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ドラゴンキャッスル~城ゲーやってたら異世界に転移したっぽい~  作者: なすちー


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12/17

12 安堵

はじめて作品を書きます。

よろしくお願いします。

次話翌日18時投稿予定です。

 アニスの先導でカイト一行が到着したのは、アンデッドの街には似つかわしくない、ごくありふれた外観の宿だった。


 建物は立派な木造の三階建て。入り口には手入れの行き届いた色鮮やかな花々が咲き誇り、裏手には青々とした牧草地が広がり、立派な厩舎きゅうしゃも併設されている。

 一歩足を踏み入れれば、一階は開放的なフロントロビーとなっていた。

軽食を楽しめるような清潔感のあるテーブルと椅子が並び、二階と三階が客室になっているようだ。どこまでも「普通」で、温かみすら感じるその光景に、一行は拍子抜けする。


 もっとも、カウンターの奥で一行を迎え入れた店主が、がっしりとした体格の――身振り手振りでジェスチャーをする太い骨を持つスケルトンでなければ、の話だが。


(あぁ、この前のオークか……)

 骨の店主を見たアニスは、かつての姿を思い出しながらも、それを表に出さず淡々と階段を上がった。


 案内されたのは、二階の角部屋。五人で使うには十分すぎるほど広々とした、居心地の良さそうな部屋だった。


「こちらをお使いください」

 アニスが扉を開け、静かに告げる。


 カイトは周囲を見渡し、安堵の息をつきながら答えた。

 「何から何まですまない、アニス殿」


「いえ、お気になさらず。主の指示ですので」

 アニスは表情を崩さぬまま、事務的に、けれどどこか丁寧な所作で一礼した。


「負傷されている方には、こちらを。下級の回復薬です」


 アニスはそう言って、細いガラス瓶に入った透明感のある緑色の液体を数本、テーブルに並べた。

「これらも後ほど代金に上乗せして請求いたしますので、遠慮なくご使用ください」


 カイトは、意識を失っている二人の仲間に視線を落とした。

 一人は白いロング丈のローブを血に染めた若い女性。もう一人は、さらに幼さの残る、黒いフード付きのローブをまとった少女だ。

 二人を慎重にベッドへ運び終えると、カイトはアニスに確認した。


「……すぐに使わせてもらってもいいか?」


「もちろんです、構いません」

アニスの淡々とした返事を聞くや否や、カイトは即座に仲間に指示を飛ばした。

「シエル、手伝ってくれ! 、エンキ、お前は彼女たちの体を支えてやってくれ!」


 軽装の女性――シエルと、背中に長槍を背負った寡黙な男性―エンキが素早く動く。

カイトは小瓶のコルク栓を抜き、細心の注意を払って、重傷を負った二人の唇の端からゆっくりと、一滴ずつ液体を流し込んでいった。


(緑色……? 回復薬といえば青が一般的だが、こんな色は見たことがない)


 一瞬、カイトの脳裏に不安がよぎる。しかし、今の彼女たちの容態では迷っている時間はなかった。この得体の知れない薬に賭ける他に、彼女たちの命を繋ぎ止める術はないのだ。


 祈るような心地で、カイトは緑の雫が二人の喉を通っていくのを見守った。


『ドラゴンキャッスル』という世界では、回復薬とは生命力を回復する液体だ。下級回復薬であっても、最大生命力の3割を即座に回復させる恩恵がある。「アンデッドが生命力を?」という疑問はあるが、種族を問わず「命の灯火」が消えかかってさえいなければ、その輝きを取り戻させる薬なのだ。


 ただし、この薬には致命的な欠点がある。 ゲーム内の説明文によれば、「生存本能が全力で拒絶するレベルで糞マズイ」。その味の破壊力ゆえに、一度口にすれば体が拒絶反応を起こし、一分間のクールタイムを置かなければ次の服用は不可能。さらに、飲む際には全神経を集中させる必要があるため、激しい戦闘中の使用は叶わず、落ち着いた場所でしか扱えない代物であった。


 カイトが固唾を呑んで見守る中、ポーションを流し込まれた二人の体が、突如としてベッドの上で跳ね上がった。

「っ!? ぐ、うぅっ!!」 凄まじい味の衝撃に、二人の女性の身体はビクビクと痙攣し、激しくのたうち回る。その様子は回復というより、猛毒を盛られた悶絶のようだった。


 しかし、効果は劇的だった。 荒かった呼吸は瞬く間に穏やかになり、深く裂けていたはずの傷口が、見る見るうちに塞がっていく。先ほどまでの瀕死の容態が嘘のように、二人の肌に赤みが差した。


 やがて、白いローブの女性と、黒いフードの少女が、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

 そして、意識を取り戻した二人が、恨みがましい視線をカイトに向け、完全に重なった声で叫んだ。


「「…………なんてモノ、飲ませるのよ!!」」


 その声には、死の淵から生還した喜びよりも、舌を蹂躙された怒りの方が色濃く滲んでいた。


「よかった……本当に、よかった……」


 カイトはその罵声すらも心地よく感じながら、腰を抜かすようにその場に座り込み、心の底から安堵の息を漏らした。


「いやー、あのポーションの味は何度飲んでも慣れませんからねー、それなのに主様は生命力全快なのに飲ませようとして…」

「…マウスが悪いんだよ…マウスが、左クリックが…」

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