我が家のカレー
仕事から帰ってきた俺に妻が弾んだ声で言った。
「典君! 来年、家族増えるよ!」
妻の両親でも同居するのか? と頭が混乱した後、あぁ! と納得した。
「えっ? もしかして……」
「うん。赤ちゃんできた」
妻は頬をピンク色に染めて言う。
結婚して一年半。なかなか子宝に恵まれず、病院での治療も検討しはじめていた時だった。
「マジかー! やったー!」
と二人でハイタッチし、抱きしめ合い、ひとしきり喜んだ。
これで仕事にもやり甲斐が出る。守る者が増えるというのは、こんなにもモチベーションを上げてくれることなのか。
その夜は、二人でささやかなお祝いをした。
病院の帰りにデパ地下で買ったという真鯛のみぞれ和えを食べながら妻が言う。
「これからいろいろ忙しくなるね」
「まぁな……」
俺は曖昧に言葉を返す。忙しくなるって具体的に想像できなかったのだ。そう言われてみれば、オムツの交換とか沐浴の仕方とか習う教室があるんだっけ? 後、名前決めたり? あ、ベビー用品も準備しなきゃ。
そう思うと確かに忙しくなるな、と思った。
▼△▼
「典君。まずね、うちのカレーを変えようと思うの」
真鯛のみぞれ和えを箸で綺麗に切り分けながら、妻が言った。
「は? カレー?」
「そう。うちのカレーって厳密に言えばシーフードカレーでしょ」
「そうだけど。何か問題ある?」
俺達夫婦は、共に肉が苦手だ。牛も豚も鶏も。
たがら、カレーの具には冷凍のシーフードミックスを使用している。
「子どもが大きくなったら困ると思うの」
妻が言わんとしていることがわからなくて、俺は首を傾げた。
「カレーの具は何? って話題になった時、一人だけ『エビ、イカ』なんて答えたら可哀想でしょ。世の中、カレーの具と言えば? って問われたら、ほぼほぼ、じゃがいも、にんじん、たまねぎ、お肉って答えるよ」
まだ、人の形にもなっていないであろう子どもが、大きくなった時のことを考えていたのか。さすが、母親。
「だから、今週末、普通のカレーを作ろうと思うの」
「今から練習しておくんだな」
「そう。だから食材の買い出し、一緒に行こう」
「いいよ。ただし、肉はいいやつにしよう。最初はいいもので、徐々に普通のやつにして慣らしていきたい」
俺のその言葉に妻は「しょうがないなぁ」と笑った。子どもが生まれることをきっかけに、我が家のカレーは変化しそうだ。
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