24 冒険者ケッパー
「……こんにちは。冒険者ギルド・テスカポル支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンター越しに、制服を着た若い女性職員が丁寧な口調で声をかけてきた。ケッパーは端的に用件を告げる。
「冒険者登録、あと説明を」
「登録、ですね。……あ、あの、差し支えなければ確認させていただきたいのですが、年齢は十五歳以上でしょうか? その、ずいぶんと可愛らしい……いえ、お若く見えますので」
受付嬢の言葉は、単なる好奇心ではなく、ギルドの規則に則った懸念だった。子供を危険な戦場に送り出すわけにはいかないという、最低限の倫理性ゆえの問いだ。
「問題ない。先ほど奥へ入った『白銀の剣』も認めてる」
カイトたちの名前を出した瞬間、受付嬢の顔つきが「仕事」のそれに変わった。銀等級の精鋭が認めているのであれば、素性の知れない子供ではないと判断したのだろう。
「左様でございましたか、失礼いたしました。……それでは、こちらの用紙にお名前と、大まかで構いませんので『役割』のご記入をお願いします。それから、登録手数料として五百Gを申し受けますが、よろしいでしょうか?」
ケッパーは無言で頷くと、ナナシから預かっていた――正確には、ネクロエリシュオンでカイトたちから「徴収」した帝国通貨だが、五百ガルの硬貨を取り出し、カウンターに置いた。
「はい、五百ガル、確かに。……お名前はケッパー様ですね。役割の欄が空欄ですが、その身軽そうな装備と体格ですと……弓の扱いなどが得意な『アーチャー』で登録されますか?」
受付嬢がペンを走らせようとしたその時、ケッパーは静かに、しかし断固とした口調でそれを遮った。
「だめ、問題ある。私は『アーチャー(弓兵)』じゃない。――『レンジャー(斥候)』として登録を」
「あ、失礼いたしました。……では、レンジャーとして登録いたしますね」
ケッパーにとって、ただの遠距離攻撃職と、偵察・生存・隠密に特化した「斥候」は全く別の概念だ。主の目となり耳となる者として、そこだけは譲れない一線だった。
「では次に、こちらの台座に手をかざしてもらえますか?」
受付嬢がカウンターの下から、小さな台形の石台を取り出した。その天面には、人の手の形をした、うっすらと光るくぼみがある。
「どちらの手でもいいですよ。くぼみの近くに、かざすだけで大丈夫ですから」
ケッパーは、その不思議な道具をじっと見つめて、短く聞いた。
「これ、なに?」
「これは、ライセンスの『複数所持』を防ぐための魔道具なんです。名前を変えて新しく作り直したり、悪いことをした人が別人を装ったりできないように、その人自身を覚える仕組みになっています。難しいことは省きますけど……これで、あなたが過去に別の場所で登録していないかを確認させてもらいますね」
(私を、覚える……。アンデッドでも、大丈夫なのかな?)
ケッパーは少しだけ不安になったが、言われた通りにくぼみの上へ手を伸ばした。 すると、台座の周りに埋め込まれた青い宝石が、ピカピカと数回、静かに明滅した。
「はい、ありがとうございました。過去に登録された記録はありませんね」
受付嬢は安心したように微笑むと、台座を下げて奥の小部屋へ入っていった。すぐに戻ってきた彼女の手には、帝国のシンボルカラーである「赤」を基調とした、まだ傷一つない真新しいプレートが握られていた。
「お待たせしました、ケッパーさん。こちらがあなたのライセンスになります」
受付嬢は、発行されたばかりのプレートをケッパーの前に置いた。
「では次に、冒険者としての諸注意を説明しますね」
「このライセンスは、あなたが冒険者であることの唯一の証明書です。これがあれば、少なくともこの大陸内であれば、各都市への出入りがスムーズになります。ただし、冒険者には厳格な『ランク』が存在します。見習い、青銅、鉄……そして最高位の白金まで。場所によっては、一定以上のランクがないと立ち入りを制限される区域もありますので注意してください」
「わかった。把握」
「あ、それから! 絶対に無くさないでくださいね。再発行にはランクに応じた高額な費用がかかりますし、何より再発行の手続き中は、依頼の受注も達成報告も一切できなくなります。冒険者にとって、ライセンスを失うことは『腕を失う』のと同義だと思ってください」
受付嬢の熱のこもった忠告に、ケッパーは
「わかった、把握」と短く答えた。
「はい、お願いしますね。……さて、ケッパーさんは『見習い』からのスタートですので、まずはギルド主催の『冒険者講習会』への参加を強くおすすめしています。ここでは冒険者の基礎知識や、この世界で生き残るための最低限のルールを学べますが……いかがいたしますか? ちょうど、この後すぐに開催される回に空きがありますが」
ケッパーは数秒、思考の海に沈んだ。 自分には『ドラゴンキャッスル』の英雄としての戦闘能力がある。しかし、先ほどルルたちから聞いた「魔法のルールの違い」のように、この世界の常識を欠いているのは致命的だ。
「…はい。その講習予約を」
「わかりました。では、四十分後の枠で予約を入れました。場所をご説明しますね」
受付嬢はカウンターの下から、円形の街図を取り出した。
「ここから外側へ伸びる道には、それぞれ番号が振ってあります。三番の道を外へ向かって歩いていくと、左手側に『緑の屋根』が目印の建物が見えるはずです。それなりに大きな建物ですので、すぐに分かると思いますよ」
「三番の道、左側の緑の屋根。…わかった、ありがとう」
ケッパーはギルド証を大切にポーチへ収めると、一度だけ、カイトたちがいる奥の報告ブースを見やった。まだ時間がかかりそうだと判断すると、彼女は迷いのない足取りでギルドを後にした。




