表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第18章 限りなく透明に近いクロ
96/130

07

 時刻は午後十一時を回っていた。


 とっくに陽は沈んでおり、悪天候ゆえに月や星の明かりも無いため、夜中の海は

不気味な暗さを湛えている。船の速度と現在地から、おそらく上陸は明日の昼前く

らいになるだろう。その間、この船はずっと海に揺られる事となる。


 部屋に戻った夢路は、じっとしているのが落ち着かないようで、忙しなく室内を

うろつきまわっていた。やがて彼女は備え付けのシャワールームへ向かった。熱い

湯を浴びる事で、眠気と恐怖心を振り払うつもりだろう。


 あられもない姿で部屋に戻ってきた彼女は、真剣な表情だった。


「……」


 一糸纏わぬその裸体は、なるほど数々の魔神達を魅了しただけの事はある。この

猛暑の中においても日焼けした様子の無い真っ白な肌に、小柄で細身ゆえの腰回り

のくびれ。それでいて胸元の主張は激しく、揺れる乳房は官能的だ。ポニーテール

を降ろした髪は艶やかに濡れ、色気に満ちている。


 もっとも、人目を苦手とする彼女にとって、人目を惹くその容姿そのものが大き

なコンプレックスなようだが。


 表立って口にしないが、多くの魔神達が彼女のそういう心理を理解している。だ

からなのか、魔神達はあまり彼女の身体的特徴をあげつらう事はない。無理矢理そ

の肢体を白日の下に晒すような真似はしないし、彼女が傷つくような言動を敢えて

するほど悪辣ではない。魔神達にとって、彼女は一応仲間という括りのようだ。


 だから、白瀬城菜が全裸で現れた彼女の身体を見てしまっても、それは事故だろ

う。たとえそれが、彼女の私室で起きた出来事だとしても。


「し、城菜さん……!? どうしてここにいるんですか!?」


 部屋の中にいた城菜を見て、夢路が大急ぎで浴室へ戻った。彼女の身体を隅々ま

で見てしまった城菜は、ばつが悪そうに頬を掻いた。


「ごめんごめん。まさかシャワーを浴びてるとは思わなくてね。しかもその、全裸

で出てくるのも予想出来なかった。ほら、きみってそういうだらしなさとは無縁だ

からさ」

「自室くらいは気を抜きますよ……! あの、城菜さん、差し支えなければ着替え

を取っていただけると助かるんですが……」

「もちろん構わないよ。わたしはきみをいじめたいわけじゃないからね」


 数分後、夢路が浴室から出てきた。羞恥心や浴室の湿度による熱で、顔が激しく

上気している。反応としては言葉で説明がつけられるものだが、恋心愛が気持ち悪

い言葉で劣情を語るのも無理からぬ事である。


 ただし、城菜はそんな感情をおくびにも出さず、涼しげな顔をしているが。


「突然ごめんね、夢路ちゃん」

「あ、いえ……こちらこそ、その、見苦しいものを見せてすみません……」

「ヌードモデルというのもありだね」

「お、お願いですからやめてください……」


 動揺しながらも明確に否定する夢路。この手の話題になると、彼女は珍しく頑強

に主張をする。城菜はそこを追及せずに、優しい顔をした。


「ねえ夢路ちゃん。わたしがここに来た理由は分かるね?」

「え、ええと……アリバイのためですか?」

「それもある。でもね、きみの精神状態も気になってるんだよ」

「え?」

「勝負に負けたら人類は終わり。きみはそんな結末を望んでいないでしょ? だか

ら頑張ろうとするけど、言いようの無い恐怖心が先行して落ち着かない。違う?」

「……仰る通りです」

「髪を乾かしたら、わたしの部屋においで。安全な場所で今後の事を考えよう」


 城菜はそう言って、部屋を出ていった。夢路は彼女の言葉に安心したらしく、先

程までよりややリラックスした様子でドライヤーを使い、髪を乾かし始めた。


 どうやら彼女の中で、白瀬城菜はある程度信頼を持てる相手らしい。

 かつて彼女は城菜が引き起こした感情の暴走によって痛い目に遭っている。直近

でも黄泉丘三途璃の暴走に一役買っているし、決して無害な個体ではない。その上

で信頼しているという事は、それだけ悪意の無い個体という事だろう。


 それが良い事かどうかはともかくとして、城菜は世界を滅ぼそうという気が全く

無い。先の事件でもアリバイがあるし、夢路としては気を許しやすい相手だろう。


 心なしか軽い足取りで部屋を出た夢路は、幽霊船の如く静まり返った船の廊下を

歩き、城菜の部屋へと赴いた。


 ノックをする。返事がない。


「……あれ?」


 何度かノックを繰り返す。しかしやはり返事がない。


 あれからそれほど時間は経っていない。ああ言った以上、城菜は部屋で自分を待

っているはずだ。自分で誘っておきながら行方をくらますほど、彼女は勝手な個体

ではない。


 そう思った夢路だが、やはり城菜は返事をしない。

 そもそも、室内に気配が無いようだ。


「……」


 嫌な予感がして、夢路は扉を開けた。部屋に鍵は掛かっていなかった。

 そして彼女は目撃する。真珠と化した城菜の姿を。


「……そんな」


 短く呟いた彼女の心情はいかがなものか。信頼していた城菜がやられてしまった

事に絶望した……わけではない。その視線は、彼女の胸元の台紙にあった。


『あと五人。我々は二人』


 この記述は、夢路を背水の陣に追い込むに十分だった。





 数分後、再び一同はホールに会した。

 言うまでもなく、白瀬城菜を襲った下手人を暴くためだ。


「状況は、犯人側が有利なようね」


 三途璃がそう言って、城菜の胸元に残されていた台紙を指した。


 あと五人。我々は二人。

 前回から、犯人の数が減っていない。つまり、終日寝太郎は犯人ではなかったという事

だ。この事は、()()()()()()()()を示していた。


 もしも今回また、同様に犯人ではない相手に票が集まった場合、残り四人のうちの二人

が犯人という事になる。つまり、犯人の数とそうでないものの数がイコールという事にな

るわけだ。人狼ゲームに則ると、負けの定義を満たした事になる。


 また、仮にここで正解を当てられたとして、次は残り四人のうち一人。その後一人消さ

れるから、三人のうち一人になる。ここで外すと、二人のうち一人。やはり負けの定義を

満たした事になる。


 つまり、もう一度たりとも投票に失敗する事は出来ないのだ。

 ここで確実に犯人を当てなければ、人類は滅ぶ。恐ろしい分水嶺である。


「それで? 皆、アリバイはあるの?」


 三途璃の言葉に、誰も答えられなかった。

 夢路も含めて、アリバイを主張できるものはいなかったのだ。


「前の事件で組んでた白瀬さんがやられた夢路はともかく、大道と桃井さんも一緒じゃな

かったの?」

「悪いわね。あたし、シャワー浴びたかったのよ」

「……こう言われたら、部屋に押しかけられるわけないだろ」

「……不純異性交遊してないみたいで何よりだわ」


 二体の主張に、三途璃は完全に納得した。最萌華と正義は付き合っているわけではない

ため、至極当然の話だ。夢路もシャワーを浴びていたわけだし、お洒落な最萌華が身体を

清めたがるのは不自然ではない。


 つまり、手がかり無しというわけだ。


 黄泉丘三途璃。木霊木珠樹。桃井最萌華。大道正義。夢路を除いた四体の内、必ず誰か

が犯人であるはずなのだ。


 それが誰なのか……投票するというのはリスクが高い。

 誰もが無言になる中、最萌華が口を開いた。


「別に今回あのゴミカスを消した犯人を探す必要無いでしょ。終日が犯人じゃなかったの

なら、さっきの続きをやってもいいわけだし」

「お、桃井さん冴えてるな!」

「ふふん、あのカスが消えたから気分が良くてね! このまま平穏な時間が過ぎれば、そ

れ以上の事は無いわ!」


 この状況を平穏と言い張る最萌華の異常性はともかくとして……その一言で焦点は先程

の事件の時に戻った。


 すなわち、先の事件でアリバイの無かった三途璃か珠樹のどちらかが犯人。

 どちらかという確信は無い。


「木霊木さんは最初から今に至るまで、全然アリバイが無いわよね。つまりそれって、犯

人だって事じゃない?」

「……知った事か。ボクが犯人なら、そんな分かりやすい真似はしない。無理にでもゆめ

じを訪ねて、アリバイを確保するだろうさ」

「……どうして夢路なのよ。他の人でいいでしょう」

「黄泉丘、オマエには関係の無い話だ。それよりオマエも怪しいぞ。なにせこの旅程の発

起人だからな。さぞかし動きやすいだろうよ」

「そんなのは証拠にならないわ」

「オマエの言い分もな」

「……」

「……」


 結局のところ、ロジカルに彼女らを追い詰めるのは至難の業だった。魔神の仕業である

以上、証拠なんていくらでも何とでもなるのだ。極端な話、残りの三体のアリバイとて怪

しいものなのだ。どうしてこの二体のうち、どちらかが怪しいなどと言いきれるのか。


 とはいえ、人数は奇数。投票先が二体ならば、必然的に投票で犯人は決まる。


 だが、犯人は二体。彼らは当然、犯人ではない方に投票するだろう。つまり()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。犯人ではない者の票が少しでも割れれ

ば、それは敗北を意味する。


 状況は極めて切迫していた。

 そんな状況下で、夢路が席を立った。


「あ、あの、三途璃さん……」

「なによ、夢路。また情報を黙ってたの?」

「あ、いえ、そうではなく……あの、私、三途璃さんを尊敬しています」

「き、急になによ」

「あなたの事は今後もっと知らなくちゃいけないって思ってます。あなたに真摯に向き合

いたいから。今のところ、あなたのぶれないところが素敵だと思っています。いろいろあ

りましたけど、あなたを嫌っているわけではありません」

「……」

「だからこそ、言わせてください。()()()()()()()()()()()()()()()


 そう宣言された三途璃は一瞬悲し気な表情を見せ、かぶりを振った。


「……理由を訊いてもいい?」

「ジュジュ……木霊木さんは誰かと手を組むタイプではありません。対して三途璃さんは

必要であればこういう余興もするでしょう。明智さんの時は当初から会場の場所をご存じ

でしたし、真面目に考えるとあなたが犯人というのが妥当です」

「……私は」


 三途璃は言いかけて、やめた。この場において、反論する事の無意味さを悟ったのだろ

う。彼女らしい合理さだ。


 夢路は三途璃が犯人だとアピールするよりも、自分は彼女に投票するという事を強調し

た。ちょっと頭が働くならば、投票先が割れたら負ける事は誰にでも分かる。だから他の

者は、彼女に従うしかない。彼女が本当に三途璃を疑っているか否かはともかくとして。


 要するに、ブリタンのロバだ。


 答えが合っているかどうかはともかく、夢路は投票先を固定する事を優先したのだ。

 もしも珠樹が犯人だった場合、もはやどうしようもない。

 だが三途璃が犯人ならば、助かる。少なくとも票が割れて中途半端な事態に陥るという

事だけは避けられるのだ。


 かくして投票が行われた。

 三途璃には本人を除いた票四つが集まり、彼女の監禁が決定した。


 かくして、これで残りは夢路を除いてたった三体。

 長かった夜が、いよいよ終わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ