15 市場
はじめて作品を書きます。
よろしくお願いします。
次話翌日9時投稿予定です。
酒場を後にした一行は、整備された大通りをしばらく進み、大きな十字路を西へと折れた。
すると、そこには先ほどまで一変し、無数の商店が軒を連ねる広大な商業エリアが広がっていた。
「ここが商業地区でーす! 消耗品から食材、武器に防具まで、生活に必要なものなら何でも揃う市場ですよ」
アニスの快活な声が響く。
「……これは、すごいな」
カイトは思わず足を止め、目の前の光景に圧倒された。
そこには、生者の街と何ら変わらぬ、あるいはそれ以上の熱気あふれる「日常」があった。
露店を構えているのは、丁寧に服を着こなしたスケルトンや、手際よく荷物を運ぶゾンビ、さらには店先で商品を浮遊させて客寄せをするレイスたち。
漂ってくる香ばしい肉の焼ける匂い。一方で、中には何に使われるのかさえ想像がつかない怪しげな素材を並べる店や、一目で業物とわかる武具を揃えた店が複数並び、魔道書や煌びやかな装飾品を取り扱う店まで、その多様さは帝国の中心街にも引けを取らない。
そんな喧騒の中、一際異彩を放つ存在が一行の目に留まった。若草色のショートカットが鮮やかな、小柄な女性だ。彼女は信じられないほどの身のこなしで、食べ物屋から食べ物屋へと、文字通り「高速」でハシゴしていた。
カイトたち一行の存在に気づくと、彼女は頬をリスのように膨らませて口をもぐもぐさせながら、トコトコと歩み寄ってきた。
「ケッパーです。メイドです。よろしく」
感情の起伏が読めない静かな声で短く挨拶を交わすと、彼女は無表情で続ける。「私は、今…忙しい、では」
そう言い残すや否や、彼女は再び風のような速さで近くの肉串屋の列に並び、
「肉串六本! 」と、注文を飛ばしていた。
その様子を眺めていたアニスは、頬をかきながら苦笑いを浮かべた。
「あはは……。あの子はうちの同僚のケッパーちゃんですね」
「……ねぇ、私、あの店にある魔道書が見たい。見たこともない装丁のものがたくさんあるわ」
黒いローブの裾を握りしめ、ルルが期待に満ちた声を上げる。
「私はあっちの細工物屋ね。予備の短剣と、罠解除用の道具を補充しておきたいわ」
シエルが身を乗り出して隣の通りを指差せば、レメディも少し頬を赤らめて続いた。
「私は、あちらの装飾品店を……。魔力を補助するアクセサリーがあるかもしれないわ。単純に眺めるだけでも楽しそうですし」
メンバーそれぞれの視線が、バラバラの方向を向いている。それを見たリーダーのカイトは、苦笑しながらも頷いた。
「よし、わかった。これだけ広いんだ、一度に見るのは無理があるな。……アニス殿、ここで一旦解散して、各自自由行動にしても構わないだろうか? 頃合いを見て、またここに集合することにしたいんだが」
「もちろんいいですよー!」
アニスは二つ返事で快諾したが、一つだけ釘を刺すように人差し指を立てた。
「ただし! 移動はこの商業エリア内だけにしておいてくださいね。変な裏路地とかに入っちゃうと、流石に私も責任持てないですからー」
「ああ、わかった。皆、聞いたな? このエリアからは出るなよ」
カイトの念押しに、メンバーたちは元気よく返事をした。
「それじゃ、また後でな!」
カイトの合図とともに、白銀の剣の一行は吸い込まれるようにそれぞれの目的地へと駆け出していった
一人残ったカイトも、重厚な盾を扱う武具屋に目を付け、ゆっくりと歩みを進める。
◇
主城、私室
(冒険者、銀等級、それに『帝国』か……。どれも私の知る『ドラゴンキャッスル』には存在しないキーワードばかりだな)
かつて慣れ親しんだはずのゲームの世界。
しかし、カイトたちが語る勢力図や社会構造は、ナナシの知識とは明らかに乖離していた。世界が変貌したのか、あるいは最初から自分の知らない側面があったのか。
「やっぱ、実力がどのくらいあるか確認したいよな…」
ナナシは窓の外、眼下に広がる街を見つめながら、独り言を漏らした。 彼らが語る「銀等級」という実力が、この世界の基準でどの程度のものなのか…




