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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第18章 限りなく透明に近いクロ
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02

 魔神を害する事ができるのは、同じく魔神の能力だけだ。


 それでいて、魔神を殺す事だけは誰にも出来ない。だからこそ、未だに魔神達は

十一体、誰一人欠ける事無く存在し続けている。


 ……いや、より正確に言うなら『殺せない』というより、『死んだままにならな

い』とでも表現するべきだろうか。


 先日、桃井(ももい)最萌華(ももか)恋心(こいごころ)愛を殺した。


 勝負の最中の、半ば事故みたいなものだったけれど、よく考えると私はあの時、

はじめて魔神が死ぬところを目撃したのだ。


 でも結局、すぐに生き返った。これまで肉体を欠損した時と同じように、生命さ

えも容易く再生させてしまったのだ。モモさんも愛ちゃんも死んだ事、殺した事を

全く気にしていない様子だった。


 能力の中には、時間を巻き戻せるものもある。他者に生命を与えるものもある。

神羅万象を操るものもある。理屈を無視するものもある。彼らにとって、死は本当

に不可逆でもなんでもないのだ。


 だからこそ、人類は追い詰められている。

 だからこそ、私はこの珍事に対してある種の冷めた目をせずにはいられない。


「くっそー! 誰だよ、知英をこんな目に遭わせたやつは!」


 義憤に駆られたのか、大道さんが代わり果てたクラスメイトの肩に手をやって、

拳を震わせていた。数少ない男子だし、仲が良いのかもしれない。


「こ、こんなのおかしい……! 誰が、何の目的でこんな事するの……?」


 明日は我が身だとでも思っているのか、唯野さんが怯えたように周りを見渡す。

相変わらず魔神のくせに、人間味のある怯え方をするものだ。


「ひょえー、アイちゃんgkbrだにぇ! こいつぁきっと、連続殺人の幕開けな

んだにぇ! 理想的なクローズドサークルだにぇ……ナマンダブ、ナマンダブ!」


 愛ちゃんも怯えて……るのかな? なんか、騒動にかこつけて楽しんでいるよう

にも見える。どうやら彼女の新しい肉体は、心臓に毛が生えているらしい。


「全身が真珠になるなんて、超映える! でもせっかくだし、もう何体か並べてみ

たいわね。次は誰? 夢路は顔がいいから、なってくれると嬉しいわ!」

「クローズドサークルねえ……アイちゃんは面白い事言うね。さて、次にこうなる

のは誰なんだろう。個人的には、夢路ちゃんがこうなると芸術的なんだけど」


 モモさんと城菜さんがほとんど同時にそんな事を言った。語り口は違うのに、最

終的に私に目を向ける辺り、やっぱりこの二体は似た者同士である。もちろんこん

な事を口に出したら、ただじゃすまないから何も言わないけどね。どちらにせよ、

彼女らも愛ちゃんと同じく、楽観的だ。


 他の個体に関しても、大なり小なり似たようなものみたいだ。照なんかは明智さ

んの姿を一瞥しただけで「ふぅん」と興味を失くして「むーちゃん、いい匂いがす

るよ」などと言って私の手を引いて、卓に用意された食事に興味津々な始末だ。


「おいおい皆、ちょっと待ってくれよ! 知英の様子を見ろよ。これはただごとじ

ゃあないぜ!? 飯なんて食ってる場合なのか?」


 こうなると、真面目に問題に取り組もうとしている大道さんが浮いているくらい

だ。同じ男子の終日さんでさえ、「落ち着けよ、正義(まさよし)。こんなの一晩寝たら元通り

だろう」なんて投げやりな事を言っている。


 魔神は死なないのだから、こういう反応は当然だ。もちろん人間としては、大道

さんや唯野さんの反応だって分かるけれど。


 大道さんの訴えも虚しく、ほとんどの個体が呑気に自分の名前が書かれたネーム

プレートの前に座り、食事に興味津々だ。ジュジュさんなんて、こっそり明智さん

の前に出された食事に手を付けていた。死人に口なしとはまさにこの事である。


「……しょうがないわね」


 やがて三途璃さんが立ち上がり、手を叩いた。さすがは委員長……とでも言うべ

きか、彼女の振る舞いは奔放な個体達の注目も集め、沈黙を呼んだ。


「大道の言う事も一理あるわね。せっかくの船旅だもの。もしもこれがつまらない

諍いの延長線にあるのなら、さっさと解消した方が双方のためになるわ。それで?

誰が明智君をこんな風にしたの? 怒らないから名乗り出なさい」


 三途璃さんの口調は優しく、咎めるような雰囲気は無い。個体同士の揉め事には

あまり干渉しないつもりなのか、『ブリタンの憐れな子羊』も行使していないよう

だった。その証拠に、明智さんを攻撃した個体は名乗り出なかった。


「……オーケー、仕方がないわ。とりあえず今は様子見しましょう。大道、文句は

無いわね?」

「……分かったよ」


 大道さんはいかにも不承不承に頷いて、卓についた。


 かくして林間学校一日目の昼が始まった。


 食卓に用意されていたのは、定食のように真っ黒なお盆に乗った異国情緒溢れる

食事だ。ひじきと豚バラ肉が入った炊き込みご飯に、豚の角煮みたいなものが入っ

た太麺のそば、ピーナツ風味の真っ白な豆腐、小鉢のもずく、細切りにされた……

これはなんだろう。


「ミミガー……豚の耳ですね」

 箸を掬ったのと同時に、忍さんが私と全く同じ姿勢で細切り肉を取っていた。

「炊き込みご飯はジューシー、ソーキそばにジーマミー。典型的な沖縄料理です。

うふふ……三途璃ちゃんったら、いいチョイスじゃありませんか。早くも南国気分

が味わえますねえ」

「し、忍さん……詳しいですね」

「実は昨日、ちょいと実地調査しましてね。沖縄を勉強したのですよ」

「……」


 旅行に行く前に下見をしたのか。台無し……とは言うまいが、なかなか変わった

楽しみ方である。そういえばこの個体、よく旅行に行くんだっけ。昨日のうちに沖

縄の生態系が変わっていなければいいんだけど……


 とりあえず、私も食べよう。まずは箸に取ったミミガーとやらから……あ、コリ

コリしておいしい。豚肉を食べてるって感じはしなくて、どっちかというと珍味み

たいな味わいだけど、癖になりそうだ。


「むーちゃん、美味しいね!」

「……うん」


 料理に舌鼓を打ちながら、照と顔を見合わせる。単純な感想ではあるけれど……

なんか安心するなあ。こういう時、照の単純さは落ち着く。


 でも、ちょっとリラックスしすぎたのは認めなければなるまい。


 何故ならこの中で最も人間の感性に近い唯野さんが、食事にほとんど手をつけず

に青ざめた顔でがたりと席を蹴飛ばしたのだから。


「み、みんなおかしいよ……! なんで落ち着いてられるの!? この中に、明智

君を真珠にした人がいるんでしょ……? 名乗り出ないなんて、何考えてるか分か

んないじゃん! そんな人がいる状況で、呑気に食事なんて出来るわけないよ!」

「……」


 唯野さんは普段、そうやって声を荒げる事をしない。そうやって他の個体から注

目を浴びるのが嫌なのだろう。

 でも今、彼女は錯乱していた。それだけこの状況が怖いのだろう。当たり前の感

性ではあるんだけど……この場では浮いていると言わざるを得なかった。


「……っ!?」


 魔神達の困惑や冷笑を受けて、唯野さんが固まった。困り果てたからか、私に視

線を送ってくる。こんな空気で同調するわけにもいかず、私は曖昧な笑みを浮かべ

る事しか出来なかった。


 やがて唯野さんは走り去っていった。去り際に、彼女らしい捨て台詞を残して。


「こ、こんな不気味な事する人と一緒にはいられないわ! 私、自分の部屋に戻る

からっ!!」


 唯野さんの背中を見つめながら、愛ちゃんが感心したように溜息を零した。


「お手本のような死亡フラグだにぇ。アイちゃんも見習いたいにぇ」

「……」


 私はノーコメントを貫いた。それ以上、誰も唯野さんの挙動には触れなかった。


 やがて食事が終わり、私達は再び甲板に出た。面子は朝と同じく、明智さんと唯

野さんを除いた九体と私だ。朝と同じように、私は照、忍さん、三途璃さんと卓を

囲んでほのぼのとした雰囲気を味わっていた。


 朝よりも少しだけ日差しが強くなった海は、眩しいほどに太陽の光を反射してい

る。眼下でうみねこがキィキィと鳴く声が聞こえてくる。あんな事があっても、海

の上は平和そのものだ。魔神の存在そのものが剣呑だと言われればそれまでではあ

るけれど。


「……むーちゃん、どうしたの? 何か考え事?」


 ぼーっとしていると、照が顔を覗き込んできた。何も考えていないような金剛石

の瞳は、ぼんやりとした輪郭の私を映し出している。

 私の頭は取り留めの無い事に囚われていた。


「んーとね……明智さんをあんな風にしたのは誰なのかなって考えてたんだ」

「ふぅん? やっぱり怖いから?」

「そういうわけじゃないけど……でも、トラブルはごめんだからね」

「むーちゃんらしいね。で、何か分かった?」

「ん……まあ、ちょっとだけね」


 手がかりというほどではない。でもぼんやりと怪しい個体はいる。


「真珠になった明智さんは、食事会場のホールに置かれてたよね。ただ明智さんを

攻撃するだけならそんな必要は全然無いし、あれってつまり見せびらかす意図があ

ったと思うんだ」

「見せびらかすって、誰に?」

「そりゃあ、私達にでしょう。明智君の懐にあった台紙には、私達へのメッセージ

が書かれていたんだから」


 照の疑問に三途璃さんが答えた。その上で、彼女は私を見つめる。


「それで? 見せびらかす意図があったとして、夢路はどう考えるのかしら?」

「え、ええと……そういう意図があったとしたら、犯人は昼食の会場があそこだっ

て分かっていないといけません。そしてそれを知るタイミングは、三途璃さんが声

を掛けてから以降です」


 お昼前、忍さんと照が空腹を訴えたので、三途璃さんが昼食を提案した。私達は

そこで初めて、昼食会場がホールである事を知ったのだ。


 おそらく、他の個体も同じだろう。昼食の場所までいちいち旅行のしおりに書い

ていないし、事前に説明があったわけでもない。


「それで……ええと、三途璃さんは皆さんに昼食の事を伝えに行ったんですよね?

それって、どういう手順で行ったんですか?」

「どういうも何も、普通よ。まずはあなた達三人に、それから甲板に出ている他の

皆に、それから船内に入って操舵室にいる唯野さんに、最後に明智君はどこにいる

か分からないから船内放送で呼び出したわ。それからデッキに戻って皆と合流して

一緒に食事会場に……って、そこからはあなたも知っての通りね」

「……はい」


 甲板にいる個体達は、三途璃さんが戻ってくるまでその場から離れたりはしなか

ったと記憶している。そこから先は三途璃さんと一緒だから、犯行のチャンスは無

い。アリバイというやつだ。


「犯行のチャンスは、食事会場の場所を知ってから、私達全員が食事会場に着くま

での間しかありません。でも甲板にいた方々は単体行動するチャンスが無いから、

犯行は不可能です」

「なるほどなるほど。つまりむーちゃんさんは、明智さんの他に唯一船内にいた唯

野さんを疑っているというわけですね?」

「あ、あくまでその可能性があるってだけですけどね……」


 これは状況証拠に基づいた推論でしかないから、確かな事は言えない。

 厳密にはもう一体、犯行が可能な個体もいるし。


 唯野さんを呼びに船内に入った三途璃さんなら、犯行のチャンスはあった。

 というかそもそも三途璃さんは食事会場の事を初めから知っているのだから、そ

れでなくともアリバイは無い。


 もしもこれがミステリならば、犯人は唯野さんか三途璃さんの二択だ。

 普通のミステリならね。あーあ、嫌になるんですけど……


 肩を落とす。すると照が私の手を掴み、突然立ち上がった。


「よーし! それじゃあせっかくだし、事情聴取しに行こーよ!」

「へ?」

「唯ちゃんに会って話を訊いてみるんだよ。そろそろ暇になってきたし、丁度いい

暇潰しじゃん! やろうやろう!」


 照が楽しそうに両手を振り回した。妙に乗り気だ。さっきは興味無さげだったく

せに、一体どういう風の吹き回しだろう。自分も推理がやりたくなったのかな。私

の手を握る彼女から、普段よりも強い熱が伝わってくる。


「なるほど、探偵ごっこですか。アリですねえ。私はポアロ役を所望します。さあ

ヘイスディングズ、現場に向かいましょう」

「じゃあ私はホームズにするわ。ワトスン君、現場に向かうわよ!」


 忍さんと三途璃さんも乗り気だ。三体とも、ノリが完全に部外者の野次馬ぽいの

が気になるけど……まあいいか。


「じゃあみんなで行こう! 真実は、いつも一つ!」


 照までそんな事を言いながら、探偵ごっこを始めた。

 かくして私達四人は、唯野さんの部屋に向かった。







 唯野さんは昼食会場で一体だけ部屋に帰ってしまった。その後彼女の姿は見てい

ないけれど、あの調子だとあれからずっと自分の部屋にいるだろう。


 そう考えた私の予想は、当たらずしも遠からずといった感じだ。


 唯野さんに割り当てられた部屋の扉をノックして、返事が無い事を確認した。

 妙に思ったのでノブを捻ると、鍵はかかっていなかった。


 扉を開けると、中にはきちんと唯野さんがいた。

 居留守ではない。彼女はもう、こちらの呼びかけに応える事が出来なかった。


 まさかというべきか、やはりというべきか。特大のフラグを立てて孤立した彼女

は、古今東西の推理小説の被害者の例に漏れず、無惨にも同じ結末を辿っていた。


 私服になっても、やはり彼女は特徴に乏しい外見だ。肩まで伸ばした栗色の髪に

丸っこいブラウンの瞳。特徴の無い空色のスカートに、無地の白Tシャツ。どこに

でもいそうなその姿で、コーティングされたまま動かない。


 唯野唯は真珠のように固まっていた。


「わあ、唯ちゃんが犯人に殺された! 事件だあ!」

「うふふ……面白くなってきましたねえ」


 照が諸手を挙げて喜ぶ中、不敵に笑う忍さんが動かなくなった唯野さんの胸元に

手を添え、そこから台紙のようなものを取り出した。それを無言のまま、私に手渡

す。どうやら、明智さんの身体に付いていたものとほとんど同じものらしい。


「あと十人……我々は三人」


 台紙の文字を読み上げると、三途璃さんがいよいよ深刻そうに頷いた。

 陽はまだ高かった。

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