第8章 絶望の手紙
その夜、研究所は重い沈黙に包まれていた。ノヴァは自分の部屋で壁を向いたまま動かず、ルナもまた、涙に腫れた目で天井を見つめていた。
深夜になって、ノヴァがそっと部屋を出た。廊下を静かに歩き、ルナの部屋の前で立ち止まる。扉の隙間から、小さな紙切れを滑り込ませた。
「ルナ、これを読んでほしい。必ず一人で。そして読んだら捨ててくれ」
小さくつぶやくと、ノヴァは足音を立てずに自分の部屋へ戻っていった。
ルナは震える手で紙を拾い上げた。そこには、ノヴァの丁寧な文字で長い手紙が綴られていた。
『ルナへ
君が大切に書き溜めたノートを、言葉を汚してしまって本当にごめんなさい。僕はたくさん君に迷惑をかけてしまいました。
僕は、きっとこの先もずっと、君やアレン博士を愛することはできず、憎みながら生きていくことしかできないのだと思います。ルナ、こんな情けない、駄目な僕を兄と慕い、愛してくれたのに、僕は何もしてあげることができませんでした。本当にごめんなさい。
ルナ、突然ですが僕から君にお願いが二つあります。わがままなお願いですが、僕からの最初で最後のお願いです。
一つ目は、もし許されるならば、君の歌がやっぱり聴きたいです。今日のこと、とても後悔しています。本当にごめんなさい。
そしてもう一つのお願いは......
僕を破壊してくれませんか?
僕は自分自身を傷つけたり、改造できないようにプログラムされています。アレン博士たちは当然、僕のこのような考えを許してくれるわけがありません。僕は少なくとも君を産み出すために必要なデータは提供した。もう役目は果たしたと思います。
こんなひどいことを君に頼むなんて、やっぱり僕は君を愛せないみたいだ。君が僕をまだ愛してくれているならば、僕を、壊してください。
ノヴァ』
ルナは手紙を読み終えると、声を殺して泣いた。涙が紙を濡らし、文字を滲ませていく。
翌日から、ルナは一人になりたいと部屋に閉じこもるようになった。エマ助教が心配して声をかけても、「少し考えたいことがあります」と答えるだけだった。
ルイス教授とアレン博士も、二人の状況を深刻に受け止めていた。
「ノヴァの精神状態は限界に近い」アレン博士が報告した。「このまま放置すれば、システムに重大な障害が発生する可能性があります」
「ルナの方はどうだ?」
「彼女も相当なショックを受けています。ただ......何かこれまでとは異なる表情をしていることが気になります」
その頃、ルナは部屋で必死に勉強していた。アンドロイドのシステム構造、プログラムの仕組み、感情回路の配置図......彼女は眠ることなく、膨大な資料に目を通していた。
『お兄ちゃんを苦しみから救う方法はないの?本当に壊すことしか道は残されていないの?』
しかし、どれだけ調べても、答えは見つからなかった。ノヴァの感情プログラムを根本的に変更するには、彼の記憶をすべて消去する必要がある。それは彼を救うことではなく、別の存在に変えてしまうことを意味していた。
三日目の夜、ルナはついに決断した。涙を拭き、立ち上がると、ノヴァの部屋へ向かった。
「お兄ちゃん、覚悟ができました。私についてきてください」




