わしのアイス!
あーあっついなー
今日も相変わらず猛暑日だ。テレビのニュースによると、明日も35℃越えらしい。
「まったくさ、このクソ暑い日にお使いとか…」
俺は大学の夏休みに地元に帰省していた。俺の地元はド田舎で、することといえば家でスマホをいじるくらいだ。今日は庭でばあちゃんにお使いを頼まれた。
そして今、死ぬ気で急な坂を上り、日陰のない道を行き、林の中を抜け、目的地が見えてきたところだ。
「わー涼しー」
ホームセンターに入ると心地いい冷気が体を包み込んだ。
えーと、ばあちゃんが言ってたのは…
肥料と、除草剤か。
…休日なのに誰もいないな。
俺はレジで商品を購入すると店を出た。
「あー暑っ!!!」
行きで汗ダラダラでここまで来たというのに、帰りも同じ道を辿ると思うと、気が狂いそうだった。
普段は自転車でここまで来ることができたが、不運なことに最近自転車を修理に出したばかりだ。
俺のイライラはその時、ピークに達していた。
そのとき、近くにある駄菓子屋のことを思い出した。
そうだ、アイスでも買って、涼もう。
ホームセンターとの距離は近く、疲れずにたどり着くことができた。
実はこの駄菓子屋に来るのは初めてである。
「アイスは… あった。」
小さな冷凍庫に数個のアイスが入っている。俺はそのなかの一つを選んだ。
「このアイス見たことないな…しかも変なパッケージだ。」
パッケージには杖を持った背の低い魔法使いの老人のキャラクターが描かれている。
スマホで検索しても出てこない。パッケージ以外に詳細がないのも、俺の好奇心をくすぐった。
「あの、これください。」
店番のおばちゃんに声をかけてそのアイスを買った。
店の前でアイスを咥えようとする。
見た目は普通のアイスだ。水色で、シンプルなアイスバー。
「大丈夫だよな…アイスに賞味期限はないっていうし」
思い切って口へ押し込んだ。
「うげえええええ。まっず」
クソ不味かった。
エナジードリンクに得体のしれないナニカを混ぜ込んだような味…
一口で気分が悪くなった。
その時、俺は普段なら絶対にしないような行動をしてしまった。地面へアイスをおもいきり投げてしまったのだ。その瞬間、食べ物を粗末にした罪悪感、このアイスを食べなくてよくなった安堵とがごちゃ混ぜになった。
結局アイスを買いなおすこともなく帰路についた。
その途中のことだった。
林を抜けて少し歩くと、遠くの木陰に小さな人影が見えた。
家ももう近い。この辺は田舎だからご近所さんは顔見知りしかいない。堀田のじいちゃんだろうか。
そうして近づくと突然人影の頭部がぐるりと回った。そしてありえない速度で俺の目の前にやってきた。
「っわ!!」
太陽によってさらされた姿は異様だった。日光が降り注いでいるというのにその人の周りだけは暗かった。そして驚くべきはその風貌。スキンヘッドの頭に魔法使いのようなローブに杖。人の骨格ではありえないような大きさの頭部。まさにあのアイスのパッケージにそっくりだったのだ。それが現実世界に存在する違和感。気持ちが悪い。それが偽らざる感想だった。
「あ、あの、何か」
声を振り絞ってそう言った。
「アイスを捨てるな!アイスを捨てるな!アイスを捨てるな!アイスを捨… 」
老人がしゃがれたこえで喚き散らす。
「お、落ち着いてください」
「あいすを捨てるな!アイスを捨てるな!アイスを捨てるな!…」
「アイスを捨てるな!アイスを捨てるな!アイスを捨てるな!…」
「アイスを、
「う、うるさいっ!」
俺が思わずそう叫ぶと老人が急に静かになった。
焦点の合っていない暗い目で下から見上げてくる。
気味が悪くなった俺は老人を通り過ぎ、帰り道を急いだ。
去り際に老人がなにかつぶやいていたが、聞こえないふりをした。
夕方、俺は怖いもの見たさで、あの老人がまだいるか見に行くことにした。夕方で少し涼しくなるかと思えばそんなことはない。暑い。むしろ昼より暑くなっているような気がする。
暑い暑い暑い。汗が止まることなく出ていく。
どれほどあるいただろうか。
もう少しであの爺さんがいたところだ。
ベチャ
俺は突然の音を不思議に思いながら足元をみると、ジャージがずぶ濡れになっていた。そして隙間から粘性の液体が漏れでいた。
「な、なんだこれえ…ごっ…げっほげっほ!」
そのとき、それが足元だけではなく、体全体がその状態であることに気づいた。
全身が溶けていた。
俺は狂乱状態となって走り回った。
日陰はどこだ!日陰はどこだ!
不思議なことに夕日は町全体を包み込み、オレンジ一色だった。
そして気が付けば目の前は昨日の駄菓子屋だった。
「日陰だ…!」
しかし俺はその場に倒れこみ立つことができなかった。
「くそっ!」
必死にもがき日陰に入ろうとする。
意識が沈んでいく。
最期に見たのは上から口を横に広げてニヤニヤしている爺の姿。
嫌だ…いやだ!死にたくない!いやだあ許してくr
こうして一人の大学生がある日突然失踪したのだった。
「たかし、たかしを見ませんでした?」
「いいや、みてないねえ」
「そうですか… ?打ち水でもしたのかしら」
あなたも出会ってしまうかも




