんと言い放った。エンキも深く頷いている。
「よし! なら、明日は私たちの依頼もないし、私も着いていくわ。ケッパーちゃんのサポートなら任せて」
「私も行く。その『落ちる前にもぐ』っていうの、特等席で見せてもらうわ」
シエルとルルがノリノリで賛成した。一方で、レメディだけは申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんなさい。私は明日、近くの修道院へ顔を出さなきゃいけなくて……」
「いいさ、レメディ。俺は街で装備の補充や、次の依頼の下調べをしておくよ。……二人とも、ケッパーを頼んだぞ」
カイトがまとめると、話は決まった。
食事が一段落した頃、シエルがケッパーの肩を優しく抱き寄せた。
「ところで、ケッパーちゃん。今日は泊まるところ、決まってる? もしよかったら、私たちの宿に来ない?」
ケッパーは少しだけ考え、言葉に甘えることにした。
「……はい。お願いします」
「よーし、決まり! 今夜は女子会よ! 寝かせないんだから!」
「女子会。……お喋り。……了解。頑張る」
ケッパーの「頑張る」の方向が少しズレている気がしたが、シエルたちの笑い声は帝国食堂に明るく響き渡っていた。




