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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第14章 呪いも、魔法も、あるんだが?
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05

「……てなわけで、海竜の伝説は幻になった。まったく明智め、許せないよなあ」


 目を覚ました私に飛び込んできたのは、意味不明な悲報だった。


 えーと……なに?

 状況が全く分からないんだけど。とにかく一旦落ち着こう。


 まずここは湖ではなく、家の中だ。見覚えのある真っ黒な部屋には、オカルト風

の調度品が並んでいる。ここは確か……ジュジュさんの家か。


 ベッドに寝かされた私の顔を、ジュジュさんが覗き込んでいる。血のように真っ

赤な魔法陣が刻まれた黒真珠の瞳には、釈然としない不満を抱えているような色が

見て取れた。


 私は……そっか。ジュジュさんの『大魔導師の杖』を使って倒れたんだっけ。


「……あれは人間に使えるものじゃない。二度と触るなよ」

「ご、ごめんなさい……」

「分かればいい。まあ焦るな。黒魔術を研究していけば、そのうちオマエの身の丈

にあった魔法が使えるようになるだろ」

「……」


 そんな期待は持てないし、よしんばそうなったとしても魔神に対抗できる手段に

はなるまい。ジュジュさんはきっと、私が無邪気に魔法に憧れていると捉えたのだ

ろう。おかしな邪推をされるよりはましか。


「え、ええと、それで、私が昏睡している間に……なんですって?」

「だから……明智に会って戦ったって言ってるだろ」

「な、なんで……」

「あいつが理屈っぽく突っかかってくるから。ボクらの秘密を横取りしようだなん

て、ふてぶてしいやつだよ。まあ安心しろよ。あんな狂人に負けるほどボクは落ち

ぶれちゃいない。同じような状況になったら、また叩き潰してやるよ」

「……」


 ジュジュさんは明智さんを指して狂人と言う。実際間違ってないし、私も明智さ

んは控えめに言っていかれていると思う。


 でもそれってジュジュさんも同じなんだよなあ。狂い方の方向性が違うだけで、

二体ともおかしいのは共通している。詳しく聞くと、ジュジュさんは明智さんが連

れてきた人間を悪びれもなくあっさり殺し、そのままにしたそうじゃないか。穏便

に済ませる方法くらいいくらでもあったはずなのに……本当に他人の生命なんて、

どうでもいいと思ってるんだろうなあ。明智さんですら、無駄に人殺しをする性格

じゃないのに。


 ……で、そんな二体が肉弾戦をした、と? 悪夢みたいな話だ。こんな起き抜け

にされるから、まだ夢の続きを見ている気がしてならないけれど……現実に起こっ

た事である。逃避は許されない。


「え、ええと……ジュジュさんは最後に、三つ目の能力を使ったんですよね?」

「ああ。『黄衣の王』か」

「それで明智さんの身体が崩れたっていうのは、その……」

「そういう能力だからな。生命の身体を壊す力だ」

「毒……いえ、放射能でしょうか」

「強いて言うなら呪いだろうな。だが残念ながら、黒魔術的じゃない。ルーツが無

いし、第一身も蓋も無いからな。本場の呪いなら、回避や反撃の手段がなくちゃあ

ならない」

「……」


 本場の呪いなんてものの定義は知らないけど……翻って考えると、ジュジュさん

の力には回避や反撃の手段が無いという事か。


 呪いだの魔法だの、ジュジュさんの能力は恐ろしいものばかりだ。


 でも、だからこそ惹かれる。恐ろしいからこそ、その力は人類を救うかもしれな

いのだから。


「あの、ジュジュさん……」

「駄目だ」

「えっ?」


 私の顔を覗き込むジュジュさんの眉が吊り上がった。子どもの悪戯を咎める程度

の軽い怒りの色が顔に浮かぶ。もちろんジュジュさんにとっての軽い怒りが、私に

とっての致命傷にならない保証なんてどこにもないから、これはこれで恐ろしい。


「え、えっと……」

「『黄衣の王』は制御が出来ない。あの時はオマエを遠くに逃がしたから巻き込ま

ずに済んだが、近くにいたらボクの意志とは無関係に、オマエの身体も滅びるだろ

う。いくらボクでも、完全に塵になった人間を生き返らせる自信は無い。オマエの

好奇心は認めるが、能力を見せるわけにはいかないぞ」

「そ、そうですね……」


 要するに、群を抜いて危険というわけだ。


 『黄衣の王』は最終的に、超カスピ海全ての生命を奪ったと聞く。それは何億何

兆という被害になったに違いない。


 もしもその力が、湖なんかじゃなく陸地で発動したらどうなったいただろう。


 日本よりもはるかに大きな面積で『かろうじて留めた』力を遠慮無しに振るった

ら、どうなってしまうだろう。


 その時こそ、人類は終わりかもしれない。


 思わず身体が震えた。


 そんな姿を見たジュジュさんが何を思ったのか、優しげに私の肩に手を置いた。


「安心しろ、オマエはボクの相棒だ。困った時は力になってやるよ」

「じ、ジュジュさん……」

「オマエが望むなら、一体くらい消してやってもいい」

「え?」

「解説した通り、『黄衣の王』は肉体を滅ぼす。たとえそれが、再生力を持った魔

神でもな。今回は勝負だったから首から下だけで留めたが、やろうと思えば肉体全

てを塵にする事だって出来たんだ。そうなったらいくら魔神だからって、ただでは

済まないだろう。もしかすると、死ぬかもな」

「……」

「まあ、いじめられたら言えよ。ボクがそいつを殺してやるから」


 さらりとそんな事を言ったジュジュさんは、綺麗な笑みを浮かべた。


 ……やっぱり彼女は狂っている。


 あの照はおろか、忍さんや(あい)ちゃんにさえ存在した仲間意識が、ジュジュさんに

は全く見られない。他の個体と仲良くしないからこそ、情が無い。同じ力を持った

魔神を相手に、あっさりとそんな選択が出来るなんて……その精神性は魔神の範疇

からさえ外れている。


 問題児だとは思ったけれど、これほどとは予想外だ。


「そんな事より……おいゆめじ、目が覚めたんならそろそろ起きろよ。もうすっか

り辺りは暗いぞ」

「そ、そうですね。すっかりお邪魔したみたいですみません……すぐに帰ります」

「せっかくだ。送ってやるよ……『飛翔魔法』」


 そう言ってジュジュさんは杖を取り出し、私の身体を浮かせた。私とともに窓か

ら家を飛び出して、夜空の下を舞う。病み上がりの私を慮っているのか、歩くよう

にゆっくりの速度で、泳ぐように移動する。


「いい天気だな。まあ悪くても雨雲なんて吹き飛ばすんだが」

「あ、あはは……」


 過激な事を言うジュジュさんに愛想笑いをして、空を見上げた。確かに綺麗な空

だ。視界一杯に瞬いた星々に、思わず手を伸ばす。


「……星を仰ぐのもまた一興だ」

 ジュジュさんもまた、私を真似て空を仰いだ。

「だがこんな事をしても、星に手は届かないぞ」

「わ、分かっています……」

「ボクの力なら、星を引き寄せる事も出来るけどな」

「ぜ、絶対にやめてください……」

「なんならオマエの方から星を触りに行くか?」

「……別に星に触れたいから手を伸ばしたわけではないので」

「……そうだな。星は遠くから憧れるから良いんだ」


 しみじみと噛みしめるようにそう言ってジュジュさんは遠い目をした。


「海竜の事は残念だったが……あれでよかったんだ。明智に捕らえられて無残に解

剖されるより、秘密のままで消えた方がファンタスティックだからな」

「……」


 その主張は実に自分勝手で、海竜からしたらたまったものじゃないだろう。


 でもそういうロマンは、理解の及ぶ範疇だ。

 気狂いなジュジュさんだけど、そういう部分は共感できる。


 だからこそ、彼女は私を重宝するのだろう。

 だからこそ、私は他の人間と違って殺されないのだろう。


 そんな状況がずっと続くとは思えないけど、とりあえず今は気に入られている。

 今日のところは、それで納得するしかあるまい。


 この調子でいつか世界が滅びる前に、突破口が見えるといいな。

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