23 環状城塞都市テスカポル
はじめて作品を書きます。
よろしくお願いします。
毎日朝8時投稿予定です。
テスカポルの北門付近は、物資を運ぶ馬車や旅人でごった返していた。見上げるほどに高い城壁の威圧感に、ケッパーはふと足を止め、列の先で一人ずつ検問を行っている門兵に視線を向けた。
「……シエル。少し気になった、街に入るとき、何も無しで入れる? 今、何も無い」
ケッパーの至極真っ当な懸念に、シエルは「ああ、そのこと?」と軽い調子で肩をすくめた。
「本来なら、入国許可証やギルド証の提示を求められるわね。でも大丈夫、今は私たちが身元を引き受ける形で『白銀の剣』のメンバーってことにしちゃうから。銀等級のパーティーなら、それくらいの融通は利くのよ」
「……信用」
「ふふ、冒険者の世界じゃその『信用』が一番の武器なの」
そんな会話を交わしているうちに列が進み、ついに彼らの番が回ってきた。
「次、止まれ。入城の目的と身分証を」
革鎧に身を包んだ門兵が、事務的な口調で告げる。
リーダーのカイトが前に出ると、腰のポーチから銀色に鈍く光るプレートを取り出し、無造作に提示した。
「『白銀の剣』だ。大密林の調査から戻った。後ろのメンバーも全員、俺のパーティーだ」
「……『白銀の剣』のカイト殿ですね。確認しました」
門兵の態度が、わずかに軟化した。 銀等級ともなれば、一兵卒にとっては敬意を払うべき精鋭だ。そのリーダーが直々に身元を保証している以上、連れの少女一人ひとりに細かく詮索を入れる必要はないと判断したのだろう。
「ご苦労様です。代表者一名の確認で十分ですので、どうぞお通りください」
門兵が横に退き、重厚な鉄格子の先にある街への道が開かれた。
カイトが軽く手を挙げて応えると、シエルが隣の馬に乗っているケッパーに「ね?」と悪戯っぽくウィンクをしてみせた。
「ようこそテスカポルへ! さあ、まずは馬を置いて、ギルドに行きましょうか、その後に最高のご飯を食べに行くわよ」
ケッパーは、これほど簡単に国家の防壁を越えられたことに驚きつつも、
「了解です」と短く答え、円形の街並みが広がる帝国領へと一歩を踏み出した。
門を一歩抜けると、活気に満ちた帝国の日常が広がっていた。 中心部の巨大な監視塔を起点として、街の全方位へと放射状に伸びる真っ直ぐな大通り。整然と区画整理された街並みは、帝国の高い統治能力を視覚的に訴えかけてくる。
「さて。俺たちはこれからギルドに向かって、今回の調査結果を報告するつもりだ。ケッパーも、そのまま一緒でいいんだな?」
カイトが歩きながら隣のケッパーに問いかけた。
「はい。それでいいです」
ケッパーが淡々とした口調で答えると、カイトは力強く頷いた。
「よし、決まりだ。それじゃ中心部に向かうぞ。ほら、あそこに見える『翼』を象った看板の建物。あれが冒険者ギルドだ」
カイトが指差した先、人通りの多い広場に面して、見上げるほど大きな三階建ての建物があった。その軒先には、今にも羽ばたきそうな白い翼の紋章が誇らしげに掲げられている。
「ケッパーちゃん、覚えておくといいわ。あの翼のマークは大陸共通のギルドの印なんだけど、背景の色が国によって違うのよ」
シエルが横から補足するように教える。
「あそこの看板は、背景が鮮やかな『赤』でしょう? それは帝国のシンボルカラー。ちなみに王国だと『青』っていう風に、ベースの色を見ればどこの国の管轄ギルドか一目で分かるようになってるの」
「なるほどです」
ケッパーは無機質な瞳でその赤い看板を凝視し、自身の記憶に帝国のシンボルを深く刻み込んだ。
「さあ、 早く中に入って」
シエルの明るい声に促され、一行は帝国の赤が映えるギルドの重厚な扉へと足を進めた。
ギルドの扉を開けた瞬間、騒がしい談笑の声と、鉄と革の匂いが混じった独特の空気が一行を包み込んだ。 壁面には巨大な掲示板が設置され、そこには帝国の赤を基調とした依頼書が隙間もないほどにびっしりと貼り出されている。その奥には、整然と並ぶ受付カウンターがいくつも存在し、忙しなく書類を捌く職員たちの姿が見えた。
「――おいおい、カイトじゃねぇか! 最近見かけねぇから、てっきりどこぞの魔物の腹の中にでも収まっちまったかと思ったぜ!」
鼓膜を震わせるような野太い声が響き、人混みを割って一人の大男がこちらへ歩み寄ってきた。岩のように分厚い胸板と、歴戦の傷跡が刻まれた腕。その威圧感に、周囲の新人冒険者たちがひるんで道を空ける。
「おう、バルダスか。……ちょっと色々あってな」
カイトは苦笑いを浮かべながら、気さくにその男――バルダスの拳と自分の拳を合わせた。
「あの大男はバルダス。カイトたちと同じ銀級冒険者よ。口は悪いけど、腕だけは確かね」
シエルがケッパーの耳元で、内緒話をするように囁く。
「……なるほどです」 ケッパーが無機質な瞳で見る横で、カイトは話を切り上げるように手を挙げた。
「すまないなバルダス、積もる話は後だ。先にギルドへ報告しなきゃならないことが山積みでね」
「あぁ? ……まあいい、そんじゃあな」
バルダスがニヤリと笑って身を引くと、一行はカウンターへと向かう。
そこでシエルが足を止め、ケッパーの方を振り返った。
「ケッパーちゃん。登録はあっちの端の受付なんだけど……私も一緒に付いていこうか?」
「いえ。……それには及びません」
ケッパーは感情を排した静かな声で、けれど明確に拒絶……あるいは遠慮を口にした。
「そっか。…じゃあ私たちは報告に行ってくるから。何かあったらすぐに呼んでね? 報告が終わったら、この街で一番美味しいお店を紹介するから!」
シエルはそう言って明るく手を振ると、カイトたちの後を追って奥の特別報告ブースへと消えていった。
喧騒の中、一人残されたケッパーは、改めてギルド内を見渡し、 迷いのない足取りで受付カウンターへと歩き出した。




