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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第13章 二千万人の君へ
63/130

01

 神は死んだ。


 この世界にはもはや、どこを見渡しても救いは無い。

 世界のほとんどを滅ぼした恐るべき魔神は未だ健在で、十一体。そのほとんどが

気まぐれと一時の衝動で世界の全てを滅ぼすだけの力と意志を持つ。わずかに残っ

た世界が未だ喰い尽くされていないのは、偶然の産物でしかない。極端な話、今こ

の瞬間にも世界の破滅が訪れたって何ら不思議は無いのだ。


 それでも今、私は生きている。

 この世界はまだ、完全に滅んではいない。


 ならばもう、それは幸運だと割り切るしかあるまい。

 数字の見えない終焉へのカウントダウンが着々と進むこの世界で、出来る限り足

掻いてみせよう。半ば開き直りではあるけれど、一度そういう思いを抱いてしまっ

たのだから仕方がない。死ぬのはまあ……どうしても切羽詰まった時でいいか。


「……というわけで、スクラムを組みましょう。文句はありませんよね? 私達は

同じ船に乗りかかった同志……目的を一つにしている以上、協力するに越した事は

無いのですから」


 夏休み二日目……七月十八日。

 軽い夏バテのような体調不良から立ち直った私は、自室に二人の男を招いた。


 一人は全身を黒でまとめた怪しげなスーツ姿の若者。もうそろそろ夏だというの

に暑苦しく、私が相手でもネクタイの一つも緩めない堅物だ。


 もう一人は、両腕に義手を付けた男。軽薄そうにあぐらを組む一方で、私の顔を

まっすぐ見つめて真剣そうな顔をする、有能そうなエージェント。


 私は彼らを『黒服』『ノッポ』と呼んでいる。本名を覚える気は無い。


「念のため訊きますけど……ちゃんと私の指示通り、スマホや通信機器は家の外に

置いてきたでしょうね?」

「はあ……もちろんです」

「置いてきたけど、この間に対策室から連絡来たらどうすりゃいいんだ?」


 私の問いに、二人は怪訝そうな顔をしながらもしっかりと頷いた。うむうむ、従

順で何より。やっぱり二人とも、私の言う事をきちんと聞いてくれる。


「政府は放っておいていいです」

「おいおい、そういうわけにはいかんだろ……」

「最悪、文句は私の父に言ってください。彼が全責任を負ってくださいます」

「……本当かよ。ならいいけどよお」


 嘘である。父は私の事なんてなんとも思っていないだろうし。


 昨日は何故かよく分からない連絡を寄越してきたけれど、基本的に娘の私にノー

タッチの薄情者だ。父の事こそ放っておいていい。


「今から政府からのつまらない連絡なんかより、ずっと大事な話をします。通信機

器を置いてきてもらったのも、盗聴を防ぐためです」

「……政府に聞かれては困る内容という事ですか?」

 慎重そうな黒服の言葉に、私は小さく頷いた。

「それもあります。でももっと言うと、魔神に聞かれる方が面倒です」

「魔神? 奴らはあまり通信端末を使いこなしている印象はありませんが」

「……とんでもない。魔神の中には、世界中のあらゆる通信機器の中に侵入してい

る個体もいるくらいですよ」

「……なんですって?」


 どうやら初出の情報だったらしい。身を乗り出した二人のために、私はここ最近

……正確に言うと期末テストの補習が終わった日よりも後に手に入れた情報を、全

て二人に話した。


 掛け値なしに、全てだ。


 私が接触した魔神の名前や性格、能力はもちろん、秘密裏に手に入れていたトッ

プシークレットを二つ、隠す事無く共有した。


 恋心(こいごころ)(あい)の能力、『シュレディンガーの小夜曲(セレナーデ)』はあらゆるセキュリティーを突破

する。そして彼女はその能力を遺憾無く発揮し、世界中のあらゆるコンピューター

に侵入している。電子生命体ゆえに自らのバックアップを作り出し、やろうと思え

ば世界中の核兵器を暴発させる事すら可能である。


 そしてもう一つ。明智(あけち)知英(ともひで)の『溶ける魚を(アンリアル・)解ける刀(ランセット)』から知った驚愕の事実。魔

神の具現化した神器は、人間にも使用する事が出来る事。


「……これがその刀です」


 私はそう言って、明智さんからもらった『溶ける魚を解ける刀』を見せ、近くに

あった洋服箪笥を分解して見せる事で、二人にその力を見せつけた。見るも無残に

砕け散り、衣類を吐き出すその有様に、当然ながら二人は尋常ではなく驚いた。


「これは……恐るべき事実ですね。人間が魔神の力を使えるとなると、今までの情

報の意味が全く変わってきます。夢路(ゆめじ)さん……これは大発見ですよ!」

「……あんた、まだその武器持っていたのか」


 ノッポの方は既に私が神器を振るっている姿を見ているからか、私が力を使った

事よりも、魔神から神器を貰っている事に驚いている様子だった。


「……一応訊きますけど、ノッポ。人間に神器が扱える事……政府には話していな

いんですよね?」

「お、おう……経緯からして正式に報告し辛い事だし、そもそもあんたが話してる

もんだと思ったからな」

「……話してません。あの件以来、私は政府から冷遇されていますから」

「あ、ああ……機会が無かったのか」

「……あっても話してませんよ。私の方も政府を信用していませんから。重要な情

報を、おいそれと渡すわけにはいきません」

「……」

「しかし今、我々には話しましたね」


 私の言葉に、黒服が緊張した様子で指摘を入れた。黙り込んだノッポも私をじっ

と見つめている。二人分の真剣な視線を受け、私もまた襟を正した。


「だからスクラムだと言ったのです。黒服、ノッポ……あなた達二人にはこれから

先、政府からの言動とは別に、私の味方として動いて貰いたいんです」

「……政府からのバックアップは期待しないというわけですか?」

「今まで通り命令は受け付けますし、支援も期待します。でもこの二ヶ月で魔神達

の性格や能力を知った上でこれから先、今よりもっと積極的に魔神との脅威を戦う

事を思うと、集合知や人海戦術が通用するとは思えませんので」

「積極的に……ね」


 ノッポの声には、恐怖が滲んだような震えが見て取れた。


 むべなるかな。彼は魔神の悪意を身に受けた被害者だ。精神的な気後れがあって

当たり前だ。彼が今ここにいる事そのものが、私がその悪意から彼を助けた事への

恩義に他ならないのだ。


 今回の私の申し出は、彼を再び魔神の悪意へ放り込もうというものに近い。それ

では恩義も何も無いのは当たり前だ。


「……一応言っておきますけど、あなた達に直接魔神と相対しろとは言いません。

ただ政府からの指示とは別に、間接的なバックアップや相談相手として活動してほ

しいだけです」

「……」

「嫌なら首を横に振ってもらっても構いません。今回開示した情報を漏らしさえし

なければ、不利益は与えないと約束しましょう。ただ、私一人では心身ともに今後

の活動に支障が出てくる可能性があります。味方は増やしておきたいという私の気

持ちだけ汲んでいただければ、それでいいんです」

「……そこまで言われて、首を横に触れるわけないだろ」


 ノッポはいかにも気が進まなそうな様子でそう言いながらも、首を縦に振った。

黒服も同様だった。


「……しかし夢路さん。あなたは随分変わりましたね。以前はもっと刹那的なスタ

ンスを取っていませんでしたか?」

「……刹那的で悪かったですね。どうせ私は短絡的ですよ」

「そこまでは言ってませんが……何かあったのですか?」

「……」


 ま、まあ、相手はエリートのエージェントだ。私の事を多少ばかだと思っていて

も致し方あるまい。


 そんな彼らは、私の夢の話を信じてくれるだろうか。私自身、曖昧で茫漠とした

記憶の中にほんの僅かに残された希望を信じているだけなのに、それを言語化して

彼らに伝えるのは難しそうだ。


 言葉で伝えるのを諦めた私は、いつのまにか治っていた左の眼球を見せつける事

で手っ取り早くその証明をする事にした。


「……私の左眼が明智知英に取られた事は知っていますよね? この眼は魔神以外

の何者かによって治してもらいました。その何者かが、夢で私を励ましたんです。

それで、少しでも頑張ろうって気になったんですよ」

「うーむ……」

 話を聞いた黒服達は、いかにも納得していない様子だった。

「にわかには信じ難い話ですね。その何者かとは一体……」

「分からないです。そこは議論しても仕方がありませんので、そろそろ本題に入ら

せてください」


 疑いの目を一蹴し、私は彼らを見つめなおした。


「魔神の武器……神器を扱える事が分かった以上、それをもって魔神を無力化する

術を考えるべきでしょう。幸い、神器に関しては十一体全ての個体の能力を把握し

ています。仮にこの十一の神器全てを手にする事が出来た場合、どう動くのが最も

得策だと思いますか?」


 そう言って私は指折り、神器の種類を数え上げた。


 『つらなり(チェーン・オブ・)の鎖(チェイン)』。

 『処刑人(エクスキューション)の聖剣(・エクスカリバー)』。

 『破壊と創(リボーン・アンド・)造の鎌(デストロイヤー)』。

 『大魔導(ワールドワイド・)師の杖(ワンダーワンド)』。

 『神域に至る聖杯(フールグレイル)』。

 『天色(サン・アンド・)眼鏡(ムーングラス)』。

 『銀の黄(ゴールデン・)金回転弾(メタルファング)』。

 『剣な(イン・マイ・)き秤(ジャッジメント)』。

 『夢枕<うつつ>(リアルカム・トゥルー)』。

 『溶ける魚を解ける刀』。

 『黙示(フューチャー・)(フォーチュン)の笛(・ファンタジア)』。


 これらを駆使し、魔神を鎮静化する事は果たして可能だろうか。


「とりあえず、『聖剣』と『回転弾』は除外していいだろうな」

 少し考えた風な仕草を見せた後、ノッポが口を開いた。

「その二つは単純に破壊力の高い武器なんだろう? だったら再生力の高い魔神に

は通用しないな」

「……同じ理由で、これもそうでしょうね」


 私は手元の『溶ける魚を解ける刀』を拾い上げた。これもまた、分解するという

意味では身体の破壊を促す事しか出来ない。便利な道具ではあるけれど、魔神を直

接滅ぼすには至らないだろう。


「『鎌』や『秤』は生命を奪うんでしたよね? その効果は魔神にも通用するので

しょうか」

「……今のところは何とも言えません。ただ、『枕』は使用者本人が使っていたの

で、あれは魔神にも通用すると言えるでしょう」

「……本当にそうか? 本人だから使えたって可能性は無いか?」

「……あるかもしれません」


 以前……三途璃(みとり)さんと(てる)とくじ引き勝負をした時。三途璃さんが照に向かって、

『鎌』を振り下ろそうとした事があった。あの時は照が防いでいたけれど……防い

だという事は、防がなければ効くという事だろうか。でもあの時は友達相手に気軽

に攻撃する程度のノリだったし、不可逆の死を与えるような効果を期待していたと

は思えない。


 『秤』は大道(だいどう)さんが罪を裁く目的で使っていたけれど……果たして魔神の罪を裁

く事なんて出来るのだろうか。仮に出来たとして、魔神は私からの質疑応答を律儀

に待ってくれるだろうか。


「『聖杯』『眼鏡』は魔神にも通用したんだよな? 効果を聞く限り、どっちもか

なり有用だと思うぜ」

「……そう、ですね」


 『聖杯』は感情を操れるから、魔神の精神を安定させられる。ただ、ジュジュさ

んや愛ちゃんみたいな激情型はともかく、(しのぶ)さんや明智さんのような冷静な相手に

は通じないかもしれない。


 『眼鏡』は催眠が出来るから、与える暗示次第ではどの魔神にも効果があるかも

しれない。ただし暗示は無理矢理破られたり、時間経過で解けてしまう類のものか

もしれない。永続的な効果が無ければあまり意味が無い。


「『鎖』も魔神に通用します。もしもこれで宇宙の果てや異世界に魔神を置き去り

に出来れば、脅威は無くなるかもしれません」

「良い考えですが……宇宙の果てや異世界から攻撃してきたりはしませんかね?」

「……出来る個体はいるでしょう」


 これもくじ引きの時だけど、照は『オッカムの断頭台(ギロチン)』で三途璃さんの身体を空

間ごと削り取ろうとしていた。つまり三途璃さんを、ここではない別の場所に移動

させようとしたという事だ。そして彼女は、そうすれば三途璃さんは戻って来られ

ないという旨の発言をしていた。


 照が三途璃さんの三つ目の能力を知っているかどうかは定かではない。けれど私

が観察し得た限りでは、三途璃さんは別世界からこの世界へ戻ってくる術を持ち合

わせていない。つまり、『つらなりの鎖』による転移が有効というわけだ。


 ……三途璃さんが大人しく転移させられてくれるかどうかは別にして、だ。


「『杖』はどうだ? 聞いた話だと万能らしいじゃないか」

「……ジュジュさんは持続力が無いって言ってました。彼女の意識が途切れ次第効

果が無くなるので、『鎖』と同じ使い方が出来るくらいでしょうか」


 これについては、何が出来るのかが曖昧なので何とも言えない。ただ、ジュジュ

さんの口ぶりだと、神羅万象を司るわけではないという事だけは覚えておくべきだ

ろう。


「最後は『笛』か。時間を戻すんだっけか。もしも魔神を、魔神になる前に戻す事

が出来るんなら……そいつはこの上無く有効だな」


 ノッポの発言に、私と黒服は反論無く頷いた。

 『黙示録の笛』が魔神に通じるのならそれ以上の事は無い。なにせ全ての魔神は

元々人間だったという過去があるのだから、最高の攻撃手段になり得る。


「……その場合、人間に戻った魔神をどうこうする必要は無いわけですよね」

「夢路さん? あんた何を言ってるんだ?」


 ノッポの問いに、私は黙ってかぶりを振った。


 分かっている。そんな事を考えるのは、二の次三の次だ。まずは人類を生き残ら

せる事を第一に考えないと元も子もない。


 でも……出来れば魔神を殺したくはない。

 平和的な解決が望めるのなら、それ以上の事はない。


 ……大神(おおがみ)照。


 もう一度、彼女と含み無しに笑い合える日は、果たして来るのだろうか。


 そんな未来を、果たして私は掴み取る事が出来るだろうか。


「えーと……今までの話をまとめましょうか」

 私の顔色を見ながら、黒服が遠慮がちに人差し指を立てた。

「魔神に対して有効なのは『鎖』『聖杯』『眼鏡』。有効かもしれないのが『鎌』

『杖』『秤』『枕』『笛』。『聖剣』『銃』『刀』はそうでもない……と」

「ふむふむ。つまりこれから先、接触すべきはその所持者である八体の魔神のいず

れかという事になるでしょうね」


 すなわち照、城菜(しろな)さん、モモさん、三途璃さん、ジュジュさん、大道さん、終日(ひもすがら)

さん、愛ちゃんの八体。照はさておき、能力を明らかにしたがらない城菜さんやモ

モさんから神器を借りるのは難しそうだ。あまり友好的とは言えない大道さんや敵

対しつつある愛ちゃんは相当な鬼門。三途璃さんやジュジュさん、終日さんは上手

く立ち回ればあるいは……といったところかな。


 いずれにせよ、簡単じゃなさそうだ。

 さて、誰から行くべきか……


「ちょっと待てよ、夢路さん。俺は真逆の意見だぜ」

 と、ここでノッポが手を挙げた。

「もしもその八体のうちの一体の神器で、理論上十一体全部の無力化が出来る事が

分かったとして……あんたそれ、一人で実行できるか?」

「え? い、いや、それは……その時ばかりは協力してもらいたいですけど」

「俺達がいても一緒だろ。そうじゃなくて、魔神の協力が必要なんじゃないかって

言ってるんだよ」

「ま、魔神を封じるために、魔神の協力を……ですか?」

「他に方法は無いだろ。そしてその場合、先に挙げた八体以外の連中が望ましい。

なにせ、神器を借りる計画と無関係だからな。その方が下心無しで接触出来る」

「……八体以外って、残りの三体の事ですか? 彼らの一体と仲良くすべきと?」

「まあ、必然的にそういう話になるな……」


 ノッポが歯切れ悪そうに言った。

 彼も分かっているのだろう。残りの三体がどれほど与し難い相手であるか。


 空々(そらぞら)忍。『処刑人の聖剣』の所持者にして、気まぐれで残酷で凶悪な個体。

 明智知英。『溶ける魚を解ける刀』の所持者にして、マッドサイエンティスト。


 この二体から全幅の信頼が得られるくらいなら、初めから苦労は無い。


 必然的に、残った一体がターゲットになる。


 ノッポの意見は悪くない。むしろ私だけではそういう事に気が回っていなかった

だろうから、それだけでも話し合った甲斐があったというものだ。


 問題も無い。元より今まで以上に頑張ろうと決めたのだから、今まで以上に踏み

込む事に不満は無い。


 ただ、不安はある。


 彼女とはあれ以来、完全に没交渉だった。

 現時点で彼女が、私に対してどんな印象を持っているか、まったく分からない。


 ただ、御し易いのは確かだ。

 他の魔神全員を敵に回す事も、彼女ならば厭わないだろう。その実績がある。


 取っ掛かりを上手く掴み、なおかつ暴走させなければ、照以上の優良個体だ。

 挑み甲斐のある相手だ。精々頑張るとしよう。

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