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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第18章 限りなく透明に近いクロ
98/130

09

「納得がいかないだなんて言われても困るわね。私の能力は絶対よ。誤審が生じる

余地は無いと断言するわ。もしも間違いがあったのなら、だから大道、あなたの認

識の方じゃなくって?」


 物騒なゲームを終えた翌朝……午前八時。

 いよいよ目的地である沖縄本島が見えてきた時分、一同は晴れ渡った空の下、甲

板にて卓を囲み、朝食を摂っていた。


 三途璃の裁定が覆る事はなかった。どうあれ犯人側の敗北を知らせるアナウンス

が鳴った以上、その判定は彼女の中で絶対という事のようだ。


「でもよお、残り人数が俺と不破さんだけになった時点で、普通は俺達の勝ちにな

るもんじゃあねえの?」

「勝ち負けの判定タイミングはルールで定めていないわ。あなたが油断して夢路を

甲板に導いたのが悪いわよ」

「それは……まあ、せっかくだし劇的に勝利宣言したいだろ」

「それで船外に突き落とされてちゃ世話ないわね」

「あれで脱落した判定になるとは思わなかったんだよ! つーかそれで済むなら、

最初から全員突き落とすだけで良かったじゃあないか!」

「そこはルールの穴という事ね。上手く法の網を潜り抜けた夢路を褒めるべきよ」

「……なんかお前、不破さんに甘くねえ? アナウンスが遅れた事といい、実は肩

入れしてたんじゃあないだろうな?」

「この私がそんな事すると思う?」

「……」

「いいから食事を続けなさいよ。朝から食べるゴーヤチャンプルの味はいかが?」

「……美味いぜ」


 正義はあまり納得していない様子だったが、しばらくすると朝食の味に舌鼓を打

ち始め機嫌を直してしまった。おそろしく単純な個体である。


 そしてどうやら勝負に拘っていたのは彼だけだったようで、三途璃は淡々と食卓

の料理の解説や上陸後の予定を話したりしているし、照にいたっては勝った夢路を

やんややんやと持ち上げている始末だ。


「いやあ、むーちゃんはやっぱりすごいねえ! 最後の最後で逆転なんて、魅せる

じゃん。かっこよかったよ!」

「い、いや、別にそんな……」


 対する夢路は冷めている。

 というか、疲れ切っている。


 ゲームそのものは午前二時ほどで終了し、その後彼女は自室に戻り就寝した。睡

眠時間は十分のはずだが……蓄積された疲労と気苦労が膨大で、全快には至らなか

ったようだ。


「……ていうか照、なんか見てたみたいな言い方だね」

「もちろん! わたしの『オッカムの断頭台(ギロチン)』は空間を切り取るだけじゃなくて、

貼り付ける事もできるんだ。船底と船の中の空間を切り貼りして、自由に見るくら

いは朝飯前だよ」

「えー……そんな使い方あるなんて、初めて聞いたんだけど」

「初めて言ったもん。終日君も三途璃ちゃんも、わたしと一緒に見てたんだよ」

「……」


 夢路は居心地悪そうに目を伏せた。どうやらリアクションに困っているらしい。

 頭を抱える彼女に追いうちをかけるように、忍が音もなく夢路の背後に現れた。


「ちなみに真珠になった私達も、早々に肉体を脱出して意識だけでむーちゃんさん

を見てましたよ」

「な、なんですかその滅茶苦茶な言い分は……」

「最初の被害者だった明智さんの力で、『肉体を失っても活動できる』という旨を

書かれたのですよ。彼が一番最初の被害者になるのは事前に打ち合わせ済みだった

ようですね。だからこそ私も、退屈な被害者側に甘んじる気になったわけですし」

「か、書かれたって……?」

「おおっと! そういえば()()()()()()()()まだ知らない情報でしたっけ? これ

は失敬。ネタバレをしてしまいました。忘れてくださいね」

「……」


 確かに忍の言う通り、夢路は知英の『アガスティアの(ブックエンド)』を見た事がない。一度

だけ目の前で披露された事があるが、その時彼女は意識を失っており、結局それを

目撃する機会は無かった。


 だが、何故忍はそれを知っているのか。


 夢路はその疑問を早々に投げ捨てた。過去の経験から、考えても仕方がない事と

思ったらしい。恐ろしい話である。


「ああ、ご安心を。私はむーちゃんさんが勝つ方に賭けていましたので」

「え、賭け……ですか?」

「いわゆるトトカルチョですよ。ちなみに胴元は明智さんですので悪しからず」

「……」


 夢路は呆れていた。

 自分が孤軍奮闘していた時に、船底の連中も真珠になった被害者も、呑気に観戦

を決め込んでおり、あまつさえ賭け事に興じていたとは。


 しかし、賭けの対象とはいえ勝負は勝負。負ければ世界が滅んでいたと思うと、

茶番だと吐き捨てる事は出来ない。夢路はほっと安堵していた。結局のところどう

いう何が作用して三途璃の能力が味方してくれたのかは分からないが、彼女は深く

考えなかった。朧げに、神が味方してくれたのだと考える程度だった。


 やがて食事を終えると、一同は三途璃の号令で各自の部屋へと戻っていった。ま

もなく目的地に到着するので、準備をしろとの事だ。


 夢路はそれに従った。部屋に戻り、荷物をまとめ、丸い窓から外を眺める。方角

から言って沖縄本島は見えず、昨日の昼と同じく水平線が見えるだけだが、沖縄の

海はどこか広く、エメラルドグリーンに染まっているように見えた気がした。


 と、景色に見惚れていた刹那。部屋の扉が叩かれた。夢路ははっと我に返り、来

訪者と対面した。


「モモさん……?」

「やっほー、夢路。ちょっと入るわよ」


 返事も聞かず、桃色のツーサイドアップが入室した。彼女一体がいるだけで、荷

物がまとめられた殺風景な部屋に彩りが増した。派手な個体である。


「え、ええと……何の用ですか?」

「用ってほどじゃないんだけど……ちょっと確認したい事があるのよ」

「……と言いますと?」


 身構える夢路に、桃井最萌華は優しそうに両手を広げ、「本当にちょっとした事

よ」と笑みを浮かべて見せた。おしゃれな赤縁眼鏡越しにきらりと光らせたその瞳

には、悪戯心が浮かび上がっていた。


「あんた、今からあたしの部屋に行ってみてくれない?」

「も、モモさんのですか……? それって一体……」

「行けば分かるわよ。何もなければそれでいいわ。船が着いたら黄泉丘が迎えに来

るだろうから、そのまま船を降りていいわよ」

「は、はあ……」


 頭の上に疑問符を大量に浮かべつつ、夢路はその言葉に従って部屋を出た。

 そして最萌華は……


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「それで、()()()はどういう了見なわけ?」




 腕を掴み、眼鏡越しにぎろりと剣呑な視線を向けた最萌華は、確かにこちらを見

つめていた。存在しないはずの、私の姿をはっきりと見つめていた。


「そ、そんな!? 私の姿は見えないはずじゃ……」


 二の句は次げない。最萌華に問いかけようとした私の肉体が、みるみるうちに崩

壊を始めたからだ。


 しまった……これは『過干渉』だ!


 慌てて口を閉じ、大きく深呼吸する。どうやら許されたようで、身体が段々と再

生していく。


「ふぅん……なるほど、そういう事ね」

 一連の流れを見ていた最萌華が、底意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「あんた、あたしと……つーか魔神と接触出来ないのね。それ、窮屈じゃない? 

本来なら見られる事もアウトなわけ? だから姿を消してこそこそやってたの?」

「……」

「何で見えたかって? あんた、あたしの能力知ってるでしょ?」


 そう言って最萌華は、自分が掛けている眼鏡をくい、と持ち上げてみせた。


 彼女の神器……『天色(サン・アンド・)眼鏡(ムーングラス)』。視力を強化する効果があるというのは知っていた

が……まさか私の姿が見えるなんて、信じられない……


 そうか、それで彼女は夢路を訪ねたのか。夢路にしっかり貼りついている私と話

をするために。そんな事にさえ、私はたった今気づいた。

 愚かな事だ。相手は魔神……人類を遥かに超越した存在なのに。


「それで? なんで夢路をストーキングしてたわけ?」

「……」

「喋っても大丈夫と思うわよ。あんたは今、こうしてあたしに『見咎められて』、

『腕を掴まれている』からね。受動的な接触は禁じられてないみたいよ。あんたか

ら会話を始めるのはアウトでも、あたしからの質問に答えるのはセーフでしょ」

「……」


 私の腕を掴む最萌華の手に力が加わった。私は身体が崩れるのを覚悟して、口を

開いた。


「きみ達……魔神は危険すぎる存在だからね。あの子には重責を背負わせてしまっ

た……せめて見守ってあげたかったんだ」

「ふぅん……喋れてよかったわね」

「……」


 最萌華は私の答えにさしたる興味を抱いた風でもなく、おどけてみせた。


「冗談よ。あんたの言い分は分かったわ。それでこの間からずっと夢路を尾けてた

ってわけね」

「……」

「今更とぼけても無駄よ。あんた、一昨日も夢路の傍にいたじゃない。電脳世界ま

でわざわざご苦労な事ね。もしもあんたが恋心愛に肩入れしてイカサマの手伝いを

しようもんなら、叩きのめしてやってたところよ」


 最萌華は嗤う。可愛らしい声で、残酷に。

 そうか……あの時も彼女は私に気が付いていたんだ。

 気が付いていながら、放置していたのか。


「多分だけど、あんたに気付いてるのはあたしだけじゃないわよ」

「え?」


 思わず声が漏れ、身体が崩れる。慌てて取り繕うと、最萌華は「動揺しすぎ」と

私の醜態を嗤っていた。


「全員ってわけじゃないけど、少なくとも忍と明智とクソゴミ漂白女は見えてるわ

ね。皆、気付いててあんたを放置してるのよ。あんたは見てるだけで何もしないか

ら、空気と何も変わらないもの。つーか当の夢路が気付くわけないのに、見守るな

んて意味あんの?」

「……」

「ねえ、訊いてるんだけど」

「……意味は、ないよ」

「なにそれ?」

「……私はただ、自分に出来る事をやっているだけさ」


 実際、こんな事に意味があるとは思えない。

 私が見ていようが見ていまいが、夢路の助けにはならない。


 でも私には見ている事しか出来ない。人間に手を回して、極めて間接的に彼女に

心の安寧を与える行為には限界がある。


 だからせめて、彼女の傍にいようと思った。彼女の心の疲弊を共有して、同じだ

けの重荷を背負いたかった。それがたとえ、無意味な事だったとしても。

 だがその無意味な行為さえ、魔神に見咎められるようでは敵わない。


「……あたしも基本的には他の皆と同意見」

 最萌華が冷めた目で私に告げた。

「あんたがどう立ち回ろうと、あんたの勝手だし。あたしらに接触できようができ

まいが、そんなのは知らないわよ。でも、今回だけはまずかったわね。こういう事

はもうこれっきりにしてもらえる?」

「こういう事って……私はなにもしていないよ?」

「あん? そんな事は分かってるのよ!」

「……?」

「あんた、まさか全然気づいてないわけ? いや、あたしも黄泉丘が中途半端に事

態を認識してるとは思わなかったから知らなかったけどさ。あんた、結果的にゲー

ムの邪魔をしたのよ」

「……」


 私には彼女の言っている意味が分からなかった。

 ゲームの邪魔とは何の事だろう。三途璃の中途半端な認識とは何だ? 私は何一

つ出来なかったというのに。

 夢路を助けてやれなかったというのに。


「皮肉な話だけど、結果的にあんたは夢路の助けになってたわよ」

 そんな私の思考を、最萌華がばっさりと切り捨てた。

「まだ分からないわけ? 鈍いわね。問題はあたしが投獄された後よ! あたしも

照と一緒に船底で見てたんだけど……最後に夢路と大道だけになった時、なんで勝

利条件を満たした大道の勝ちをアナウンスされなかったと思う? なんで夢路が大

道を突き落とした瞬間、待ってたみたいにアナウンスが流れたと思う?」

「あ……」


 人間としての思考を巡らせるのに慣れていない私は、ようやく気が付いた。

 そうか、私がいたからか。


 三途璃の能力は、私を認識して数に数えていた。

 だからあの時点では、正義は勝利条件を満たしていない。何故なら、犯人が正義

一人に対して、そうではない者が夢路の他にもう一人……ここにいたから。


「理解した?」

 最萌華が呆れた様子で私を睨みつける。

「今回は初犯だからもういいけど、次は無いから。また似たようなゲームが始まっ

たら、席を外してもらうわよ。いい?」

「……分かったよ。ごめんね、最萌華」

「はいよ。じゃあこれで手打ちね。お疲れ。あんたも肩の力抜いて、沖縄観光楽し

みなさいよ」


 最萌華はそう言ってあっさりと私の腕を離し、部屋を出ていった。

 夢路の部屋に取り残された私に、その後を追う蛮勇は無かった。


 ついに見破られてしまった。


 しかし最萌華は結局、私が何者かという事について、全く言及しなかった。

 もしかすると、知っているのだろうか。私の前身……すなわち、この世界の創造

主の事を。あるいは彼女ならば、会った事があるのかもしれない。


 そう考えれば、あの不遜な態度も納得がいく。いかに魔神といえど、完全に正体

不明の存在と邂逅して、あっけらかんとしていられるわけがない。


 最萌華は何か、私の知らない重要な何かを知っている。


 それを解き明かす事が夢路の助けになるのなら、調べてみる価値はありそうだ。

もっとも、彼女から接触してくれない限り、私からは何のアクションも起こす事が

出来ないけれど。


 だが、やらない選択肢は無い。

 夢路は頑張ってくれている。これまでも、これからも。


 船はまもなく目的地に着く。林間学校はまだ始まったばかりだ。

 これから彼女に背負わせる莫大な心労を思えば、この程度なんという事はない。


 無力な私の存在が、今回意図せず彼女を救った。

 その事実が、私を奮い立たせた。


 魔神。

 この世界に蔓延り、人類を脅かす邪悪な超越者。


 彼らの好きにさせるものか。


 この世界を救う。

 必ずやり遂げてみせよう。

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