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ドラゴンキャッスル~城ゲーやってたら異世界に転移したっぽい~  作者: なすちー


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18/32

18 白銀の剣VSアニス

毎日朝8時投稿予定です。

よろしくお願いします。

 第二試合に向けて、アニスは腰に手斧ハンドアックスを差し、背中には彼女の小柄な体躯には不釣り合いなほど巨大な、柄の長い両刃斧バトルアックスを背負っている。


 アニスは準備運動代わりに軽く首を鳴らすと、いつもの屈託のない笑顔で言い放った。

「皆さん、遠慮なく本気でかかってきてくださいねー。こう見えて私、結構強いので!」


 その言葉を「慢心」と受け取る者は、この場に一人もいなかった。

 カイトたちは、自分たちが今から相対するのが、先ほどのスケルトンたちとは次元の違う「怪物」であることを本能で理解した。


 カイトの合図とともに、白銀の剣は再び鉄壁の陣形を敷く。

「……皆、一瞬も気を抜くな。相手は一人、だがドラゴンを相手にするつもりでいくぞ!」


 カイトが盾を構え直し、エンキが槍を低く構える。その後方でシエルが短剣を抜き放ち、ルルとレメディはすでに詠唱の準備に入っていた。


 中央に立つソレルが、両者の戦意が最高潮に達したのを見計らい、厳かに確認を行う。

「それでは皆様方、準備はよろしいですかな?」


「はーい、おっけーでーす!」

 アニスはピクニックにでも行くかのような軽い口調で、片手をひらひらと振る。


「……こちらも、準備完了だ。いつでも来い!」

 カイトは奥歯を噛み締め、盾の裏側で震える拳を強く握り込んだ。


 ソレルの右手が、鋭く空を切る。


「――それでは、第二試合開始!!」


 合図と同時に、アニスの右手が動く。 腰から引き抜かれた手斧が、投擲というよりは「超高速の弾丸」となって空を裂く。狙いは一点、最後列で詠唱を始めたヒーラーのレメディ。


「え――」 反応すら許されなかった。

 凄まじい風切り音と共に放たれた手斧は、レメディの眉間へと深く吸い込まれる。 直後、闘技場のシステムが発動した。彼女の身体は血を流す代わりに淡い光を放ち、絶命判定と共にそのまま崩れ落ちて消失した。


「レメディっ!?」

 カイトが悲鳴のような声を上げたが、アニスはすでにそこにはいなかった。

瞬きの間に白銀の剣の中央――懐のど真ん中に「出現」したアニスは、背の巨大な両刃斧を抜き放ち、独楽こまのような速さで一閃させた。


「ガッ……!?」

 隣にいたマジシャンのルルは、防護魔法を展開する暇さえなかった。大斧の重厚な刃が、彼女の胴体を紙細工のように真っ二つに両断する。ルルの身体もまた、光の粒子となって闘技場から退場した。


「この、化け物がぁ!!」

 カイトが盾を突き出し、エンキが槍を突き出す。

 だが、アニスは止まらない。振った大斧の遠心力をそのままに、二人の防御を正面から叩き潰した。


「――重いッ!?」

 カイトの誇る大盾が悲鳴を上げ、彼は衝撃だけで後方へ数十メートルも吹き飛ばされ、そのまま場外の壁へと叩きつけられた。体勢を崩したエンキも、アニスの容赦ない足蹴りを腹部に受け、砲弾のように場外へと転がっていく。


 試合開始から、わずか数秒。 立っているのは、死に物狂いのバックステップで辛うじて圏外へ逃れたシエルただ一人だった。


「はっ、はぁ……っ、はぁ……!!」

 たった一度の回避。それだけで、シエルの全身は嫌な汗で濡れ、心臓が爆発しそうなほど跳ねている。絶望的な実力差。仲間の全滅。 だが、シエルの瞳からはまだ光が消えていなかった。


(……完全に、敵わない。でも。一矢、一矢報いてやりたい……!)


 シエルは震える指先で、自身の身体に持てる限りの強化バフを叩き込み始めた。 「『イーグルアイ』……『ミラージュステップ』……『エンチャントファイア』!!」 動体視力が極限まで研ぎ澄まされ、残像を伴う俊敏性が宿り、短剣の刃に紅蓮の炎が渦巻く。


 一方、アニスは追撃の手を止め、斧を背中に担ぎ直して待機していた。

「おっ、バフですかー? いいですよー、ゆっくりどうぞ!」


 アニスは離れた位置で、まるで練習を見守る教官のような余裕を崩さず、親しみやすい笑顔を浮かべていた。


 すべてのバフを注ぎ込み、二振りの短剣を逆手に握り直し、彼女は肺が焼けるほどの深呼吸を一度――。


(いく……!)


 決死の覚悟とともに、シエルが地を蹴る。

全神経を研ぎ澄ませたシエルの視界には、塵の一粒さえもが止まって見えていた。


「はぁぁぁっ!!」

 爆発的な脚力で一気に間合いを詰めると同時に、右手の短剣をアニスの眉間目掛けて投擲する。必殺の鋭さで放たれた一撃だったが、アニスは首をわずかに傾けただけで、その刃を紙一重で回避した。


 だが、それこそがシエルの狙いだ。 回避の隙に『ミラージュステップ』を最大展開。残像を残しながらアニスの死角へと回り込み、予備の短剣を抜き放つ。狙うは守りの薄い首筋。


(これなら――!)


 炎を纏った刃が肉に届くかと思われたその瞬間、カツン、という硬質な音が響いた。

「……えっ?」

 アニスは振り返ることさえせず、左手の小斧を背後に回しただけで、シエルの全力の一撃を完璧に受け止めていたのだ。


「くっ……ああぁっ!!」

 悔しさを振り払うように、シエルは怒涛の連続攻撃を繰り出す。炎の軌跡が空を刻み、幾重にも重なる斬撃の雨がアニスを襲う。しかし、アニスはそのすべてを左手一本、小さな手斧の面だけで軽々と捌き切ってしまう。


 シエルは焦燥に駆られ、再び大きくバックステップして距離を取った。 心臓は早鐘を打ち、全身の筋肉が悲鳴を上げている。対して、アニスは――。


「ふあぁ……。んー、もういいですかー?」

 あくびを噛み殺しながら、アニスは退屈そうに涙目を拭った。


 アニスが、それまで肩に担いでいた巨大な両刃斧を、無造作に下ろした。


「えいっ!」

 掛け声は、まるでお遊戯のようだった。 だが、横一文字に振り切られた大斧が空気を圧縮し、闘技場全体を震わせるほどの超音速の衝撃波を放出した。


「なっ――!?」

 回避など不可能。防御すら意味をなさない。壁一面を削り取るほどの不可視の圧力がシエルの全身を叩き、彼女の小さな体は木の葉のように宙を舞った。


 衝撃に焼かれるような感覚の後、シエルの意識は唐突に、深い闇の中へと突き落とされた。


「そこまで! 勝者、アニス!!」

 ソレルの宣言が響き渡ると同時に、闘技場のシステムが停止した。


「いぇーい! アニスちゃん大勝利ーっ!」

 先ほどまで「死神」そのものだったアニスは、大斧を背負い直すと、両手を突き上げてぴょんぴょんと跳ね回った。そしてすぐさま、呆然と立ち尽くすカイトたちのもとへ、いつもの明るい笑顔で駆け寄る。


「皆さーん、大丈夫ですかー? 怪我、どこも痛くないですよね?」


「……ああ。本当に、どこも傷ついていない……」

 カイトは自分の腹部や盾を確認し、震える声で答えた。

場外へ吹き飛ばされた衝撃も、骨が砕けるような感覚も、今は霧のように消え去っている。だが、その表情は青ざめたままだ。


「……信じられないわ」

レメディは自分の額を何度もさすりながら、力なく呟いた。

「頭を勝ち割られた感覚だけが、嫌なリアルさで残ってる……。これ、しばらく夢に見そうだわ……」


「私なんて……っ、胴体を真っ二つに……」

 ルルは涙目で自分の腰のあたりを抱きしめていた。

「一生記憶に残りそう。……アニスさん、容赦なさすぎですよぅ……」


 アニスの圧倒的な強さもさることながら、死を現実に突きつけられた衝撃は、銀等級の彼らであっても容易に拭い去れるものではなかった。


 一方、特等席からその様子を見つめていたナナシは、静かに思考を巡らせていた。


(……アニスのような『英雄』クラスの個体であれば、銀等級レベルはどうにでもなりそうだ。だが……)


 ナナシの脳裏には、ルルが放った氷の魔法や、シエルが使った多重バフ…、そしてなによりレメディが唱えた打ち消し魔法が焼き付いていた。


(『ドラゴンキャッスル』にも似た効果のスキルはある。だが聞いたことないスキル名、この世界独自のスキルなのか…)


 未知の要素に対する懸念を抱きつつも、ナナシは席を立ち、一行に歩み寄った。


「白銀の剣。見事な戦いぶりだった」


「……はは、ありがとうございます。……あはは、瞬殺でしたけどね」

 カイトは力なく笑い、自嘲気味に肩を落とした。


「今はゆっくり休むといい。今日は本当にご苦労だった」


 ナナシの労いを受け、一行は重い足取りながらも、自分たちを生かし、さらなる高みを見せつけたこの街への畏敬の念を抱きつつ、闘技場を後にした。


「白銀の剣」にとって、怒濤の一日が、ようやく終わりを告げようとしていた。


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