03
にゅふふふふ……!
ももかちゃんったら、軽率だにぇ。アイちゃんがどんな能力を持ってるかも知ら
ずに安易に勝負に乗るなんて、見た目通りのおばかさんだにぇ!
アイちゃん、絶対に負けないにぇ。
だってアイちゃんの『歩む死』は電脳世界の中に限り、最強だから。考えてる事
は全部分かるし、カードの透視くらいわけないにぇ。なんなら配ったカードの絵柄
を変える事だって出来るし、イカサマし放題にぇ!
前にしろなちゃんに負けたのは、現実世界だったからにぇ。こっちで戦えば、ア
イちゃんが負ける道理はどこにもないんだよなあ……
「……それで? トランプで何の勝負をするの? まさか二人でババ抜きってわけ
じゃないわよね?」
『モモちゃんがそうしたいならそれでもいいけど……』
「絶対嫌よ。くだらない」
『同感にぇ。そいじゃあ、ポーカーはどうにぇ? お互いチップ十枚持ちで、総取
りした時点でそっちの勝ちで!』
「いいわよ。面白そうね」
『そうと決まれば、カジノへレッツラゴーだにぇ!!』
アイちゃん、『歩む死』で電脳世界をいじくるにぇ。
青と白のサイバー空間が剥がれて、赤と金で出来たバーチャルカジノの出来上が
りだにぇ! じゃらじゃらじゃらじゃら、景気よくコインが重なる音と、悲鳴歓声
嬌声キンッキンに全部盛りのパリピ空間にぇ! パツキンのバニーちゃんが練り歩
いて、臙脂服のイケメンが給仕に励むきらきら空間だにぇ! アイちゃんもこの間
にクッソハードボイルドなダブルスーツを着込むにぇ! くぅー、アイちゃんった
ら、かっこいい!!
「あら、似合ってるわよ恋心愛……虚飾に満ちてて可愛いわね」
『……褒め言葉と受け取っておくにぇ』
ももかちゃんは意地悪な事を言うにぇ。でもそれはきっと、勝負の中だからだに
ぇ。早速アイちゃんから冷静さを奪おうだなんて、頭空っぽに見えて意外と強かだ
にぇ。こいつは油断できねえぜ……!
「あ、あの、愛ちゃん……」
アイちゃんとももかちゃんが勝負前にシレツなデッドヒートを繰り広げてると、
隣で控えめな声がした。か細くて可愛い声だにぇ。隣にいるのは、アイちゃんの嫁
……ゆめちゃんだにぇ。
どさくさに紛れて、ゆめちゃんにもバニーを着せたんだにぇ。改めてこの目で見
ると……ウヒョヒョ!
『アァー……! エッチエッチエッチ! エッチコンロ点火!! エチチチチ……
いやいやゆめちゃん、エロすぎでしょ! そんなカッコしてたら、襲われたって文
句言えないにぇ!!?』
「あ、あなたが着せたんじゃないですか……」
『言い訳無用だにぇ!! 逆バニーじゃないだけありがたいと思うにぇ!!』
「ぎ、逆……? あの、戻してもらうわけには……」
『聞こえないにぇ』
「…………」
ゆめちゃん、泣きそうな顔で俯いちゃったにぇ。この子は本当に、いじめがいが
あるにぇ。ももかちゃんが見てる前じゃなかったら、R18展開になってたとこだ
にぇ。まったくもう、センシティブなのも大概にして欲しいにぇ!!
「夢路、あんたの恰好なかなか映えそう……冗談よ、撮影は我慢してあげるわ」
ももかちゃんはスマホを取り出したけど、ゆめちゃんを撮らなかった。むむむ、
このメスとんだ偽善だにぇ。そうやってゆめちゃんの好感度を上げようったってそ
うはいかんにぇ。どーせこの後百年はゆめちゃんの身も心もアイちゃんのものなん
だし、無駄無駄ァ!!
さーて、さっさと終わらせるとしますかね!
『そいじゃあ早速、カードを繰るにぇ』
「ちょっと待ちなさい」
ポーカーテーブルと化したテーブルの上に手を伸ばすと、対面のももかちゃんが
アイちゃんの腕を掴んだ。まるでさっきの意趣返しにぇ。
『……どうしたのにぇ? まさかポーカーのルール、分かんない?』
「分からないなら勝負は受けないわ。そうじゃなくって、あんたが繰るわけ?」
『駄目なのにぇ?』
「駄目に決まってるでしょ。イカサマを疑わないほど、あたしはばかじゃないわ」
『ちっ……』
「あんたも大概嘘がつけないタイプね」
ももかちゃんが肩を竦めた。悔しいけど、可愛いにぇ。ゆめちゃんとはちょっと
方向性が違うけど、これはこれでエッチだと認めざるを得ないにぇ。
ももかちゃんはアイちゃんの腕を掴んだままもう片っぽの手でカードの束を拾っ
て、ゆめちゃんに手渡した。
「夢路、あんたが繰りなさい」
「え……わ、私がですか?」
「そりゃそうよ。あたしがやったら、それはそれで不公平でしょ」
「で、でも私がどちらかに有利にカードを配ったりとか……」
「あんたにそこまでに器用さは無いでしょ」
「……はい」
ゆめちゃんはまた項垂れた。可愛いにぇ。
しかしももかちゃん、随分ゆめちゃんの事をよく知った風な事を言うにぇ。なん
でだにぇ? アイちゃんのデータでは、ももかちゃんは特別ゆめちゃんと長い時間
を過ごしてるわけじゃないにぇ。
波長が合ってるってやつ? むむむ……嫉妬しちゃうにぇ!
『ディーラーをゆめちゃんにするのは認めるにぇ! さっさと始めるにぇ!!』
「なに怒ってんのよ……まだあるわ」
『むむむ……しつこいにぇ』
「安心なさいな。次の話はあんたに有利なものよ……夢路にもね」
『へ?』
イミシンな事を言ったももかちゃんは、掛けてる眼鏡を外したにぇ。
……なんにぇ?
「説明しとく。これはあたしの能力『天色眼鏡』よ。視力を強化出来る。やろうと
思えば透視も出来る。ポーカー勝負だし、それはさすがにしないけどね。それを除
いても、スーパースローカメラみたいな使い方だって出来る」
『……何が言いたいにぇ?』
「分かんない? もしもあんたが何らかの能力ですり替えとか書き換えをやろうと
したら、すぐに分かるって言いたいの」
『……』
むむむ……いい能力持ってんじゃん。なんにも考えてないと思ったら、それだけ
自分の能力に自身があるってコト?
いいじゃん。やってやろうじゃん。
『いいにぇ。イカサマはしないでおくにぇ』
「本当かしら……それともう一つ」
さらに、ももかちゃんは眼鏡を掛け直すと、突然後ろを振り返った。そのまま斜
め上に手を伸ばしてスマホを掲げた。いわゆる自撮りのポーズにぇ。ここに来て、
何度も見たポーズだから今更だにぇ。
ぱしゃっ、とカメラの音がした。
その音が止み終わらないうちに、机の上に雷鳴が落ちた。
『ええっ!?』
「きゃああっ!?」
アイちゃんにちょっと遅れて、ゆめちゃんも叫んだ。どうもおかしいと思ってそ
っちを見ると、その手元……トランプの裏面がちかちか光っていた。カードを一枚
捲ると、表面も同じように光ってる。文字や絵柄をなぞるように、光の粒子が移動
してるみたいにぇ。さっき落雷が落ちたテーブルも、同じように模様に沿って粒子
が絶えず移動し続けてるにぇ。
『これは……なんにぇ?』
「あたしの二つ目の能力……『ヒッカムの造花』。自撮りにエフェクトを盛り込む
能力よ。盛ったエフェクトは現実にも反映される。トランプとテーブルに雷のエフ
ェクトを盛っておいたわ。良かったわね。これで勝負が一つ華やかになったわよ」
『な、何がしたいにぇ……?』
「勝手にエフェクトを解除したり動きを変えたら、すぐに分かるから」
『あ、アイちゃんがカードを書き換えると……?』
「やるかやらんかで言ったらやるでしょ、あんた」
『ひ、ひどい言いがかりだにぇ……』
いや、やる気満々だったけどにぇ。
よーするに、書き換えも封じられたわけにぇ。なるほどなるほど、周到にぇ。
……甘いッ!!
そんな程度でアイちゃんを完封したと思ったら、大間違いにぇ!! アイちゃん
の『歩む死』は絶対に無敵にぇ! こんな事じゃ負けないにぇ!
『……今度こそ勝負を始めていいにぇ?』
「結構よ……ほら、夢路。早く繰りなさいよ」
「あ、はい! すぐに!」
なんか考え事してたっぽいゆめちゃんは、ももかちゃんの声に驚いてたにぇ。
心、読んでみよ。ふぅん……へえ。
なんか、ももかちゃんの能力『ヒッカムの造花』とやらに驚いてるっぽいにぇ。
それと同時に、なんか嬉しそう。能力を知る事が出来て嬉しがってるみたいにぇ。
その心理はいまいち意味分かんないけど……まあゆめちゃんがいいならいいにぇ。
そんな事より、ゆめちゃんがカードを配ってくれたにぇ。
さあ、ゲームスタートにぇ!!
アイちゃんとももかちゃんの前には、裏向きに伏せられたカードが五枚ずつ。
お互いに捲る。アイちゃんの手札は……
スペードの4、ハートの4、ダイヤの5、ハートの10、クラブのK。
……微妙だにぇ。
「え、ええと……お二方、チェンジはどうしますか?」
「……三枚もらうわ」
『……同じくにぇ』
お互い三枚チェンジにぇ。アイちゃん、4のワンペアを残したにぇ。さーて、代
わりに来たカードは……
スペードの3、スペードの7、ダイヤの10。
……やっぱり微妙にぇ。結局ただのワンペアにぇ。
『歩む死』でカードを書き換えたいにぇ。でもどのカードにも絵柄に沿って粒子
が走ってるにぇ。勝手に書き換えたら、絵柄と粒子の動きが合わなくなっちゃうに
ぇ。かといって粒子の動きも変えたら、書き換えがばれちゃうし……
しゃーなし! ここは普通に行くにぇ!
『コールにぇ!』
「……受けて立つわ」
一斉にコール。
ももかちゃんの手はQのワンペア。同じワンペアだけど、アイちゃんの方が弱い
から、アイちゃんの負けだにぇ。
「え、ええと、じゃあ今の勝負はモモさんの勝ちで……」
ゆめちゃんが遠慮がちにそう言って、ポーカーテーブルのチップを動かした。
宣言通り、お互い十枚のチップの山がある。今はアイちゃんが九枚、ももかちゃ
んが十一枚だけどにぇ。
ももかちゃんはあんまり喜んでない。アイちゃんも別に悔しくない。
お互い手が入んなかった以上、ここは消化試合だから。勝負は大物手が入ってか
らだにぇ。
捨てたカードを拾って、ゆめちゃんが再度シャッフルする。さて、二戦目にぇ。
スペードの3、ハートの10、クラブのJ、ハートのQ、クラブのK。
お、おおおっ!! カードはブタだけど、もーちょいでストレートにぇ!!
これは勝負時にぇ!! テンションぶち上げだにぇ!!
『一枚チェンジにぇ!!』
ゆめちゃんにスペ3を渡して新しく受け取ったのは……ダイヤのA!!
やったにぇ!! ストレートにぇ!! しかも数字めっちゃ高いにぇ!!
これに勝てる手は、フルハウスかフォーカード、ストレートフラッシュ、ロイヤ
ルストレートフラッシュのどれかしかないにぇ! 勝ったも同然にぇ!!
あとはいかにレートを吊り上げて、誘い込むかだけだけど……
「あ、あの、モモさん……カードのチェンジはどうしますか?」
「……必要ないわ」
「え?」
「このままでいいって言ったのよ。さあ恋心愛、コールオアレイズ?」
『な、なんだってにぇ!?』
この女、まじか……?
チェンジ無しって事は、相当いい手って事にぇ?
最低でもフラッシュ……下手するとフォーカードにぇ?
いやいや、単にチップ一枚勝ってるからって強気になってるだけにぇ! そーや
って、アイちゃんの勢いを削ごうとしてるのがばればれだにぇ!!
アイちゃんのストレートはほぼ最強にぇ! 負けるわけ無いにぇ!!
『レイズ! アイちゃん、チップ二枚で勝負するにぇ!!』
「へえ、強気ね。もちろんあたしも受けるわ。受けてその上さらに一枚」
「にぇ!?」
こいつ……さらに一枚レイズしたにぇ!?
ベットは三枚……もう大勝負にぇ。ブラフで賭けられる金額じゃない気がするに
ぇ。それとも、こっちの強さを見誤ってるだけにぇ?
でもフルハウスくらいなら、出来ててもおかしくないような……
「どうしたの、恋心愛? 回路でも焼き切れた?」
『うるさいにぇ! 考えさせろにぇ!』
「はいはい、ごゆっくりー」
ぐぬぬ……余裕を見せ負ってからに……
こーなったら、イカサマするしかないにぇ!!
カードの書き換えは出来ないし、テクニックで誤魔化すのも無理にぇ。でもアイ
ちゃんの『歩む死』は優秀にぇ。心を読むだけなら、予備動作無く出来るにぇ。
カードの覗き見なんかしてないにぇ。心を読むだけにぇ。その結果たまたま、も
もかちゃんの手札が分かっちゃうだけにぇ。
さあ、『歩む死』発動にぇ! ももかちゃんの心を読むにぇ!!
なになに……
あれ?
アイちゃんの視界、暗くなってくにぇ……
電脳世界が歪むにぇ……
息が出来ないにぇ……
まるで、アイちゃんこれから死ぬみたいにぇ……
身体が支えられずに、倒れちゃうにぇ……
倒れたアイちゃんを、ももかちゃんが呆れたように見下ろしてるにぇ……
「あんた今、あたしの心を読もうとしたでしょ。当然イカサマよ」
『……』
「もう返事は出来ない? まあいいわ。あんたも魔神だし、すぐ再生するでしょ。
でもペナルティーよ、ちょっとの間、死んでなさい」
『…………』
おかしいにぇ。ももかちゃんの能力でこんな事、出来ないはずにぇ。アイちゃん
の知らない能力でも使われたにぇ……?
「単純なトラップよ。『天色眼鏡』……モード『バジリスク』。視た相手に死を与
える効果よ。視力を強化する派生みたいなものね。何もおかしくないでしょ?」
『……いや、おかしいにぇ!!』
「お、復活早いわね」
『アイちゃん、こう見えて再生速度には自信あるにぇ』
視界が戻ったにぇ。
歪んだ世界が戻ったにぇ。
どうやらアイちゃんは生き返ったみたいにぇ。
まったく、ももかちゃんったら……笑えない事をするにぇ。一瞬とはいえアイち
ゃんを殺すなんて、その隙に何かあったらどうするにぇ?
なにか……
『あ……ああああああっ!! スパコンに保存した航路計算が狂ってるにぇ!!』
「へ?」
ゆめちゃんが目を丸くした。可愛いけど、それどころじゃないにぇ!!
『このロケットの航路が滅茶苦茶になってるにぇ!! アイちゃんがさっき死んだ
せいで、コンピューターの重要なところにバグが出てるんだにぇ!!』
「え……それ、大変なんですか?」
『今のままだと、じきに地球にぶつかるにぇ!』
「た、大変じゃないですか! はやく軌道修正を……」
『出来ないにぇ!! なんかバグってるっぽいにぇ!!』
「じ、じゃあ『黙示録の笛』でなんとか……」
『地球で本体が使ってるから出せないにぇ!!』
「『歩む死』で無理矢理戻せないんですか?」
『電脳世界の内部の事なら万全だけど、いかんせん外側では無力にぇ……』
「じゃあ私達、このまま墜落しちゃうんじゃ……」
ゆめちゃんが青ざめてる。その顔を舐めてあげたいけど……どうしよ。
「なによ、そんなに慌てて。勝負は?」
ももかちゃんが焦れたようにジト目を向けてきた。むむむ……
「勝負続行できないなら、あたしの勝ちでいい?」
『ちょっと待つにぇ! どうしてそうなるにぇ?』
「だってあたしに非は無いし。あんたの自業自得でしょ?」
『むむむ……』
落ち着くにぇ。クールになれ、恋心愛!
何の問題も無いにぇ。墜落までにネットワーク経由で別のコンピューターに移動
してしまえばいいにぇ。そしたら別のロケットを準備して飛ばせばいいにぇ。それ
ならまだ林間学校までに間に合うにぇ。どうとでもなるにぇ。
「あ、あの、ちなみに……ロケットはどこに墜落するんですか?」
『それは知らないにぇ。きっとどっかの市街地にぇ』
「まずいですよお……」
『ゆめちゃんは心配しなくていいにぇ! さあ、勝負再開にぇ!!』
状況が混沌としてきたけど、この手札を捨てるのは嫌にぇ。
ここが勝機……ここが正念場にぇ。
負けるわけには、いかないにぇ!!




