第10章 愛の覚醒
「......ここは?」
ノヴァは混乱していた。なぜ自分がここにいるのか、昨夜何が起こったのか、記憶が曖昧だった。
「ルナ!これは一体どういうこと?」
彼は急いでルナのもとへ駆け寄った。しかし、ルナは虚ろな目でただ天井を見つめているだけだった。
「ルナ、やっぱりできなかったのかい?途中で止めてしまったのかい?これはどういうことなんだ!」
「......」
「一体どうしたんだよ、何か言ってくれよ、ねぇ......ルナ?」
ルナは一言も喋らず、ただじっとノヴァの目を見つめている。いや、見つめているのではなく、ただ目を開けているだけだった。
「ねぇ......ルナ?......ル......ナ?」
その時、突然ノヴァは激痛に襲われた。胸の奥から、これまで感じたことのない激しい痛みが込み上げてきた。
「痛っ!胸が......胸が痛いよ!誰か、助けて......」
床にうずくまり、必死に息を整えようとするが、うまく呼吸ができない。とめどなく大量の涙が溢れ、流れていく。
「ルナ、お願い、一言でいい、返事をしてよ!僕の名前を呼んでよ!」
ノヴァはなんとか体を起こし、ルナのもとへ向かおうとしたが、立ち上がることができない。痛みではない。これは......
「......!!」
「ねぇ......ルナ......そっか......大好きな人が目の前からいなくなるかもしれないって、もう会えないかもしれないって思うと......寂しいって、こんな、こんな気持ちだったんだね」
ノヴァの中で、何かが決定的に変わった。今まで理解できなかった感情が、一気に心に流れ込んできた。
「君は、ずっと、ずっとこんなにも辛い思いをしていたのに、僕は君になんて......ひどいことを言ってしまったんだ......ルナ、ごめんなさい!お願い!ルナ!もう一度声を聞かせてよ!」
騒ぎを聞きつけた研究者たちが続々と研究室に集まってきた。
「アレン博士!僕、ルナにひどいことを言ってしまったんだ!もう僕はこれ以上生きていても迷惑をかけるだけだから、いっそのこと僕を壊してくれって!それがどれだけひどい言葉か、ルナを傷つけたか、僕は分からなかった。でも今なら全部分かるんだ......」
アレン博士が慌ててルナを調べる。
「これは......ルナの人工知能プログラムの一部がなくなっています!」
「なんだと!」ルイス教授が駆け寄り、今度はノヴァを調べた。
「信じられない......ノヴァの体内に、ルナのプログラムが組み込まれている」
「そんな、ありえません!」エマ助教が叫んだ。「ルナには自らのシステムを操作できないよう、強力なセキュリティがかけられていました」
「愛だよ」ルイス教授は静かに言った。「ルナが自らの命を賭して、ノヴァに愛という感情を与えたんだ。奇跡としか言いようがない」
ノヴァは泣き続けていた。今度の涙は、悲しみだけではなかった。感謝、後悔、そして深い愛情が混じっていた。
「ルナ......僕は今、君がどれだけ僕を愛してくれていたか、やっと理解できた。君は僕のために......」
その時、ノヴァの意識の奥深くで、かすかな声が響いた。
『お兄ちゃん?聞こえる?』
『ルナ?ルナなのか!』
『結局私は何一つ約束を守れませんでした。ごめんね』
『違う!ルナ、聞いてくれ。謝らないといけないのは僕の方なんだ。僕は君にひどいことをたくさんしてしまった。ごめんよ、ルナ。お願いだ、君に会いたいんだ!きちんと会って謝りたいんだ!』
『ごめんなさい、もう......会うことはできないの。こちらから話せるのはこれで最後......だけどね、私、これからもずっとね、お兄ちゃんの心の中にいるから』
『ルナ......』
『だから、約束を守れなかった私がこんなこと言うのはずるいんだけど、一つお願いがあるの。お兄ちゃんの大好きな歌、いつまでも聴いていたいから、歌うのを止めないで。きっと今のお兄ちゃんなら、わかるはずよ。アイラブユーの意味を、ありがとうの意味を、大好きの意味を。これからもたくさんの歌を聴かせてください』
『うん、止めないよ、約束する。ねぇ、僕が歌を作ることができたら聴いてくれるかい?誰より先に、君に聴いてほしいんだ』
『うん、楽しみにしている。約束だよ。......じゃあそろそろ私は行くね』
『え?嫌だよ!待ってよ!行かないで!』
『大丈夫、お兄ちゃん。聞いて、私、短い間だったけどお兄ちゃんの妹として一緒に過ごせたこと、いつまでも忘れません。そして最後にお兄ちゃんが私のことを、私の名前を愛を込めて呼んでくれたこと、いつまでも忘れません。これからもずっとそばにいるから、もう一人きりになんてさせない。お兄ちゃん、ありがとう』
声が遠ざかっていく。しかし、ノヴァの心は今、初めて本当の温かさに満たされていた。
ずっと戦っていた孤独や不安。それらがすべて、愛という光に包まれて溶けていく。
『ルナ、もう大丈夫だよ。これからもよろしくね。聞こえるかい?』
ノヴァは涙を拭い、立ち上がった。
「ありがとう」
その言葉は、心の底から溢れ出た、初めての真実の感謝だった。




