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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第7章 唯野唯は裏切らない
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02

 私は日々、魔神から好かれようと尽力している。


 その結果、今まで関わってきた魔神達は概ね私に対して多少なりとも好印象を持

ってくれているから、その試みは成功していると言っていいだろう。人間としては

極めて浅ましい八方美人っぷりだと自分で呆れざるを得ないけれど、それで人類の

滅亡が少しでも先送りになるのなら是非もない。


 その一方で、魔神同士の仲についてはそれほど重要視していなかった。人間関係

に置き換えるとその無関心さは最低の部類に入るだろうけれど、諜報員としてはタ

ーゲットに取り入ればいいのだから、そこは気にする必要が無いのだ。


 それに、魔神達は概ね仲が良いのが普通だと思っていた。特に照を見ていると、

誰とでも仲良くやっているみたいだし。普段話す忍さんや三途璃さんはもちろん、

あまりよく話をするとは言えない仲の城菜さんやモモさん、果ては一度敵対してす

らいるジュジュさん相手でも上手い事付き合っているみたいだった。


 でもそれは照だけで、険悪な仲同士の魔神もいるというのを、先日私は知った。


桃井(ももい)の事? はっきり言うけど、わたしはあの淫猥ピンク女の事が嫌いなんだ。

だからなるべく夢路ちゃんにはあいつの名前を出して欲しくないんだよね」


 その日の放課後、約束通り隔日になったモデルの約束を果たしている折、せっか

くなのでモモさんの話題を出してみた。彼女は城菜さんを『白い女』呼ばわりして

嫌っていたけれど、城菜さん側はどう思っているのか……そう思って聞いたのは、

どうやら悪手だったらしい。


「えーと……お二人の間で何か確執があったとか?」

「人間だった頃にちょっとね……いずれにせよ、この話はもうやめてほしいな。あ

まり他人の事を詮索して、卑しい顔をするものじゃあない。夢路ちゃんの可愛い顔

が台無しだよ」

「……」


 相変わらず、芸術家志望なのに訳の分からない審美眼だ。呆れて物も言えない。


 でも、城菜さんとモモさんの組み合わせには要注意だ。もしもこの二人をマッチ

アップさせてしまったら、争いに発展する事は想像に難くない。現にこの間もその

せいで校舎が半壊していたし。


「あの、参考までに……城菜さんは他に、嫌いな魔神はいますか?」

「いないよ」

 筆を走らせながら、彼女は即答した。

「なにせたった十二体しかいない仲間だからね。多少性格に難があってもお互い様

だし、なるべくなら仲良くしたいもの」

「十二体……」


 魔神は十一体だ。城菜さんは私を含めたクラス全員の話をしているらしい。視野

の広い個体だ。それだけの度量があって尚、モモさんの事は受け入れられないとい

う事か。


「じゃあ、えっと……唯野さんの事はどう思いますか?」

「ただの?」

 城菜さんは一瞬だけ筆を止め、考え込んでいた。

「ああ、照の後ろの席にいる女の子だね。あの子とは話した事無いからなんとも言

えないよ」

「あ、そうなんですか?」

「うん。いつも悲しそうに俯いているし、会話をしてても混じって来ない。一人で

いるのが好きなタイプなんじゃないかな……」


 取り立てて気にした様子を見せず、城菜さんは自分の仕事に戻った。


 なるほど、他の魔神から見た唯野さんの評価はそういう感じか。

 先んじて照や忍さんにも訊いてみたけれど、似たような感じだった。どうやらど

の魔神に対しても、似たような態度という事らしい。


 城菜さんは私に有益な情報を提供し、仕事を終えて帰っていった。

 時刻は午後七時。私も帰る時間だ。


 謎の魔神、唯野唯。自習の授業中に突然席を立ち、私を空き教室に連れ込んで謎

の質問をした彼女はその後、「放課後、昇降口で待ってる」と言い残して私を解放

した。そこに一体どういう意図があったのか、いまいち分からない。

 ただ、いきなり銃を突き付けてくるような相手だ。用心しておこう。


 そして昇降口。薄暗い空の下、彼女はいた。


「……随分遅かったのね」

「あ、えと、ちょっと他の魔神の用事がありまして……」

「いいよ」

 そう言って唯野さんは歩き始め、私を手招きした。

「大事な話があるんだけど……歩きながら聞いてくれる?」


 私達は誰もいない夜の街を連れ立って歩き始めた。


「ねえ……えっと、不破さんだっけ?」

「は、はい……不破夢路です」

「さっき私の事、怖いって言ったわよね?」

「え、ええと……気を悪くしないで貰いたいんですけど、あの……」

「いいのよ。それが当然の反応だもの」

 唯野さんは安堵した風にそう言った。

「安心した。やっぱりこのクラスにも一人くらいはまともな人がいたのね」

「……と言うと?」

「だって皆、おかしいじゃん! 今日だって委員長が政府から来た先生を殺して、

誰もドン引きしないどころか普通に授業が続くし、死体を勝手に壊していく奴らま

でいるし! あり得ないでしょ! ねえ不破さん、あなたもそう思うわよね?」

「は、はあ……まあ、そ、そうですね」


 この魔神はなんて真っ当な事を言うのだろう。私も常々思っているし、何ならこ

の学園に来た初日から思っているし、もっと言えば魔神が現れた当初からずっと思

っている。

 魔神はおかしい。そんなの今更言うまでも無い事だ。


「ええと……唯野さんも魔神ですよね?」

「そう思う?」

「え、なんで疑問形なんですか?」

「いや、私、なんかずっと置いてけぼりなのよね。今でもずっと、自分の事魔神だ

と勘違いした人間なんじゃないかって思ってて……」

「……」


 その線は無い。彼女は先刻、金ぴかの拳銃を具現化してみせた。あの異能は魔神

だけが持つものだし、髪質も他の魔神と同様だ。彼女が魔神であるという事に疑い

の余地は無い。


「でも唯野さんご自身は、他の魔神への仲間意識は無い……と?」

「いや、そういうと語弊があるけどさあ……でも、共感できないところが多いって

いうか……皆倫理観どこに置いて行っちゃったんだって思って」

「ええ……」


 つまり翻って考えると、唯野さんは真っ当な倫理観を持っている、と?


 そんな魔神、初めて見た。温厚な照や直接人間に危害を加えない城菜さんでさえ

倫理観という点においてはいかれているというのに。


「ええと、つまり唯野さんは、その……人間の頃と魔神になった今とで、感覚の違

いを感じていないという事ですか?」

「そうそう、そういう事!」

 意を得たり、と言わんばかりに唯野さんは私を指す。

「ずっと戸惑ってるのよ。もしかしたら私以外の皆、魔神になった時にものすごく

重要なきっかけみたいなのがあってああなったのかもしれないけど……正直、つい

ていけない。感覚の違いが酷すぎて、頭がおかしくなりそうよ……」

「……」


 魔神化の前後について、当事者ではない私には何も言える事は無い。その過程も

仕組みも分かっていない以上、彼女の言う『重要なきっかけ』とやらが何を転機に

訪れたのかは分からない。


 そもそもそんなものが実在するかどうかさえ、確信をもって言う事は出来ない。

酷く恐ろしい想像ではあるけれど、魔神の歪んだ精神性は、各々が先天的に持ち合

わせていたものでないとは言えないのだから。


 思えば照もそうだ。魔神化する前の彼女を知っているけれど、性格は全然変わっ

ていない。温厚で、友好的で、ほんの少しだけ周りに対して無関心なところがある

……普通の少女だったと思う。その無関心さが人類という枠まで広がって、それを

害するだけの力を得たというだけで。


 でもそう考えるなら、もっと根幹の部分で大きな疑問が生まれる。


 すなわち、どうして異常な精神性の者ばかりが魔神になってしまったのか、とい

う話。アトランダムに人間を選別すれば、大半はまともな精神性の者が選ばれるは

ず。異常者はマイノリティーだからこそ異常と呼ばれるわけで。


 翻って考えるなら、そもそも魔神化の条件として『異常である事』という項目が

存在すると言えなくもない。悪魔のような発想ではあるけれど、それで根幹の部分

の疑問が解消される。


 ただしその場合、唯野さんの存在がノイズになる。


 唯野さんの精神性はどう考えても正常だ。人間の死を悼み、異常者に恐怖を表明

するその気持ちは、人間として当たり前のものだ。


 じゃあ一体、真実とは何なのか。

 そんな事を考えても埒が明かないし、意味が無い。ちょっと思考が逸れてしまっ

たけれど、今重要なのは一つ。


 唯野唯という個体は、良識的な存在だという事だけ。

 それは私にとって、理想的な事実だ。


「唯野さんはこれから先、どうしたいんですか?」


 努めて優しい声色を演出すると、唯野さんは心細い様子で首を振った。


「……分かんない。とりあえず不破さんがまともだって思ったから近づいたけど、

そこから先は考えてなかった」

「人間社会に戻りたいですか?」

「……ううん、無理。どうせ私の顔は知れてるし、知り合いは皆私のせいで死んじ

ゃったから行く当てもない。同じ境遇の人達が集まってるって聞いたからこの街に

来たんだけど……ちょっと馴染めそうもないわ」

「じゃあ、魔神対策室を紹介しましょうか? あなたが人類に危害を加えない個体

だって説明すれば、歓迎されると思いますよ」

「……でもそいつらって、私達を殺すための組織なんでしょ? だったらやっぱり

怖いわ。絶対人体実験とかしてくるもん……」

「……」

「……」


 唯野さんが足を止め、何か言いたげに私を見つめた。必死さと浅ましさを帯びた

綺麗なセピアだ。私はその視線から目を逸らし、小さく溜めて彼女の手を取った。


「唯野さん、私と友達になってくれませんか?」

「え? 私が、不破さんと?」

 途端、瞳に光が宿る。

「いいの……? あなたは私の事、怖くない?」

「……正直言うと、ちょっと怖いです。でも他の魔神と比べると、幾分かましだと

思います。それよりも私は、あなたの孤独に寄り添いたい。人類の平和のため、ク

ラスの秩序のため、そして何よりあなたのために、私はあなたを理解したい。大し

た事は出来ませんけど、私は絶対あなたに危害を加えませんし、出来る限りあなた

の希望に応えると約束しましょう。どうですか?」


 目の前にいるのは、行先を見失った心細い迷子だ。

 手を差し伸べられたがっている。

 だったらその望みを受け入れよう。


 リスクは低くない。たとえ真っ当な倫理観を持っていても、彼女は魔神。「もの

の弾み」というものがあるだろうし、彼女との付き合いを始める事で他の魔神から

反感あるいは敵意を持たれる可能性もある。


 でも迷子の手を引く特権は、上手く使いたい。


 私は彼女の手を引いて、どこへでも行ける。それはすなわち、魔神の意向をコン

トロールする事に他ならない。まさしく神をも恐れぬこの特権を手中に収める事が

出来たなら、人類のためになるだろう。


 今まで何度も魔神を仲間に引き入れようとして、私はそのたびに失敗している。

 でも今度はきっと大丈夫なはず。なにせ当人が魔神の自覚が無い普通の人間みた

いな顔をしているのだから。


 魔神の最も厄介な性質は、倫理観の無さ。

 それゆえに私は何度も見誤り、辛酸を舐めてきた。その度に犠牲になった人類の

損害を思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


 でも今回こそ、確実にやれる。私は唯野唯の思考が手に取るように理解できる。

同じ魔神に恐れを抱く仲間だからこそ、完璧に読み取れる。


 これは未曾有のチャンスだ。無駄にするものか。


 目の前の魔神が私の手を取り、破顔する。

 私も笑顔になる。裏はある。でも彼女を裏切るわけじゃないから、構うまい。私

だって、心からの笑顔を浮かべよう。


「これからよろしくね、不破さん!」

「こちらこそよろしくお願いします、唯野さん!」


 夜のとばりが下りてゆく。


 あらゆる建造物の影だけが浮かび上がる幻想的なゴーストタウンの中、私達はま

るで普通の女子高生みたいに、青春の握手を交わした。

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