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ドラゴンキャッスル~城ゲーやってたら異世界に転移したっぽい~  作者: なすちー


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22 魔法とスキル

はじめて作品を書きます。

よろしくお願いします。

毎日朝8時投稿予定です。


 カイトたちを送り出した後、ナナシは独り、執務室で宙に浮かぶ光のパネル――「都市管理コンソール」と向き合っていた。指先一つで地形を変え、建物を配置するその感覚は、まさに神の業そのものだ。


「…商業区を本格的に一般開放するんなら、枢要部への不用意な侵入は絶対に阻止しなければいけないし。軍事施設や重要拠点には、さらなる多重の結界、あるいは物理的な隔壁を設けてセキュリティを一段階引き上げるべきかな…。……それに、滞在者の増加を見越して食糧事情も改善しておきたいし。農耕区画の拡張も、今のうちに並行して進めておくかな…」


 ナナシはぶつぶつと独り言を漏らしながら、仮想マップ上のネクロエリシュオンの施設をスライドしたり、タップしたりする。


「よし、インフラの拡張はこれでひとまず……。さて、次はこっちか」


 パネルを切り替えると、そこには禍々しくも神々しい光を放つ「英雄召喚」の項目が表示されていた。 白銀の剣を無力化したことが「他種族の制圧」としてシステムにカウントされたのか、あるいは街の発展度が一定値に達したのか。ついに四人目の英雄召喚権が解放されたのだ。


「四人目、か。悩むな…」


 ナナシは腕を組み、現在の人員構成を脳内で整理する。 前衛最強のアニス、内政と警護を担うソレル、そして斥候兼暗殺のケッパー。現状の陣営には、欠けている役割がいくつもあるが、その中でも必要なのは…。


「継戦能力を支える回復役ヒーラーを呼ぶか。それとも、広域殲滅魔法に特化した魔導師メイジか……」


 高位の司祭がいれば――もちろんメイド不死隊ではあるが、軍勢の生存率は劇的に跳ね上がるだろう。一方で、大軍を相手することを考えれば、強力な対空・遠距離魔法は喉から手が出るほど欲しい。


「……よし。今のこの国の状況に最も必要なのは――」


 ナナシの指先が、暗闇の中で静かに、そして迷いなく一つのアイコンへと伸びていった。



 同じ頃。陽光が厚い葉の隙間からわずかに差し込む、オルク大密林の深部。


「だいぶ進んだな。このままいけば、予定より早く抜けられそうだ」

 馬の足並みを揃えながら、リーダーのカイトが周囲の様子を窺う。


「……ええ。もう少し進むと森の出口よ」

 偵察役のシエルが前方を指差した。しかし、その直後。彼女の表情から余裕が消え、鋭い視線が左右の茂みへと向けられる。

「――聞いて、囲まれてるわ」


「うむ…」

 呪いから癒えたエンキが、短く、重みのある声で応じた。老戦士の勘は、シエルと同じく森の静寂に混じる「不純物」を捉えていた。


「数は? 相手が何かわかるか」

 カイトが声を潜め、剣の柄に手をかける。


「前方に二、三。後方にも同数。……気配の質からして、多分コボルトの群れね」

 シエルは耳を澄ませ、風に乗ってくる獣臭を分析する。

「おそらく、出口付近で一斉に襲ってくるつもりよ。一番気が緩む場所を狙うなんて、嫌な知恵が回る連中ね」


「よし。なら、こちらは気づいていないフリをして誘い出す。各員、いつでも抜けるよう準備を」

 カイトの指示に、レメディとルルも緊張した面持ちで頷いた。


 その時、レメディの前に座っていたケッパーが、ひょいと自分に指を差した。

「……私が、やる?」


 抑揚のない、静かな問いかけ。


 アニスの「えいっ!」の一撃で自分が吹き飛ばされた光景を知っているシエルは、苦笑いしながら彼女の頭を軽く撫でた。


「ううん、大丈夫よ。ケッパーちゃんは休んでて。このくらい、私たちだけでなんとかなるから」


 シエルは前方の茂みを睨み据える。

「……でも、もし万が一、手に負えなくなったらお願いね?」

 ケッパーにそう答えると、白銀の剣の一行は敵の待つ出口へと歩みを進めた。


 森の出口が近づき、木々の隙間から眩いばかりの陽光が差し込み始めた――その瞬間

「――来るわよっ!」

  シエルの鋭い警告と同時に、前後左右の茂みが爆発したように揺れた。 獣の咆哮と共に躍り出た影。数匹のコボルトたちが、空腹に血走った眼を光らせ、鋭い爪と牙を剥き出しにして一斉に飛びかかってくる。


 だが、「白銀の剣」に動揺はなかった。


「ふんっ!」

 最前方のエンキが、愛槍を最小限の動きで繰り出す。 狙いは一点、最も脆い喉元。飛び込んできた一体の喉笛を正確に貫くと、返り血を浴びる間もなく槍を引き戻し、流れるような動作でもう一体の眉間を穿った。

 老練な戦士による、一撃必死の点撃だ。


「俺が壁になる、後ろのカバーは任せた!」

 カイトが叫び、盾を構えて突進を食い止める。 鋼の盾に弾かれたコボルトが姿勢を崩した瞬間、もう片方の手のショートソードが閃き、確実に敵の機動力を削いでいく。カイトの守りは盤石で、後方の魔導師たちに指一本触れさせない。


 一方、最後列ではルルが静かに、しかし力強く魔力を練り上げていた。


「凍てつく牙よ、地の底より這い出し、魔物を穿て――『アイススパイク』!」


 ルルの言葉と共に周囲の温度が急降下し、地表が白く凍りつく。直後、無数の氷の杭が猛然と突き出し、跳躍していたコボルト二体を空中で串刺しにした。絶命した魔物が光の粒子……ではなく、この地では生々しい死体となって地面に転がる。


「一匹漏れたわよ!」

 氷の杭をすり抜けた一体が、狂乱の叫びを上げてルルへ牙を剥く。 だが、その牙が届くより早く、風のように割り込んだシエルが短剣を一閃させた。


「はいっと!」

 軽やかな掛け声とは裏腹に、刃はコボルトの首を一息に断ち切る。

 その背後では、レメディがいつでも防御障壁を展開できるよう、杖に祈りを込めて控えていた。


 コボルトの群れという日常の脅威を前に、彼らが見せたのは、まさに盤石と呼ぶにふさわしい安定した連携だった。


 戦闘の熱気が冷めやらぬ中、シエルは手慣れた手つきで短剣を振るい、倒れたコボルトの口元からその特徴的な牙を一本ずつ剥ぎ取っていった。


「……何をしているのですか?」

 ケッパーが不思議そうに首を傾げて尋ねる。


「ああ、これね。これは『討伐証明』よ」

 シエルは回収した牙を小袋に放り込みながら答えた。


冒険者組合(ギルド)にはね、わざわざ個別の依頼を受けなくても、特定の魔物を狩ればいつでも報酬がもらえる『常駐依頼』っていうのがあるの。コボルトやゴブリン、オークみたいに、放っておくと増えすぎる魔物が対象ね。この牙をギルドに持っていけば、一本当たりいくらって感じで、小銭……ううん、お小遣い稼ぎになるのよ」


 シエルの説明を聞きながら、魔導師のルルが重い溜息をついて肩をすくめる。

「本当は死体丸ごとの方が、毛皮や肉も売れるから利益は大きいんだけど……。重いし嵩張るしで、とても運べないわ。一部の白金級プラチナみたいな高位魔導師なら、魔法で空間を広げた『空間収納』が使えるみたいだけど、私には到底無理」


「なるほど。ありがとうです」

 ケッパーは納得したように頷いた。


「ま、地道な稼ぎが冒険者の基本ってことよ。……よし、全部取ったわ! それじゃケッパーちゃん、本当に出口はすぐそこよ」


 ふと、ケッパーはルルの横顔を見つめ、静かに問いかけた。


「ルル。……さっきの魔法、必ず唱えなければならない?」


「えっ!? ……そりゃあ、そうだよ」

 ルルは意外そうな顔をして目を丸くした。

「詠唱を省略するなんて、聞いたことないし。普通はちゃんと唱えないと、威力が出ないどころか、魔力が暴走して発動すらしないこともあるんだから」


「そうなのよ、ケッパーちゃん。私の回復魔法や防御魔法も、神聖な言葉を紡いでイメージを固定しないと、うまく形にならないの」

 後ろのレメディも、優しく諭すように頷く。


「そうそう。私の自己強化バフも同じだよ」

 シエルも会話に混ざった。

「体内の『精神力』を練り上げて、周囲にいる目に見えない精霊にお願いするような感じかな。精神力が続く限りは頑張れるけどね」


「……その『精神力』というものがあれば、何度でも、無限に使えるのですか?」


「うーん、無限ってわけじゃないけど……。使う魔法によって消耗する精神力の量は違うから、自分のキャパシティが大きければ、その分たくさん使えるわね。しっかり休めば回復するし」


「なるほど……。貴重な情報を、ありがとうございます」


ケッパーは丁寧に一礼したが、その内面では激しい計算が火花を散らしていた。


(……この世界の理は、『ドラゴンキャッスル』とは根本的に異なる)


 彼女の知るシステムでは、魔法やスキルはすべて「回数制限制」だった。 一日に数回、強力なものなら一週間に三回までなど。その絶対的な回数は、レベルが上がっても増えることはない。しかしその代わり、煩わしい「詠唱」など一切不要。心で念じ、発動を意識した瞬間に現象が具現化する。


 先日の戦闘でアニスが放った、地形を変えるほどの衝撃波。 あれもアニス本人は「えいっ!」と無邪気に叫んでいただけだが、『ソニックウェーブ』というスキルが、無詠唱かつノータイムで発動していたに過ぎない。


(詠唱による発動の遅延。そして、精神力というリソース管理の概念……)


 この世界の住人は、精神力が尽きれば無力化する。でも、休息さえ挟めば一日に何度でも魔法を放てる可能性がある。一方で自分たちは、詠唱の隙はないが、回数を使い切ればその日は「詰み」だ。


(……これは、早急にあるじ様へ報告すべき重要事項です)


 ケッパーの無機質な瞳の奥に、斥候としての鋭い光が宿る。 この世界の「魔法のルール」を知ることは、ネクロエリシュオンが今後、周辺諸国と渡り合う上で決定的な戦略差を生むことになる。


「――はいっ! ケッパーちゃん、ここから先が帝国領になりまーす!」


 森の湿った空気を振り払うように、シエルが晴れやかな声で両手を広げた。 彼女が指差す先、地平線の彼方に、この地方の要所となる景色が姿を現す。


「あちらに見えますのが、帝国の北の玄関口、国境沿いの街『テスカポル』だよ」


 その街は、明らかに一線を画す異質な外観をしていた。 最大の特徴は、街全体を幾重にも囲う巨大な円形状の城壁だ。まるで巨大な同心円を描くように設計されたその壁は、どの方向からの侵攻に対しても死角を作らない、堅牢な造りだった。

 円形の壁の内側には、整然と区画整理された赤い屋根の建物が並び、中心部にはひときわ高い監視塔が突き立っている。


「テスカポル……。円環の防壁…。」


 ケッパーは無機質な瞳でその街を凝視した

 一見、平和な交易都市に見えるが、その城壁の厚さと、等間隔に配置された魔導砲の砲座を彼女の目は見逃さない。


「さぁ、あそこまで行けば柔らかいベッドと温かい食事が待ってるわよ! 、パパッと行っちゃいましょう」


 一行は街に向かって軽快な足取りで歩いて行った。

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