表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第6章 桃井最萌華は動かない
31/130

05

 魔神の街に戻った時、時刻はまだ午後の二時過ぎだった。


 学校を抜け出してから三時間くらいしか経過していないなんて、信じられない。

そう感じてしまうくらい、私は疲れていた。


「まあ、二回も気絶してたらそりゃあ疲れるわよね」

「……モモさんにやられたんですけど」

「そうね、ご苦労様」


 私の苦情を聞き流したモモさんは、にっこりとわざとらしい笑みを浮かべた。仕

草も込みですごく可愛らしい挙動だ。でもそれに心を癒されるほど、私の精神に余

裕は無い。

 数々の恐怖体験に加えて、生命まで脅かされるなんて……生きた心地がしない。

この分だと、私ももうじき幽霊の仲間入りである。笑えないなあ。


「ちょっと夢路、大丈夫?」

 モモさんが私の頬に両手で触れながら問う。

「あんた随分顔色悪いわよ?」

「そう……ですかね」

「今日はもう帰って休みなさい」

「え……いいんですか?」

「大丈夫よ。あたしが黄泉丘に言っといてあげるから」


 そう言ってモモさんはあっさり私を解放し、去っていった。


 いいのかと聞いたのは、企画はあれで終わりでいいのかって意味だったんだけど

……まあいいか。


 家に帰る。当然誰もいない。誰かが来る気配も無い。疲労に身を任せ、ベッドに

ダイブした。はあ……本当に疲れた。


 何気なくスマホを起動させる。突然サボったから照辺りから文句のメッセージが

来ているかと思ったけれど……大丈夫そうだ。忍さんか今日の教師役が誤魔化して

くれたのだろう。三途璃さんの方もモモさんが何とかしてくれるって話だし、城菜

さんのモデルの方も話がついている。久しぶりに……本当に久しぶりに、ひとごこ

ちつけそうだ。


 寝床の柔らかさに感激しながら目を閉じ、午睡に浸る。


 ……

 …………

 ……………………


「眠れない……」


 身体は疲労を訴えているのに、目が冴えている。二度も気絶させられたせいで、

自律神経がバグを起こしているのかもしれない。眠りたいのに眠れないというのは

なんだかちょっとおかしな気分だ。


 まあいいや。どうせベッドから這い上がる気にもなれないし、適当にスマホでも

いじっていようかな。

 ……あ、モモさんがSNSに新しい投稿をしている。


 さっきまでの肝試しの動画だ。きちんと約束通り、私の目線と声に修正が入って

いる。モモさんが魔神であると疑われかねない箇所はカットされていて、主に私の

珍リアクションに大袈裟な脚色が為されている。ああ、なんてみっともない姿。こ

れは確かに、エンタメ向けのリアクションだなあ……コメント欄も大絶賛だ。


 などと思いながらファインダー越しの自分の醜態を見つめていると、主観では恐

怖のベールで覆われていた違和感が、ふと剥がれ落ちてきた。


「幽霊の挙動、ちょっとおかしいような……」


 最初に城門を開けた時と、城内に入ってすぐの時、私を脅かしてきた霊がいた。

あの時はまるで同じ動画を再生しているかのように思えたけど……あれは本当に錯

覚だったのだろうか。


 改めて動画で繰り返し見ると、よく分かる。この幽霊は現れ方から消え方まで、

完全に一緒だ。しかも消える時、動画を停止したみたいに一瞬ノイズが走ったよう

な姿の乱れ方をしている。


 次は水路のところで見たドクロだ。これも動画で見てようやく気付くくらいだけ

れど、ひとりでに動く際に微かにモーター音のようなものが聞こえてくる。これは

もしかして、遠隔操作のおもちゃ……?


 さらに、私に倒れ込んできた死体。穴が空くような距離で動画を眺めていると、

死体の一つ一つにピアノ線のような糸が巻き付いているのが分かる。あらかじめ定

位置にピアノ線で固定しておいて、後でタイミングを見計らって糸を切ればただの

死体でも同じ動きをするだろう。


 最後に私を左右から挟み撃ちにしてきた死体に至っては、顔だけ精巧なマスクを

被せたマネキンでしかない。よく見ると後ろの方に生きた人間がいて、マネキンの

背を押している。


 これは……まさか、やらせだったの?

 幽霊なんて存在しなかった? 全部モモさんの自作自演?


 いや、それだと私を爆殺しようとしたのは不自然だし、その事で彼女が怒って舞

台を破壊したのもおかしい。


 第一、霧はともかくあの城はどこから持ってきたというのか。四方見渡す限り地

平線の状態から、霧が出てほんの僅かな猶予しかない。確かにわざとらしい城だっ

たけれど、だからってあんなものを短時間で用意出来るわけがない。


 一体どういうからくりなのだろう。政府は本当に幽霊を味方につけたのかな? 

幽霊城……それしか考えられない。なんてばかばかしい考えだ。本当かなあ。


 分からない。でも確かなのは、あの茶番には丸太が関わっているという事。それ

だけは絶対に間違いない。


 文句の一つでも言っておくか。私は寝転がったままスマホを耳に押し当て、政府

へのホットラインを押した。あの男は今日いっぱい私との連絡役だから、これで繋

がるはず。


「はいこちら魔神対策室、黒魚(くろうお)でございます」

「……あれ?」


 電話に出たのは丸太ではなく、お馴染みの黒服だった。いや、今黒い服を着てい

るかどうかは知らないけど。


「あの、丸太……じゃなくって、今日の連絡役はどこに行ったんですか?」

「はあ、それなんですが……行方不明でして」

「え?」


 丸太のやつ、姿を眩ませた? 一体なんで?

 その答えは、すぐに湧いて出てきた。


「もしもし、夢路さん? あ、いえ、すみません」

「……どうしたんですか?」

「ああ、失礼」

 電話口の向こうの剣呑な雰囲気が伝わってきた。

「あのですね、夢路さん。あなた、今日の連絡役の行方に心当たりがあるんですか

ね?」

「え……と、無いから訊いたんですけど、どうしたんですか?」

「ああ、そうですか。いや、実はですね。あいつ、殉職したみたいでして」

「え?」


 丸太が死んだ?

 いくら世紀末な世の中とはいえ、あまりに唐突過ぎる話だ。他の魔神が暴れたの

だろうか。


「ええ、そのようです」

 黒服が唸った。

「あの男、何故か東京にある魔神対策庁本部にいたらしいのですが、ついさっき突

然彼めがけてどこからか熱線が飛んできたらしく」

「熱線……?」

「ええ、熱線。それで本部ごと半壊になったそうで、職員は上を下へのパニックで

すよ。こんな真似が出来るのは、魔神くらいのものじゃありませんか?」

「…………」

「夢路さん?」

「すみません。また連絡しますね」


 そう言って一方的に通話を切った。

 確か『熱視線』だなんて言ってたっけ。間違いなくモモさんの仕業だ。


 モモさんが丸太を殺した? なんで?

 戸惑いながら思い出す。あの城を焼き払う直前、モモさんは怒っていた。


『……ああ、そう。そういう事。まったく、舐めた真似をしてくれるわね』


 彼女は何に納得したのだろう。「舐めた真似」というのはどういう意味だろう。


 舐めた真似っていうのは、オカルトスポットに用意した私を驚かす仕掛けだろう

か。幽霊の仕業を演出しつつ、あれは明らかに人間の仕業だったから、モモさんか

らすれば騙されたと感じてもおかしくは無い。


 ……でも、怒るならもっと早く怒るか。


 私はパニックだったから気づけなかったけれど、後ろで見ていたモモさんは一連

の現象に仕掛けが見えていたはず。彼女は魔神だから感覚は人間なんかとは比べ物

にならないだろうし、しかもあの時『天色眼鏡』を掛けていた。気づかなかったわ

けがない。


 多分、気づいた上で泳がせていたのだ。


 何故って、私のリアクションが無様だったからに違いない。たとえやらせだと分

かっていてもライブ感を優先したのだ。ギャルのモモさんらしい判断だ。


 でも、じゃあ一体何に怒ったのだろう。


 他の可能性は一つだけ。すなわち、私を爆殺しようとした事だ。

 あれも丸太の指示によるものなら、酷い行為だ。


 あの時、モモさんは私から視線を外していた。本来なら私はモモさんに庇われる

暇も無く殺されていただろう。

 視界の外の出来事を『天色眼鏡』で把握出来るという事を、私は今日モモさんの

車の中で知ったばかりなので、丸太は知らなかった。だからたまたま助かった。


 丸太が私を殺そうとしたのは、もはや間違いない。

 でも、なんで? 私は人類のために日々身を粉にして魔神と付き合っているわけ

で、殺される謂れなんて無い。

 第一、私を殺したらもう魔神を縛る枷が無い。どころか照をはじめとする一部の

魔神からの恨みを買うだけだ。百害あって一利なし……


「……」


 え?

 まさか、それが狙いだったの?


 もしもあの時私が殺されていたら、照は人類に怒りを向けるだろうか。


 多分違う。モモさんがどう話すかは分からないけれど、少なくとも政府の人間は

幽霊の仕業だと言い張るだろうから。


 むしろ私を連れ出したモモさんに怒りを向ける可能性の方が高そうだ。そしてそ

れこそが、丸太の狙いだったとしたら……?


 政府は私という切り札を捨てて、魔神の同士討ちを試みたって事?


 確かにそれは、試す価値があるかもしれない。前にも言った通り、私の生命一つ

で魔神一体を倒せるのなら、安いものだ。当人がそう思うくらいだから、丸太だっ

てそう思っても不思議は無い。


 だからモモさんは怒ったのだ。私を狙ったからじゃなく、自分を嵌めようとした

から。丸太の狙いに納得し、その上で怒りを表明した。


 私のこの考えは、どこまで正しいだろうか。問いただす相手はもはやいない。モ

モさんもきっと全てを知っているわけじゃないだろうし、たとえ知っていてもを話

してはくれないだろう。そして知りたいとも思わないだろう。


 桃井最萌華は動かない。真相を追及するタイプじゃないからだ。窮地を脱し、相

手を罰したらそれで終わり。


 今回ばかりは、魔神の残酷さに慄いたりはいない。私の生命を勝手にベットされ

た事を差し引いても、モモさんに喧嘩を売ったのは人類の方なのだから。

 本来なら、世界ごと滅ぼされてもおかしくない愚行だった。同じ事を忍さんやジ

ュジュさんにやったら、きっとそうなっていた。


 人類は綱渡りでかろうじて生き残った……そう思う他あるまい。


「……気が休まる暇が無いなあ」


 次にまた同じような事が起こった時、私はどうすればいいのだろう。

 人類の誰かが似たようなばかげた考えを持たないとは限らない。それこそ人類が

滅びるまで、この葛藤は続くだろう。


 つまり、程なくして解決する悩みというわけだ。


 やれやれ……無駄な事に頭を悩ませてしまった。

 どうせなるようにしかなるまい。

 そう思い、自分の中で自分なりの落としどころを見つけると、途端に眠気が湧い

てきた。


 このまま寝てしまおう。そして起きた時世界が滅んでいたらその時はその時だ。

 丸太のおかげで、私は少しだけ自暴自棄になれた。


 おやすみ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ