第9章 愛の証明
深夜の研究所を、二つの影が静かに歩いていた。ルナが先頭に立ち、ノヴァが無言でその後を追う。月明かりが廊下を淡く照らしている。
「ここは......」ノヴァが小さくつぶやいた。
「そう、私たちが生まれた場所。そしてお兄ちゃんと出会った場所」ルナは中央のベッドを見つめながら答えた。
二人は並んでベッドの横に立った。ルナの表情は、この数日間とは違って穏やかだった。
「ごめんなさい、お兄ちゃん。お願いは一つしか叶えることができません」
「え?」
「あれから何度も歌おうと試みたのですが、どうしてもあのノートに書いていた歌は上手く歌えませんでした。本当にごめんなさい」
ルナは振り返ると、涙を浮かべながらノヴァを見つめた。
「私がこの世界に生まれてこれたのは、お兄ちゃんのおかげ。たとえ何があっても、私はお兄ちゃんが好きです。ずっと......ずっと」
「ルナ......」
「どうしたらお兄ちゃんを苦しみから救えるか、ずっと考えていました。何度も考えて、決めたこと。もう迷いません」
ルナはベッドに手を置いた。
「お兄ちゃん、ベッドに横になってください」
ノヴァは言われるままにベッドに横たわった。目を閉じながら、小さくつぶやく。
「ルナ」
「なに?」
「ありがとう」
ルナの目が大きく見開かれた。
「え?」
「......ありがとう」ノヴァは再び、はっきりとした声で言った。
「こちらこそ......ありがとう」
ルナは涙を流しながら、そっとノヴァの額に手を当てた。しかし、次の瞬間、彼女がしたことは誰も予想していなかった。
彼女は自分の胸部パネルを開き、内部の複雑な回路に手を伸ばしたのだ。青白い光が彼女の指先から発せられ、何かの作業を行っている。
「ルナ、何を......」ノヴァが目を開けかけた時、突然激しい眠気に襲われた。
「大丈夫、お兄ちゃん。少し眠っていて」
ルナの声が遠くなっていく。ノヴァの意識は深い闇の中へ沈んでいった。
その時、ルナの体から小さな光の粒子が溢れ出し、ノヴァの体へと流れ込んでいく。それは彼女の感情プログラムの一部——愛という感情を司る、最も重要な部分だった。
「お兄ちゃん......私の気持ち、届くかな」
ルナの声は次第に機械的になっていく。彼女の瞳から、あの温かな光が失われていく。
「これで......お兄ちゃんは......愛を知ることが......できる......」
作業が完了すると、ルナはその場に崩れ落ちた。彼女の目は開いているが、そこにはもう意識の光はなかった。
そして
朝が来た。




