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プロローグ ― 変な女子と隣の席

朝比奈リクヤは、新しい高校でただ静かな日々を送りたかった。

だが残念ながら、彼の隣の席になったのは、水無月彩花――ハーフギャルでツンデレ気質、何かと彼をトラブルに巻き込む少女だった。


しかも彩花は、この学校に一年しか在籍しない転校生。


最初はくだらない言い合いばかりだった二人の関係も、いつしか忘れられない瞬間へと変わっていく。

けれど、笑い合う日々の裏で次第に募っていく不安があった。


――その「一年」が終わる前に、伝えたいことを伝えられるのだろうか。

プロローグ ― 変な女子と隣の席


始業のチャイムが校舎に鳴り響き、本格的な一日が始まったことを告げる。

朝の自己紹介が終わり、リクヤはようやく自分の席に腰を下ろした。窓際の一番後ろ、いわゆる「変人」や「物語の主人公」が座ると噂される定番の場所だ。

ため息をつき、カバンを机の横に置き、窓の外に目を向けると、まだ桜の花びらが舞っていた。


「ねえ……あんまりボーッとしないでよ、新入り君。」


声が横から聞こえた。顔を向けると、パステル色のリボンを髪に結んだ少女が、手のひらに顎を乗せ、だるそうでありながら興味深そうにこちらを見ていた。


水無月 彩花――。

ついさっき、先生が出席を取ったときにその名前を耳にしたばかりだ。

キャラメルブラウンの髪の毛の先が金色にグラデーションしていて、他の女子生徒とはひときわ違って目立つ。とても平凡なタイプには見えなかった。


「景色を見てただけだよ。」リクヤは短く答える。


「ありがちな言い訳ね。窓際に座る人ってだいたい気取ってメランコリックになるものなの。」

彩花はふっと笑みを浮かべ、腕を組んだ。

「まさか自分をカッコつけた漫画の主人公だと思ってるんじゃないでしょうね?」


リクヤは小さく笑った。

「じゃあ、君はヒロインってことか?」


彩花はすぐに目をひと回しさせた。

「はぁ? 冗談じゃないわよ。そんなの願い下げ。……まあ、私は私でちゃんとヒロインに向いてるけど。」


「……自覚はあるんだな。」リクヤが小声でつぶやく。


「ちょっと!」

彩花は机をパシッと叩き、後ろの席の生徒たちがちらちらとこちらを見てきた。

リクヤは肩をすくめ、何事もなかったかのように目を逸らした。


「今日は静かに過ごしたいんだけどな。」そう言いながら、机の上に小さなポラロイドカメラを置いた。


彩花は身を乗り出し、目を輝かせる。

「えっ、カメラ? 写真家なの?」


「いや、ただの趣味。」リクヤは即座に否定した。


彩花はいたずらっぽく笑う。

「ふふ、じゃあそのうち勝手にモデルになってあげる。」


「……それって脅しか要求か?」


「警告と思えばいいわ。」


授業のチャイムが鳴り、次の教師が入ってきて数学の授業が始まった。

リクヤは前を向こうとするが、ときどき横から彩花の視線を感じる。それは心配そうな視線ではなく、むしろ「どうやって邪魔してやろうか」と企んでいるような視線だった。


先生に指されて黒板に問題を解かされるとき、彩花は小さくつぶやいた。


「恥かかないでよ、新入り君……」


リクヤはちらっと彼女を見て、淡々と返す。

「もし間違えたら、代わりに前に出てくれる?」


彩花は咳払いをして、顔を本で隠した。

リクヤはかすかな笑みをこらえながら黒板に向かった。


昼休み。

教室の空気は一気に騒がしくなる。弁当を広げる者、大声で笑う者、グループで集まる者。

朝からフレンドリーに声をかけてきた、こげ茶の髪の男子・ハルトが近づいてきた。


「よっ、リクヤ! 新しいクラスどうだ? 楽しいだろ?」


「楽しい……かどうかは、変な女子に絡まれるのが楽しいならそうだな。」

リクヤはちらっと弁当を開ける彩花を見やる。


ハルトはその視線を追って笑った。

「おー、水無月か? あいつは有名人だぞ。無神経だけど、まあ……いいやつだ、多分。」


「『多分』って全然安心できないんだけど。」


「まあまあ。もしやりすぎたら俺が止めてやるから。」


リクヤが返す前に、彩花が突然こちらの弁当箱を引っ張った。


「ちょっと借りるわね。」


「借りるじゃないだろ、それは盗みだ!」リクヤが抗議する。


彩花はふたを開け、中身をじっと見つめた。

「ふーん、ご飯に卵焼きにソーセージ……あんまりきれいじゃないわね。これ、お母さんが作ったの?」


「……なんで気にするんだよ。」


彩花はにやりと笑い、卵焼きをつまむ。

「だって今は私のものだから。」


「返せ!」


「もう遅いわ。」そう言って口に放り込み、満足そうに咀嚼する。

「んー、美味しい。七点五ってところね。」


リクヤは呆れ果ててため息をつく。

「お前は……食料モンスターか。」


ハルトは笑いながらリクヤの肩を叩いた。

「ようこそ現実へ、兄弟。水無月の隣に座るってことは……弁当の安全はないってことだ。」


「明日は絶対守る。」リクヤが小声でつぶやく。


「どうぞご自由に。」彩花は頬を膨らませながら答えた。


休み時間が終わり、次は歴史の授業。単調な口調の先生にリクヤは今にも眠りそうになる。

その瞬間、彩花の小さな声が耳に届いた。


「ねえ……寝ないでよ。サボり魔と同じ席って思われたくないんだから。」


「寝てない。ただ……目を休めてただけ。」


「言い訳が古いわね。」


「……先生よりお前の方がよっぽど話すじゃないか。」


彩花は笑いをこらえ、紙切れに何かを書いてリクヤへ押し出した。


――『寝たら顔にヒゲ描くからね』


リクヤは無表情で彼女を見て、紙の裏に書き返す。


――『描いたら写真撮って全校にばらまくぞ』


彩花はしばらく黙り、やがて口元をゆがめて笑った。

「ちっ……新入りのくせにやるじゃん。」


放課後。

下校のチャイムが鳴り響き、リクヤは少しホッとした。

思った以上に疲れる一日だった。

本をカバンにしまおうとすると、彩花が腕を組んで立っていた。


「ねえ、新入り。」


「今度はなんだよ。」


「ちょっと時間ある? 部活で男手が欲しいんだけど。」


「なんで俺が?」リクヤは怪訝な目を向ける。


「探すのめんどくさいし……それに顔がいいから、舞台に立てば人間らしく見えるでしょ?」


「それ、褒めてんのかけなしてんのかどっちだよ。」


彩花はリクヤの肩を軽く叩いた。

「チャンスだと思いなさい。断ったら……先生に『授業中寝てました』って言っちゃうからね。」


「……いつ俺が寝たって?」


「『寝てた』ってことにできるのよ。先生はわかんないし。」


リクヤは長く彩花を見つめ、ぼそっと言った。

「お前、完全に恐喝じゃないか。」


「人材スカウトって思ってくれていいわ。」


しぶしぶ付き合わされ、リクヤは彩花と一緒に演劇部の部室へ向かった。

衣装や小道具が積まれ、台本の山が散乱している。部員たちが慌ただしく動き、部長らしき男子が彩花を見て安堵の顔を見せた。


「水無月! 人連れてきたのか?」


彩花はリクヤの腕を引っ張り、前へ押し出す。

「そうよ、朝比奈くん。彼なら男役やれるでしょ。」


「え、ちょっと待て――」リクヤが抗議する前に、台本を手渡されてしまう。


稽古は散々だった。リクヤは棒読みで表情も固く、完全に教科書を読んでいるようだった。

彩花は何度も笑いをこらえる。


「ほんっと石像みたいな顔してるわね。」


「俺の専門じゃないんだ。」


「でも悪くないよ。……少なくとも、嫌いじゃない。」


その言葉にリクヤは思わず黙り、彩花はすぐに顔を背けて台本に視線を落とした。


夕暮れ。

二人はようやく部室を出る。

校舎裏の道は静かで、風に乗って桜の花びらが舞っている。


「ねえ、朝比奈。」彩花がふと空を見上げながら言った。


「今度はなんだよ。」


「私、この学校にいられるのは一年だけなんだ。」


リクヤは足を止め、彼女を見る。

「……なんで?」


「家庭の事情で転校ばかりなの。だから、ここに馴染むつもりなんてないわ。」


「……つまり、俺に距離を置けってことか?」


彩花は薄く笑った。

「もしできるならね。でも後で後悔しても知らないわよ。」


リクヤは少し考えてから、ゆっくり笑った。

「俺は無意味に生きるのは嫌いだ。一年しかないなら……一年をちゃんと意味あるものにするさ。」


彩花は黙ってから、肘で軽く小突いた。

「ほんと、詩人気取りね、新入り君。」


「ポエムじゃない。ただの本音だ。」


彩花は笑い声をあげる。

「ふふ、まあいいわ。見てなさい。」


やがて二人は分かれ道で別れた。

だがその言葉は夜になってもリクヤの頭から離れなかった。


自室に戻ると、リクヤは小さなアルバムの白紙に、今日撮った教室のポラロイドを貼りつけた。

その下にマーカーで書き込む。


――『初日:変な女子、水無月彩花と同じ席』

やっほー、ミハリイです!

『一年だけこの学校に通うツンデレ少女の隣の席になった俺』を書いてます。

ジャンルはロマンス・学園・コメディで、ゆるく楽しい感じにしてるつもりです。

みんなが楽しんでくれたらめっちゃ嬉しいし、感想とかアドバイスも気軽にくださいね!

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