表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第18章 限りなく透明に近いクロ
92/130

03

 早くも二体目の被害者が出たというのに、魔神達の反応は呑気なものだった。


「この問題は今夜、夕食会場で話し合う事になったわ」


 唯野さんの真珠化をクラスメイト達に伝えに行った三途璃さんは戻ってきて、そ

んな結論を口にした。


 なんとまあ、悠長な事である。推理小説では普通、連続殺人が発生したら必ずそ

こで関係者一同が集められるというのに、それすら無いとは……


「まあまあ、いいじゃないですか。明智さんにしろ唯野さんにしろ、必要ならば後

で戻せばいいんですよ。たかが身体が固まっただけ、大騒ぎするに値しません。私

達だけで楽しみましょう」


 忍さんはそう言ってにこにこと笑いながら、真珠になった唯野さんを持ち上げた

り振り回したりして遊んでいる。あれ、意識あるのかな。あんな風におもちゃみた

いに扱われたら、彼女も面白くないだろうに。


 しかし……そうか。皆、魔神だもんなあ。死なない魔神に危機感を覚えろという

のも無理な話かもしれない。そもそも唯野さん以外、ろくに怖がったり怯えたりす

るのを見た事がない。私のような人間とは、根本的な考え方が違うのだ。クラスメ

イトが真珠になって、「必要ならば」「後で戻せばいい」なんて暴言、普通なら絶

対に吐かないだろうに……忍さんは相変わらずだ。


「それにしても、誰が何の目的でこんな事するんだろーね?」


 唯野さんの部屋のベッドに我が物顔で腰を掛けて、照が首を傾げていた。

 ……そう、それも気になっていた事だ。


 魔神が死なない事なんて、誰だって知っているだろう。犯人だって魔神なのだか

ら、知らないわけがない。絵面こそ派手だけど、この真珠化だって多分、不可逆じ

ゃない。さっきは連続殺人なんて表現を用いたけれど、動機の面を考えれば、これ

は殺人でも何でもないのだ。


 一体何なんだろう。誰かが自分の能力を誇示している? でもそんな感じじゃな

さそうなんだよなあ……


「……分からない」


 私は誰にともなく弱音を吐いた。

 時刻は午後二時を回っていた。


 私達は捜査のために颯爽と唯野さんの部屋を訪ねたけれど、成果は一向に挙がら

なかった。唯野さんを襲った犯人についての手がかりを、何一つ見つけ出す事が出

来なかったのだ。


 唯野さんの部屋の丸い窓からは、水平線しか見えない。波も無く、肉眼では揺ら

ぎ一つ見て取れない。船の外の穏やかな景色はしかし、私には嵐の前の静けさにし

か思えなかった。


「ねえねえ、これからどうする?」


 やがて捜査ごっこに飽きたのか、照がベッドに寝転がって天井を見つめた。


「はりきって現場に来てみたけど、捜査のやり方とか分かんないよね。ねえ三途璃

ちゃん、これからどうすればいいのかな?」

「そうね……順当に行くなら、皆のアリバイをチェックするべきじゃないかしら」


 三途璃さんも手探りなようで、珍しく自信無さげだ。


「でもさっき夢路が、午前中に甲板に居た魔神には犯行が不可能だって言ってたわ

よね? でも甲板には唯野さんと明智君以外の全員がいたわ。つまり今、全員にア

リバイがあるって事にならないかしら」

「むむむ……忍ちゃんはどう思う?」

「そうですねえ。これが映画なら、多分最後にこの船が沈むと思います」

「ダイナミックだね! つまり皆、真珠になって海に還るって事?」

「照は解釈の鬼ですねえ」


 忍さんがわざとらしく笑い、照が素直そうに笑った。楽しそうで何よりだ。


「とりあえずここにいてもしょうがないわ。甲板に出ましょう」


 三途璃さんがそう切り出したので、私達はまた船内から外へと出た。


 相変わらずどの個体も、午前中と同じように甲板の上で船旅を楽しんでいる。唯

野さんがいなくなった事による影響は全く無さそうだ。次は自分が……などと戦々

恐々している様子もない。誰も彼も、心臓に毛が生えている。


「心配? 大丈夫だよ。むーちゃんは襲われないと思うよ」

「そうですねえ。こういう時、厄介な方から狙うでしょうし」

「……私が守ってあげるわ」


 私の友人達も同様らしく、私がちょっと暗い顔をしたら励ましてくれた。それよ

りも自分の心配……は、しなくていいか。どうせ必要無いだろうしね。


 元のテーブルに戻った私達は、席に着き、風を浴びた。


 誰も何も話さなかった。お喋りな照も空気を読まない忍さんも真面目一徹な三途

璃さんも、何も口にしない。気まずい雰囲気が流れているわけではなく、誰もが何

かを考えているようだった。犯人に心当たりがあるのだろうか。あるいはこの中の

誰かが犯人で、次に誰を狙おうか迷っているのだろうか。もしかすると、考えてい

るような顔をしているだけで何も考えていないのかもしれない。私には及びもつか

ない範疇の話だ。


 そして私もまた、言うまでもなく事件について考えを巡らせていた。

 今のところ、事件は二つ。明智さんと、唯野さんの事件だ。


 明智さんの事件がいつ起きたのかは分からない。けれど犯行が可能だったのは、

唯野さんか三途璃さんの二択だ。


 けれどその唯野さんも被害者になってしまった。となると容疑者は三途璃さんだ

けになるけれど……彼女は昼食の後、ずっと私達と一緒だった。彼女もまた、容疑

者から外さなければならない。


 さっき三途璃さんが指摘した通り、全員にアリバイがある状態だ。推理小説なら

ば、不可能犯罪とでも呼ぶべきなのだろうか。


 ……否。アリバイがあったからって、不可能なんかじゃない。


 まず一つに、これはおそらく複数犯だ。

 真珠にされた二体に残されたメッセージ……『我々は三人』という文言は、普通

に読み解くならば犯人は三人……というか三体といると考えて当然だ。


 それなら、アリバイは崩れ去る。三途璃さんと誰かが共犯で、共犯者は初めから

三途璃さんに昼食会場の情報を貰っていた。そして甲板に出る前に明智さんを襲撃

し、昼食会場に置いておく。こうすれば『犯行は三途璃さんの口から昼食会場の場

所を聞いた後』という前提が崩れるため、誰にでも犯行は可能だ。


 唯野さんの事件も同じだ。全員のアリバイはまだ調べていないけど、共犯者二体

が口裏を合わせたらそれで終わり。いくらでも誤魔化せる。


 それからもう一つ。アリバイなんて何の意味も無い。

 だって彼らは魔神だから。人間の常識を遥かに超えた能力を使えば、いくらでも

無理が利く。


 『つらな(チェーン・オ)りの鎖(ブ・チェイン)』のような空間移動系の能力を使えば、船内に入ったかどうかな

んて確かめようがない。

 『大魔導(ワールドワイド・)師の杖(ワンダーワンド)』を振れば、遠隔で攻撃を与えられそうだ。

 『神域に至る聖杯(フールグレイル)』なら、全員に幻を見せる事も不可能じゃないかもしれない。

 『ヒッカムの(アール・デコレー)(ションフラワー)』で時間を止めれば何でもありだ。

 『深淵の(エルダー・オール)大帝(ド・ドリーマー)』なら、見かけ上眠ったままでも夢の中から攻撃できる。

 『歩む(アナザースカイ・)(ウォーカー)』以前に、恋心愛は自分のバックアップを無数に持っている。


 忍さんや大道さんにしても、三つ目の能力がどんなものか分からないから、どう

誤魔化してくるか想像さえできない。


 今残っている個体で唯一誤魔化す事が出来ないのは……皮肉にも三途璃さんだ。

破壊と創造(リボーン・アンド・)の鎌(デストロイヤー)』も『ブリタンの憐れな子羊(ダブルバインド)』も『生け(メルトダウン・)る炎(ミッドナイトサン)』も、派手さゆえに

私の目を掻い潜るのは不可能だ。ある意味彼女らしいといえばそうだけど、だから

何だという話でもある。彼女が犯人の一体である可能性は、依然としてゼロとは言

えない。


 ……お手上げだ。

 魔神を相手に推理を武器にするなんて、やっぱりどう考えても無謀だった。私は

負けるべくして負けたのだ。


 悔しくはない。当然の結果だ。

 そして、それはそれで別に構わない。


 誰の仕業か知らないけれど、どうせ魔神同士の戯れだろう。こういう遊びならば

人類に損害は無いだろうし、危険でもない。唯一、私がターゲットに選ばれたらと

思うと気が気でないけれど、こうして複数で行動している以上、多分大丈夫。目の

前にいる三体が共犯者でなければ、だけど。その場合はしょうがない。照が相手な

ら、そう酷い事はされない……と思う。多分、きっと。


 あまりにドラマチックな展開が続いたからつい焦ってしまったけれど、この展開

はむしろ望むところだ。


 落ち着け、私。今のうちに、心の安寧を享受しようじゃないか。

 相変わらず、風は凪いでいる。さっきは嵐の前の静けさだなんて思ったけれど、

よく考えると普通に穏やかなだけだ。これから誰が真珠になろうが、事件がどんな

展開になろうが、誰も騒ぎ立てないし、私は安泰なのだ。恐怖が無いと言えば嘘に

なるけれど、どうせ成り行きを見守る事しか出来ないし、しょうがない。


 私はこの穏やかな海の波と同じ。流されるだけだ。


「海が綺麗だね、照」

「んー? そうだねえ」


 開き直ってみると、照が眠たげな声を返す。

 その声につられて、私も船を漕ぎ始めた。

 うつら、うつら。

 夢の中で、青髪の少年が呆れたような顔をしていたような気がした。





「……あれ?」


 気が付くと、周囲が橙に染まっていた。


 太陽が黄昏を帯びて水平線に沈みつつある。色めき立った潮騒が昼間よりも僅か

に騒がしく、今更のように波が出始めていた。

 いつのまにか、結構長い間午睡に興じていたらしい。照もいるとはいえ、魔神に

囲まれて眠るなんて、気が抜けすぎてるなあ……


 ぼやけた目を擦り、周りを見る。甲板にはすっかり魔神が少なくなっていた。陽

が暮れて、自分の部屋に戻ったのかな。まさか皆、真珠になったって事は無いだろ

うけど……


「遅いお目覚めね、夢路(ゆめじ)

 隣から声を掛けられた。三途璃さんが私をじっと見つめていた。

「え、ええと……あの、どうしてそんなに見ているんですか?」

「理由は無いわよ。情熱の視線を送っているだけよ」

「……」


 気まずくなって視線を逸らす。すると……あれ?

 照と忍さんがいなくなっていた。


「あの二人なら、暇になったから船の中を探検するって言ってどっか行ったわよ」

「あ、そうなんですか……」

「それより、そろそろ夕食の時間よ。会場に行きましょう」


 三途璃さんはそう言って私の手を掴んだ。いつも照がやる動作と同じだけれど、

心なしか彼女のそれは、どこかねっとりとした湿度を孕んでいるような気がした。


「あ、あの、三途璃さん。その、私……」

「……気を遣わなくてもいいわ。今回、あなたへのアプローチはほどほどにするつ

もりよ。なんたって、林間学校だもの。委員長として、あなた一人にうつつを抜か

してはいられないわ」

「ほ、ほどほどですか……」


 これでほどほどとは、情熱的な個体だ。どうアプローチされても、私としては困

るだけなんだけど……


 三途璃さんは甲板に出ていた数名に声を掛け、私とともに夕食会場へ赴いた。

 昼食会場とは別の部屋だった。広いクルーザーの階段を深くまで降りた先、紫の

地に星を模したような幻想的なカーテンを掛けた大きな部屋が出迎えた。


 真珠を模したミルク色の円卓を、人魚を思わせる水色と青のグラデーションが美

しいビーチチェアが囲むようにして並んでいる。


 その席は、九つまで埋まった。


「……あれ?」


 今、残っているのは私を含めて十体のはず。

 誰かがいない。


 誰からともなくざわめいて、目を走らせた。

 私の隣には三途璃さんがいる。その隣に城菜さんがいて、愛ちゃんがいる。さら

に大道さんと終日さんが座っていて、二つ席を飛ばしてジュジュさんが、さらに一

つ飛ばした先にモモさんがいて、私の反対隣に照がいる。


 ……忍さんがいない。


「……照、忍さんとはいつまで一緒だったの?」

「え? ほんの十分くらい前に、晩御飯の準備するって言って別れたけど……」


 照は私がどういう類の問いを口にしているのか想像もつかない様子で首を傾げて

いた。


 そこから先は、語るまでもない。

 全員で忍さんの部屋に行って、真珠と化した彼女を発見した。


 そして彼女の胸元には、台紙が一枚。

 あと九人……我々は三人。


 ざわめきが起きた。

 少しずつ減っていく残り人数に、恐れおののいているわけではないと思う。


 空々忍。

 私の知る限り、最も強力で危険な個体に数えられる。

 その彼女がやられた。危機感とは言わないまでも、驚愕くらいはあって当然だ。


 一体誰にこんな事が出来るというのか。

 本当にこの中に犯人がいるのか。

 何とも言えない不気味さが、遅まきながらようやく一同の中に生まれ始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ