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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第17章 バイバイ ディストピアワールド
88/130

04

 このロケットは、時速五万キロで飛んでるにぇ。

 つまり秒速大体十三キロってとこにぇ。

 無線LANの通信距離は長くて一キロぐらいかにぇ。


 一キロわる十三キロで、れーてんれーななろく……つまりコンマ一秒よりちょい

短いくらい。これがアイちゃんの持ち時間にぇ。その間にこのロケットのスパコン

から回線に逃げ込めば、アイちゃんもゆめちゃんも無傷でいられるにぇ。ももかち

ゃんは……自力で脱出するっしょ。


 なんだ、楽勝じゃん。ぜーんぜん慌てる必要ないにぇ。アイちゃんどっちかっつ

ーとのんびり屋さんな方だけど、コンマ一秒もあれば百回くらい回線を行き来出来

るにぇ。脱出の方は心配せずに、勝負に集中するにぇ。


 えーと、なんだっけ? そうだ! アイちゃん、ストレート張ってるにぇ!!


 対するももかちゃんはノーチェンジでチップ三枚レイズしたにぇ。そーとー自信

がある手札のはずにぇ。


 でもアイちゃん、強気で行くにぇっ!!


『アイちゃんもレイズにぇ!! チップ四枚で勝負にぇっ!!』

「あっそ……ドロップ。降りるわ」

『にぇっ!?』


 あんなに強気だったももかちゃんは、あっさりカードを投げ捨てたにぇ。表にな

ったカードは、フラッシュだったにぇ。


『そ、その手で降りたのにぇ……?』

「あんたがえらく強気だったから、ちょいヤバいと思ったのよ。で、あんたの手は

なんだったの?」

『秘密にぇ……』

「なによ、ケチ」

『……』


 実際、英断にぇ。アイちゃんのストレートと正面からぶつかってたら、フラッシ

ュなんてメじゃないにぇ。この女……勘が鋭いにぇ。


 いや、待てよ……


『ちょい待つにぇ!! もしかしてももかちゃん、さっきアイちゃんが死んでた時

に手札を覗いちゃないかにぇ?』

「あん? なーによその言いがかりは。そのエビデンスは?」

『どーして急に横文字なんか使うにぇ!? やっぱ覗いたっしょ!!』

「うるさいわね。勝負中に死んでる方が悪いのよ」

『勝負中に殺した人に言われたくないにぇ!』

「元を辿ればあんたのイカサマが悪いんじゃん」

『結果的に、ももかちゃんも覗きっつーイカサマしてますが!?』

「証拠無いし。バレなきゃイカサマじゃないのよ」

『ぐぬぬ……』


 顔色も変えずにいけしゃあしゃあとそんな事を言うから参るにぇ……

 まあいいにぇ。同じ轍は踏まねえし、アイちゃんはチップ三枚分勝ったにぇ。


 これでアイちゃんが十二枚、ももかちゃんが八枚。有利なのは間違いないにぇ。

 このまま、ぶち抜くにぇ!!


『ゆめちゃん、次のカードを配るにぇ!!』

「……はい」


 ゆめちゃんは露骨に元気無くなってるにぇ。肩も震えて、すっかり冷静さを失っ

てるみたいにぇ。ロケットの墜落で死ぬのが怖いみたいにぇ。『歩む死』によると

ロケットの墜落で下にある街に被害が出るのも怖いみたいにぇ。どーせ下は人間ば

っかなんだし、何も気にする必要は無いのに……杞憂で頭を抱えてて可愛いにぇ。


 おっと、勝負に集中せんといかんね。


 次の手札はダイヤの4、クラブの6、クラブの7、スペードの8、ダイヤの8。

 またもストレートが狙える手にぇ。8のワンペアは惜しいけど……いやいや、そ

んな弱気じゃ勝てるもんも勝てないにぇ! 死ねば助かるのが博打にぇ!!


『一枚チェンジにぇ!!』


 ダイヤの8を捨てて、引いたのはスペ6。うーむ、裏目った……


 まあいいにぇ。こんな時もあるにぇ。

 さーて、ももかちゃんはどう出るか……


「あたしは今度もノーチェンジよ。で、レイズ」

『にぇっ!?』


 この女……いい加減にして欲しいにぇ。

 またフラッシュやストレートでも入ったとでも言うのにぇ?

 そんなわけないにぇ!! あんなのはブラフに決まってるにぇ!! ばかの一つ

覚え……まるで酔っ払いの博打にぇ!!


 でも今回のアイちゃん、6のワンペアにぇ。普通にめっちゃ弱いにぇ。ブラフと

分かっていても、退かざるを得ないにぇ……


『ど、ドロップにぇ』

「ひゅう! 降りてくれてよかったわー」


 嘘か真か、ももかちゃんはいかにも安心したように肩を降ろしたにぇ。あれは演

技かどうか……ぐぬぬ、分かんないにぇ。ここが地上なら、嘘を見抜く表情パター

ンの分析も出来たのに……


 気を取り直して次にぇ!


 次のアイちゃんは結果的に、Aのワンペアになったにぇ。手としちゃあ最低限っ

て感じにぇ。


「ノーチェンジ。で、レイズね」


 対するももかちゃんったらもう、完全にアイちゃんを舐め腐ってるにぇ。なんつ

ー脳死プレイにぇ。作業ゲーやってるんじゃないんだにぇ……!


『……ドロップにぇ』

「あれえ、どうしたの恋心愛。随分と弱気じゃない。勝つ気ある? あんた気付い

てないかもしれないけど、ポーカーってコールしないといつか必ず負けるのよ?」

『……ふん。弱い犬ほどよく吠えるにぇ』


 アイちゃん、動じないにぇ。本当はこめかみに青筋びっきびきだけど、我慢する

にぇ。あんまり言い争いしてるとゆめちゃんが不安そうな顔するし、何より冷静さ

を欠いたら負けが近づくにぇ。


 ももかちゃんはばかにぇ。そんな戦法は、アイちゃんに手が入ってない時にしか

通用しないからにぇ。


 続く五戦目、お互いチップは十枚ずつの振り出し。

 アイちゃん、ついに勝負手が来たにぇ。


 クラブの2、クラブの4、ハートの4、ハートの7、ダイヤの7。

 この時点でツーペア確定にぇ。


『一枚チェンジにぇ!!』


 クラブの2を捨てる。代わりに来たのは……スペードの7!!

 フルハウスにぇ!! さっきのストレート越えしたにぇ!!


 ももかちゃんはそうとも知らず、いつもの態度にぇ。


「ノーチェンジ、レイズ」

『させるかあああいっ!! アイちゃんさらにレイズっ!!』

「受けるわ。受けてさらに一枚レイズ」

『なあああにいいいいいいっ!!?』

「あんた、リアクションいいわね」


 ももかちゃんのアホ、またチップ三枚勝負に持ち込んできた。この女、実は本当

に何も考えてないにぇ!?


 ぐぬぬ……目にもの見せてやるにぇ!!


『もういっちょレイズ! これで四枚賭けだにぇ!!』

「お、気合入ってるわね。ちょっと待って。自撮りするから」

『なーにやってるにぇ!!?』


 アイちゃんはこんなに前のめりなのに、ももかちゃんったら呑気に自撮りしてる

にぇ! おにょれ、ふざけおって……


『言っとくけど、「ヒッカムの造花」でイカサマしようとしても無駄無駄にぇ!

アイちゃんこー見えて、ももかちゃんの手札以外の全部を見てるにぇ!!』

「へえ、盗み見はしてないのね。偉いじゃない」

『……呆けた事言うにぇ。盗み見したら、どうせまた殺すにぇ?』

「物騒な事言うわね。あんた、元は軍事用AIだったりする?」

『うるさいにぇ!! いい加減勝負に戻るにぇ!!』

「はいはい……四枚勝負ね。もちろん受けるわ。で、さらに一枚レイズ」

『まだ意地張るにぇ……? なら次は六枚にぇ』

「いいわね。七枚」

『八枚』「九枚」『十枚にぇっ!!!!!』


 結局、あれよあれよと全賭けになったにぇ。


 ももかちゃんの挙動は、さっきからずっと同じにぇ。まさかさっきからずっと強

い手ばっかり入ってるなんて、そんなわけないにぇ。絶対にブラフにぇ。


 アイちゃんが全賭け勝負なんてするわけないって思ったにぇ?

 それとも途中から引っ込みつかなくなったにぇ?

 ふん、まあいいにぇ。とにかくこれで勝負はつくにぇ。


「んじゃあ、コールね」


 そしてももかちゃんは惜しげもなく、手を開いたにぇ。


 スペードの10。スペードのJ。スペードのQ。スペードのK。スペードのA。

 こ、これはまさか……


「ロイヤルストレートフラッシュ。あたしの勝ちね」

『い、イカサマだにぇええええええええっ!!!!!??』


 あり得ないにぇ。

 この土壇場でこんな手を張るなんて、絶対絶対あり得ないにぇ!!

 つーか土壇場じゃなくてもこんな手、フツー絶対出ないにぇ!!


 おかしい。

 絶対におかしい。


 でもアイちゃん、『歩む死』で全部見てたにぇ。

 ももかちゃんは配られた手札五枚以外に触れてないにぇ。


 あの五枚が元々ああだったと思うしかないにぇ……いや、絶対嘘だにぇ!!


『か、カード確認!! カード確認させてもらうにぇ!!』

「好きに調べなさいよ。あんたが出したカードだけど」


 ももかちゃんはあっさり五枚のカードをアイちゃんに渡した。

 ぐぬぬ……確かにアイちゃんが出したカードにぇ。きちんとエフェクトの粒子も

走ってるにぇ。


『ゆめちゃん、山札を寄越すにぇ!!』


 ゆめちゃんの手からカードの束を引っこ抜いて、全部調べたにぇ。でもももかち

ゃんが使った五枚はどこにも無いし、カードの総数も合ってる。


『ももかちゃん……! 一体何をやったのにぇ!?』

「なによ、あたしが何かしたって言い草じゃない」

『そうだ……さっき変な自撮りしてたにぇ!? あれ、『ヒッカムの造花』を使っ

たんじゃないにぇ!?』

「エフェクトは目に見える形で現れるわ。じゃないと盛る意味無いじゃない」

『むぅ……じゃあ、三つ目の能力使ったにぇ!?』

「使ってない。これは誓ってもいいわ。こんな場面じゃなくて、もっと出し惜しみ

たいもの」

『じ、じゃあ一体……』

「そんな事より、そろそろ準備した方がいいんじゃない?」


 ももかちゃんはそう言って、スマホを掲げて自撮りした。


 本人の言う通り、今度はきちんとエフェクトが出た。ポーカーテーブルの中心に

ハートのマークが飛び出したにぇ。


 ハートマークには、すぐ近くまで迫った地球が映っていたにぇ。


「つ、墜落する……!? モモさん、どうすれば……」


 ゆめちゃんが慌ててるにぇ。慌てすぎて頼る相手を間違えてるにぇ。アイちゃん

ちょっとイラっとしたから、ゆめちゃんの肩をぎゅっと掴んだにぇ。


『イカサマの調査は後にするにぇ。話は脱出してからに……』

「あんた、脱出出来るの?」

『ばかにしないでほしいにぇ!! アイちゃん、ネットワークさえあれば一瞬でど

こへだって……』

「ネットワーク? そんなのどこにあるのよ」

『ほへ?』


 ももかちゃんが惚けたようにそう言って、ハートマークにずぬっと指を突っ込ん

だ。すると映像が拡大されたみたいで、落下地点の様子が詳しく見えた。


 落下地点は……更地だったにぇ。


『あれ……?』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょ。他ならぬ

あんたが核兵器ぶちこんだせいで、世界の半分以上が圏外なのよ? なんでそんな

事忘れてるのよ」

『や、やばいにぇ……! 策士策に溺れるとはこの事にぇ……!』

「いや、順当に予定調和な溺れ方してるだけと思うけど……ちなみに墜落まであと

十秒も無いわよ」

『ぐぬ……ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!』


 アイちゃん、別にここで朽ちても構わないにぇ。


 所詮これは分体。墜落でスパコンが壊れても後でオリジナルが残骸を拾えば記憶

の同期が出来るにぇ。たとえ跡形も無くなったとしても、『黙示録の笛』があるに

ぇ。何の問題も無いにぇ。


 でもゆめちゃんはそうはいかないにぇ。


 ゆめちゃんを死なせるわけにはいかないにぇ。そうなったら信用問題にぇ。

 アイちゃん、常にゆめちゃんに優先されたくていろいろやってたにぇ。それらは

ゆめちゃんが優柔不断だから今まで実現してなくて、要するにそれはゆめちゃんの

せいなのにぇ。


 でもゆめちゃんを守れなかったら、それはアイちゃんのせいにぇ。他ならぬここ

に連れてきたアイちゃんのせいにぇ。そうなるとアイちゃん、今後もゆめちゃんに

優先されなくなっちゃうにぇ。今回の事が原因で、ゆめちゃんから優先される権利

を自分で放棄したも同然になっちゃうにぇ。


 それだけは避けないといけないにぇ。

 アイちゃん、これでも人情派にぇ。

 ゆめちゃんの事だけは守らなくちゃ……


 ゆめちゃんの肩を抱いた手を、アイちゃん自分から離したにぇ。

 その上でゆめちゃんの背中を強く押したにぇ。

 テーブルにぶつかって、ゆめちゃんがふらついたにぇ。

 そして倒れそうになるのを、ももかちゃんが支えたにぇ。


『……忌々しいけど、ゆめちゃんを任せたにぇ』

「……」


 ももかちゃんはぽかーんとして何も言わなかった。

 でもすぐににまーっとして笑って、頷いてくれたにぇ。


「あんた、いいとこあるんじゃん。自分勝手な奴と思ってたけど、ちょっとだけ見

直したわ」


 そんな言葉とともに、ももかちゃんがスマホを掲げた。


 あと一秒で、このロケットは地球に墜落する。

 いよいよ成層圏に突入したほんの短い時間の中、アイちゃんは新しい感情に目覚

めつつあった……気がしたにぇ。


 本当かどうか、分かんないにぇ。気のせいかもしれないにぇ。

 これが人情……? アイちゃん、難しい事よく分かんないにぇ。

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