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ドラゴンキャッスル~城ゲーやってたら異世界に転移したっぽい~  作者: なすちー


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21/38

21 王国3

はじめて作品を書きます。

よろしくお願いします。

毎日朝8時投稿予定です。

 約束の三日後、時刻は太陽が天高く昇った正午。 セレーナはいつもの旅装――「白夜」の象徴である、魔力を帯びた黒い光沢の高級ローブを纏い、宿屋『満腹黒猫亭』の一階で静かに待機していた。


「……はぁ。やっぱり、行くしかないわよね」

 最後の一杯のハーブティーを飲み干したその時、宿の前の通りから、よく手入れされた馬の蹄の音が聞こえてきた。続いて、年季の入った木の扉が、控えめながらも確かなリズムでノックされる。


「失礼いたします。セレーナ様はいらっしゃいますか?」


 扉を開けて現れたのは、背筋を真っ直ぐに伸ばし、非の打ち所のない礼法を身につけた若い男性だった。 「お待たせいたしました、セレーナ様。ジークハルト侯爵家が執事、ヴィクターと申します。本日は私が、主のもとまでご案内を勤めさせていただきます」


 ヴィクターは深く一礼し、表の大通りに停められた豪華な馬車を指し示した。その馬車には侯爵家の紋章が誇らしげに刻まれており、庶民的な『満腹黒猫亭』の佇まいの中では、一際浮いた存在感を放っている。


「丁寧な挨拶をありがとう、ヴィクター。案内をお願いするわ」


 セレーナは「白金冒険者」としての毅然とした態度に表情を切り替え、短く頷いた。

 カウンターの奥からおばさんが「気をつけていくんだよ、セレーナちゃん」と手を振る。セレーナはそれに小さく手を振り返すと、ヴィクターが恭しく開けた扉から、侯爵家の馬車へと乗り込んだ。


 ふかふかの座席に身を沈めると、馬車は静かに、しかし力強く、王都の貴族街を目指して走り出した。



 重厚な鉄飾りの正門をくぐると、馬車は邸宅へと続く真っ直ぐな石畳の上を滑るように進み始めた。 左右に広がる並木は、庭師の手によって芸術的なまでに美しく整えられ、中央で涼やかな音を立てる大噴水と、色鮮やかな花畑が見事な調和を見せている。門から邸宅の玄関までかなりの距離があるその広大さは、この家の権勢を雄弁に物語っていた。


 やがて見えてきた白亜の館は、過度な装飾を排しながらも、計算し尽くされた建築美によって圧倒的な高級感と洗練さを醸し出している。 玄関の扉には、侯爵家の象徴である勇猛な獅子の彫刻が施されており、執事ヴィクターがその重い扉を恭しく開けた。


 館内へ一歩足を踏み入れると、高い天井の下、通路の両脇には十数名の使用人が整然と並び、一糸乱れぬ所作で深く頭を下げていた。


「待っていたよ、『白夜』セレーナ殿」


 奥から現れたのは、眩いばかりの金髪と理知的な碧眼を持つ、若き騎士団長ユリアンだった。その立ち姿は剣筋のように鋭くも、浮かべた笑みには貴族らしい余裕が漂っている。

「さあ、立ち話もなんだ。こちらへ」


 ユリアンに促され、案内されたのは、派手すぎずも一級の調度品で整えられた、居心地の良い応接室だった。


「どうか、そちらに。楽にしてほしい」

 彼が示したのは、使い込まれた艶を放つ、座り心地の良そうな革張りの豪華なソファだった。

 セレーナが腰を下ろすと同時、眼鏡をかけた知的な雰囲気のメイドが音もなく近づき、手際よく最高級の紅茶と、色とりどりの茶菓子を並べていく。


「ありがとうございます、いただきます」

立ち上る芳醇な茶葉の香りに、セレーナはわずかに肩の力を抜いた。


「……それで。私を呼び出した『本題』を聞かせてもらえますか?」

 セレーナは紅茶のカップを置き、真っ直ぐにユリアンを見据えた。


「そうだね。単刀直入に言おう。我が王国のはるか東、国境沿いに『リマ』という名の小さな村がある。そこに向かってほしいんだ」

 ユリアンは机の上に地図を広げ、指を置いた。

「目的はその村、および周辺地域の調査だ。何か異変が起きていないか、あるいは不審な影がないか。それを探ってきてほしい」


「リマ村の調査……ですか。いまいち要点を掴めませんが、基本的には偵察だけでいい、ということですよね?」

 セレーナは眉をひそめる。国境沿いの村とはいえ、白金冒険者を動かすような内容には聞こえない。


「ああ。正直に言えば、こちらも確かな情報が掴めていなくてね。……だが、不穏な『予感』がある。さて、報酬の話をしよう」

 ユリアンは真剣な眼差しで、指を五本立てた。

「成功報酬は500,000A(アール)。王国金貨にして五百枚だ」


 一般的な感覚で言えば、1,000Aもあれば宿代と一日二食の食事を合わせてもお釣りがくる。500,000Aという額は、普通の冒険者にとっては大金である。


「依頼を受けてくれるなら、着手金としてまず100,000Aを支払おう。残りの400,000Aは達成報告後だ。移動用の馬車も、最高級のものを用意させよう。どうかな?」


(……調査だけで50万アール? 話がうますぎるわ。何か、よっぽど厄介なものが潜んでいるのかしら)


 セレーナは内心で警戒しつつも、念を押すように確認した。

「……確認ですけど、あくまで『調査』だけでいいのよね? 何か見つけたとしても、自力で解決することまでは含まれていない。情報を持ち帰ればそれで達成、ということでいいのね?」


「ああ。まずは『何が起きているか』を知る必要があるんだ」


「……わかったわ、その依頼、引き受けるわね」

 セレーナは、差し出された重みのある着手金の入った革袋を受け取った。


「感謝するよ。すぐに馬車の準備を――」 「あ、馬車の手配はいらないわ」

 立ち上がったセレーナは、ユリアンの言葉を遮って窓の外を見つめた。


「え? しかし、リマまではかなりの距離があるぞ」

「いいのよ。馬車に揺られるより、飛んでいった方が早いでしょ?」


 セレーナは不敵に微笑むと、ユリアンと短く握手を交わした。

「それじゃ、なるべく早く報告を持ってくるわ」

 セレーナはそう言って一礼すると、応接室を後にした。


 再びヴィクターの案内で、獅子の意匠が施された重厚な玄関扉へと向かう。行きと同じように整列し、頭を下げる使用人たちの間を通り抜け、邸宅の外へと出た。


 舗装された美しい石畳を、正門の方へと歩いていく。 屋敷の全景が見えるほどに距離をとり、庭師や衛兵の目が届かない静かな場所まで来ると、セレーナは立ち止まって大きく伸びをした。


「さて……まずはリマの村に近い、『城塞都市アイゼンフェスト』に行きますか」


 眼下に広がる侯爵邸と王都の街並みが一気に小さくなり、彼女は風を纏いながら東の空へと加速した。


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