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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第18章 限りなく透明に近いクロ
95/130

06

 これはゲーム。

 単なる遊びであり、余興であり、暇潰し。


 しかし敗北した暁には世界が滅ぶ。

 まさしく世界の命運を賭けたデスゲームである。


 かつて不破夢路はデスゲームに参加した経験があった。魔神の暴走により、世界

的危機に直面した事も数えきれない。殊にこの手の経験において、彼女は空前絶後

の熟練者と言っても過言ではない。


 だがそんな彼女さえも、これほどまでに明確な宣言をされた事は無かった。


 そしてそれは、魔神達にとっても同様のはずだった。

 いかに血も涙も無い魔神達でさえ、これまで世界の全てを滅ぼそうとした者など

存在しなかった。所詮彼らとて元人間。全人類の殺害は向こう見ずだ。


「……『ラプラスの小悪魔(ファム・ファタール)』。さあ空気の擬人化達よ、わたしの好きな芸術作品を

守っておくれ。人間は気にしなくていい。審判で潔く死ぬのもまた芸術だからね」

「審判……そうね。これも一種の選別と言えるわ。流れに身を任せましょう」

「……どうでもいい。おれは寝る」

「こらこら、寝るなよ寝太郎。今から会議だろ。だがまあ、黄泉丘の言う通りだ。

こいつはノアの箱舟だぜ。人類を秤に掛けるのも面白いな」

「……好きにしろ。ボクは必要になったらその都度生き返らせて使うから」

「あたしはSNSとネットを残しといて欲しいわね。あ、恋心愛がいるんだっけ。

あいつならネットワークくらい守るだろうし、いざとなったら何とでもなるわ。や

っぱいいや、今は楽しみましょ!」

「……」


 この状況においてさえ身勝手気ままな魔神の様子に、夢路は絶句していた。


 これが魔神である。

 人類の繁栄も滅びも、本質的には無意味なのだ。必要とあらば彼らはいくらでも

保護できるし、生き返らせる事も出来る。


 だが、そんな事が許されるわけがない。

 取り返しがつくからといって、生命を弄んでいい理由にはならない。

 大量殺戮者の彼らが今もこうしてのうのうと生きているのは、誰も彼らを消せな

いからに過ぎないのだ。


 魔神とは、掛け値なしの悪なのだ。

 そして夢路は、それと戦う唯一の人類。

 どんなに絶望的な条件でも、負けるわけにはいかない。


 頭を抱えながらも、結局はその結論に達した夢路は、テーブルについた。


 昼間、食事会場として活躍したホールに集まったのは、夢路を除き六体。

 黄泉丘三途璃、木霊木珠樹、白瀬城菜、桃井最萌華、大道正義、終日寝太郎。

 彼らは先刻恋心愛を襲った犯人について、議論をしていた。

 そして今ちょうど、残されていた台紙についての話の最中である。


「犯人が世界を滅ぼすつもりだっていうのは分かったけど……船を占拠っていうの

はどういう意味だろうね」


 台紙を見つめながら、城菜が言う。その言葉に各々が首を傾げる。おずおずと勇

敢に手を挙げたのは、夢路だった。


「え、ええと……あの、城菜さん、人狼ゲームってやった事ありますか?」

「あるけど……つまり夢路ちゃん、今の状況がそれだって言いたいのかい?」


 遠回しな城菜の問いに、夢路は頷いた。


 人狼ゲーム。

 すなわち犯人当てゲームだ。『人狼』と呼ばれる怪物と人間による、グループ単

位の勝負。

 人狼グループは一晩に一人人間を殺害し、一人殺害されたら投票によって人狼と

思しき人物を処刑する。そして次の晩にまた一人、人狼が人間を殺害する。ゲーム

が進行するごとに、一人ずつ減っていくのだ。


「確かにそうだね。わたし達は今、被害者が出る度にこうして集まって、議論を交

わしている。そして犯人を決める方法は投票……この方式、誰が言い出したんだっ

け?」


 既に答えを知っているらしい城菜が意地の悪い声色で周りを見渡した。この場を

取り仕切っているのは当然、委員長である三途璃だ。


「白瀬さん、私が怪しいと思うわけ?」

「さあ、どうかな。ところで人狼ゲームでは、人狼の数が人間に並んだ時点で人狼

側の勝ちが決まる。今のところ、犯人は二人だろう? つまりわたし達が四人まで

減った時に、まだ犯人が二人いたら、船が占拠されるって事かな」


 城菜の問いに答える者はいない。だがその場の空気は、彼女の論理の正当性を言

外に肯定していた。


 確定情報ではないが、おそらく彼女の想定は正しい。

 だからこそ、三途璃に疑いが向くのは自然な事なのだが……


「さて、それじゃあ次の犯人を決めましょうか」


 そんな彼女はその空気などどこ吹く風と言わんばかりに、あっさりと議論を前に

進めた。『犯人を決める』といういかにも彼女らしい独善的な表現に、夢路は疲れ

た様子で苦笑いを浮かべた。


 相手は魔神。通常の論理が通用しない。だからこそ、犯人を決めてかかるしか方

法が無いのだ。


「……それで? 誰か意見はある?」

「あ、あの、私が……」


 またしてもおずおずと手を挙げた夢路。臆病に振る舞いながらも積極的だ。

 この手のゲームでだんまりなのは目立つが、だからといって目立ちすぎるのも危

険だ。何故ならその分だけ注目を集めるから、犯人に消されやすくなるから。


 しかし、と夢路は思う。

 自分には消すほどの価値さえ無い、と。

 彼女の自己肯定感の低さが、この場合かえって功を奏したようだ。


「あの……私と城菜さんは一緒にいました。アリバイがあります」

「……なんで白瀬さんと一緒にいたのかしら?」

「え?」


 三途璃が不満そうに夢路を睨みつける。魔神に睨まれたら反論などできるわけが

ない。黙り込んでしまった彼女を見て、三途璃は大きく吐息した。


「……なんでもないわ。それより今の話は本当? 白瀬さんからは片時も目を離さ

なかったのね?」

「え、ええと、少なくとも愛ちゃんの悲鳴が聞こえた時は、何も……」

「……そう」


 分かった、とは言わない。どうやら三途璃はあくまで投票という決定方法を尊重

し、自ら決定的な言葉を出さないようにしているようだ。すなわち、夢路と城菜の

アリバイについて、今の問答で十分かどうかを彼女は判断しない。あくまでこの場

で情報を明らかにしているだけだ。


「他にアリバイを主張できる人はいる?」

「白瀬のゴミカスと同じ事言うのは嫌なんだけど……あたしもいけるわよ」


 そう言って、最萌華が手を挙げた。城菜に対して尋常ならざる目つきで一瞥くれ

たのち、正義に目を向けた。


「恋心愛の悲鳴が聞こえた時、あたしは大道の部屋にいたわ」

「大道、それは確か?」

「ああ、間違いないぜ」


 当然ながら、正義は否定しなかった。ここにおいてこの二体もまた、夢路達と同

じ条件に立ったわけだ。


「あの、ちなみにモモさん、今朝も大道さんと一緒にいましたよね……もしかして

結構仲良しなんですか?」

「まあ、一緒にカラオケ行った仲だしね。なによ、夢路。あんたも混じりたかった

の? もしかしてあたしの事大好き?」

「いやいや、俺の事が気になるに違いない」

「はいはいはい、余計な事は言わなくていいから!」


 軽口を叩く二体を妨害するように、三途璃が大声を上げた。夢路に強い執着を抱

いている彼女からすれば、面白くない流れだろう。もちろんそんな事、最萌華も正

義もしらないだろうが。


「じゃあ残りは木霊木さんと終日君ね。あなた達はどう?」

「……悪いが他人と群れる趣味は無い」

「……寝てたよ」

「予想していたけれど……張り合いの無い答えね」

「誤魔化すなよ、黄泉丘。今の話から察するに、オマエもアリバイ無いだろ」

「……ええ」


 珠樹の問いに、三途璃は潔く首肯した。

 つまりアリバイが無いのは三途璃、珠樹、寝太郎の三体となったわけだ。


「もちろんアリバイは一つの指標でしかないわ。犯人はトリックを使ったのかもし

れないし……」

「いや、今回はそうでもないでしょ。アイちゃんは断末魔の悲鳴を上げている。も

しもトリックや誤魔化しでその場にいない状態で罠を張ったのだとしたら、あの子

はあんなわざとらしい悲鳴を出すかな? もっと困惑したような声を出すでしょ」


 城菜がそう主張し、他の者は異を唱えなかった。彼女と露骨に敵対している最萌

華でさえ、軽く舌打ちしただけで何も言わない。どうやら坊主憎けりゃ袈裟まで憎

いというわけではなく、一定の分別はあるらしい。


「じゃあ焦点は、三人のうちの誰が怪しいかって話になるな」


 正義が言った。

 すぐに意見を出す者はいなかった。三体のうち、誰が怪しいかという判別はつか

なかったのだろう。


 とはいえ、各々の関係というものはある。


 夢路は三途璃と友人だ。彼女なりに発起人である三途璃には一定の疑いを抱いて

いるようだが、確信がないため口に出せないでいる。


 正義は寝太郎と友人だ。この場合は別に信頼がどうという話ではないが、心理的

に他の二体に目がいくだろう。


 珠樹と友人関係の者はいない……強いて言えば夢路がそれにあたるかもしれない

が、基本的には一匹狼だ。しかしだからこそ、他の連中と手を組んでこんな事をす

るとは考えにくいという負の信頼もあるだろう。


 それでも議論は進む。


 容疑者候補となった三体は口を尽くし、手を尽くし、自分の疑いを避けようと試

みた。

 そしてその結果、最も熱量が小さい者に票が集まった。


 票は無記名で、誰が誰に入れたのかは分からない。

 三途璃に二票。

 珠樹にも二票。

 そして寝太郎に三票集まった。


「……どっちみち、おれのやる事は変わらない。沖縄に着いたら起こしてくれ」


 寝太郎はさして残念でもなさそうにそう言って、自ら船底に向かっていった。


 果たしてこれが正しい選択だったのか。

 それは次にもう一体、犠牲者が出なければ分からない。


 嵐は一向に止む気配を見せない。

 心なしか水面がせり上がっているかのような気がした。

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