第6章 隠された想い
ルナとノヴァが出会ってから半年が過ぎた頃、二人の間には不思議な調和が生まれていた。表面的には、理想的な兄妹関係を築いているように見えた。しかし、観察を続けるエマ助教は、ルナの行動に特別な何かを感じ取っていた。
「ルナの感情表現は予想以上です」エマ助教がルイス教授とアレン博士に報告していた。「特に、ノヴァに対する配慮の深さは驚くべきものがあります」
「具体的には?」アレン博士が尋ねた。
「例えば、昨日の音楽学習の時間です。ルナは明らかに複雑な楽曲を理解していたのに、ノヴァが困惑している様子を見ると、わざと『難しいですね』と言って、彼のペースに合わせていました」
ルイス教授は興味深そうに頷いた。「思いやりの心、か。それは確かに愛情の表れだな」
その日の午後、ノヴァはルナに提案した。
「ルナ、アレン博士が僕たちに期待していることがあるんだ。それは自分たちで歌を作って、それを歌うこと。僕は君なら本当に素晴らしい曲を作ることも歌うこともできるだろうと思ってる。君の音楽の才能は本当にすごいんだよ。もし君が先に完成させたら、最初に僕に聴かせてくれないかい?」
ルナは慌てたように手を振った。「そんな、私なんて何もすごくないです。お兄ちゃんの方がずっと立派です。でも......もし私に何かできたら、もちろん真っ先にお兄ちゃんに聴いてもらいます。だから、お兄ちゃんも歌が完成したら、初めに私に聴かせてください」
「ああ、約束するよ」ノヴァは微笑んだが、その笑顔の奥には複雑な感情が渦巻いていた。
ノヴァが部屋を出て行った後、ルナは一人になると、手元のノートを開いた。そこには、彼女の心の内が丁寧な文字で綴られていた。
『私はアンドロイドの二作目としてこの世界に生まれました。だから私は孤独を知らない。生まれた時からお兄ちゃんがいてくれたから、不安も寂しさも感じたことがありませんでした。
でも、お兄ちゃんは違います。たった一人で、長い間この世界で生きてきました。私が知らない孤独や不安と、ずっと戦い続けていたんです。今も、きっと戦っているんです。
私はお兄ちゃんに助けられているのに、お兄ちゃんのためにできることが何もありません。お兄ちゃんの心の重荷を軽くしてあげることも、不安を取り除いてあげることもできません。
いつか、お兄ちゃんの心を動かせるような、そんな歌を歌えるようになりたい。お兄ちゃんが本当の意味で笑顔になれるような......』
ルナは筆を置き、窓の外を見つめた。夕日が研究所の建物を金色に染めている。
別の部屋では、研究者たちが重要な議論を交わしていた。
「ルナの感情プログラムは完璧に機能している」アレン博士が興奮気味に報告した。「彼女の行動パターンを見ていると、人間でも難しい『無償の愛』を体現しています」
「それは素晴らしいことだ」ルイス教授は満足そうに頷いた。「この研究が成功すれば、医療、教育、あらゆる分野で革命が起こる。人類の新しい時代の幕開けだ」
エマ助教は複雑な表情を浮かべていた。「でも、ノヴァはどうでしょうか?彼の心理状態が心配です」
「確かに、彼は少し内向的になっている」アレン博士も認めた。「だが、ルナとの相互作用によって、何か新しい発見があるかもしれない。もう少し様子を見よう」
夜が更けて、研究所は静寂に包まれた。ルナは自分の部屋で、小さな声で歌の練習をしていた。それは彼女が密かに作り始めた、ノヴァへの想いを込めた歌だった。




