14 街案内
はじめて作品を書きます。
よろしくお願いします。
次話翌日18時投稿予定です。
翌朝、時間はお昼を少し回ろうかという頃。
そこに、軽やかなノックの音が響く。
「失礼しまーす! アニスです。みなさーん、もう起きてますかー?」
扉越しに聞こえてくるのは、昨日までの余所余所しさが消えた、明るく親しみやすいアニスの声。
「ああ、起きてる。どうぞ入ってくれ」
カイトの返答を聞くと、アニスは元気よく扉を開けて顔を出した。
「おはようございます! 昨日も言った通り、今日は皆さんにこの街を案内しようと思うんですけど、体調の方はどうですか?」
カイトが仲間の様子を確認すると、瀕死だったレメディとルルも、顔色はすっかり良くなり、自分たちで旅の身支度を整えられるほどに元気になっていた。滋養強壮に優れた料理と、清潔なベッドでの休息が、彼らの生命力を驚くべき速さで回復したようだ。
「ああ、おかげさまでな。皆、驚くほど体が軽いよ。案内、ぜひよろしく頼む」
カイトの言葉に、シエルやエンキも準備万端だとばかりに頷く。
「それはよかった! ……あ、それと思い出した」
アニスは人差し指を立てて、思い出したように付け加えた。
「もし皆さんに差し迫った用事とかがなければなんですけど、明日の昼頃、私たちの主との会談の場を設けようと思うんです。いかがですか?」
主――この不死者の街を統べる「ナナシ」という存在。一行を救い、宿を提供してくれた張本人だ。カイトは一瞬だけ表情を引き締めたが、迷うことなく答えた。
「もちろんだ。命の恩人にはぜひ挨拶をしたいと思っていた。その予定でよろしく頼む」
「了解です! 調整しておきますね。……よし、それでは案内を始めまーす! 外は意外と面白いですよ?」
アニスはいつもの快活な口調でそう言うと、カイトたちを促して廊下へと歩き出した。一行は期待と少しの緊張を胸に、足を踏み出すのだった。
宿を出てすぐ、大通りを挟んだ向かい側にその建物はあった 。
「ここがうちの自慢の酒場になりまーす!」
アニスが快活に紹介し、年季の入った重厚な両開きの扉を押し開ける。
店内に一歩足を踏み入れると、そこには外の静けさが嘘のような温かな空間が広がっていた。数セットのテーブル席に加え、十人以上は優に座れそうな立派なカウンター席が目を引く。
カウンターの奥には、見たこともないラベルの酒瓶が壁一面に並んでおり、手書きのメニュー表には酒の肴からしっかりとした食事まで、魅力的な品目が並んでいた。
(アンデッドの街だというのに、どうしてこうも居心地が良さそうなんだ……)
カイトは内心で驚きながらも、ふと現実的な懸念を思い出してアニスに尋ねた。
「すまない、アニス殿。……支払いのことなんだが、ここでも帝国通貨の『G』は使えるだろうか?」
『ドラゴンキャッスル』において、通貨は基本的に金貨で統一されている。武具や資源、プレイヤー同士の取引に至るまで、共通の価値を持つ金貨が基準だ。
アニスは不思議そうに小首を傾げた。
「ていこくつうか……ガル? うーん、私たちの国では聞いたことがない名前ですねぇ。でも、まあ、多分大丈夫ですよ! あとで主に確認しておきますね」
アニスは深く考え込む様子もなく、ケロリと言ってのけた。
「まずはこの酒場で好きなものを頼んで、お昼ご飯にしちゃってください」
そう言って彼女は、一行を日当たりの良いテーブル席へと案内し、使い込まれた木の感触が心地よいメニュー表を差し出した。
白銀の剣の一行が、それぞれ運ばれてきた飲み物や食事を堪能し、人心地ついた頃。
アニスがふとした様子で切り出した。
「ところで……さっき言ってた『帝国』って何なんですか? やっぱり大きな国なんですか? 他にも国ってたくさんあるんです?」
カイトはエールを一口飲み、頭の中で地図を描きながら答えた。
「ああ。ここから見て南、俺たちが『オルク大密林』と呼んでいる深い森を抜けた先にあるのが、ガルグ・ガマ大帝国だ。良くも悪くも完全な実力主義の国でな。平民だろうが関係ない、力さえあればどこまでも出世できる……そんな国だよ」
「へぇー、実力主義! わかりやすくていいですね」
感心するアニスに、カイトは西の方角を指して続けた。
「ここから西へ行くと『リマ』という小さな村があるんだが、そこを越えればアレクサンドラ王国の領土だ。あちらは帝国と違って世襲制。今の国王はアレキサンダー十四世だったかな……。まぁ、俺たちは帝国民だから、王国の内情まではそれほど詳しくないがね」
カイトの話はさらに、未踏の地にまで及んだ。
「北の険しい山々の先には亜人の国家があるらしいが、山の中腹が飛竜の巣窟になっていてな。調査はあまり進んでいない。東も同じだ。大河の先にエルフの住む秘境があるという噂だが、人間とは関わりを持たない種族だから、真相は誰も知らないんだ」
「なるほどですねぇ。……北は竜で、東はエルフ……。ありがとうございます、勉強になります!」
アニスは熱心に頷き、ふと足元を指差した。
「ちなみに……この辺りって、どこの国になるんですか?」
「ここは、どこの領土でもない『空白地帯』だな」
カイトは少し声を潜めた。
「王国と帝国がたまに小競り合いをすることもあるが、帝国からすれば大密林が、王国からすればあまりに辺境すぎることが壁になっている。……それに、それ以外にも何かあるらしいが、正直俺たちのような冒険者にはよくわからんよ」
「へぇー……空白地帯、ですか。色々教えてくれてありがとうございます!」
アニスは満足そうに微笑み、カイトたちがお皿を空にしたのを確認して立ち上がった。
「さて、お腹もいっぱいになったところで、次の場所に案内しますね!」
アニスの明るい声に促され、白銀の剣一行は心地よい満腹感と共に、賑やかな酒場を後にした。




