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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第6章 桃井最萌華は動かない
29/130

03

 魔神の攻撃は世界中に及んだけれど、およそ六十億人の被害が全ての地域から平   

等に出たわけではない。そこには魔神による作為がある。


 例えばフランスやイタリアをはじめとしたヨーロッパ諸国の被害は、他と比べて

比較的少ない。おそらく美術を愛する魔神……城菜さんの影響だろう。


 また、意外にも日本の被害もほとんど無い。魔神の居住区が日本にある関係上、

最も被害を被りやすい位置関係ではあるけれど、自分達の縄張りだからこそ自分達

で荒らす意味が無いと思っているのかもしれない。


 その反面、十一体の魔神の誰もが特に思い入れの無い地域に関しては、ほとんど

全滅に近いダメージを負っていると言っても過言ではない。殊更南アメリカに関し

ては、人類はおろかありとあらゆる生命が生きる余地さえ奪われた不毛の地と化し

た場所さえある。

 丸太が指示した場所も、その部類に入るらしい。


 気が付くと、私は四方一面真っ黒な土地に立っていた。


「これは……」

「とりあえず位置情報の示す場所まで来てみたわ」

 私の呟きに応えるように、傍にいた桃色の瞳が瞬いた。

「感想は?」

「……私、いつの間にここへ?」

「それって感想じゃないわね」

 モモさんは鼻白んだ様子で肩を竦めた。

「別にいいんだけど、もし怪奇現象が起こった時は、もうちょっとイノセントな反

応を期待してるわ」

「は、はあ……」

「ちなみに今の時間はお昼の十二時前。あんたがSNSで政府からの通知を受けた

すぐ後ね。あ、でも時差があるからここからだと深夜の二十三時ってとこかしら」

「え、ええと……」


 記憶を手繰る。あの後、ええと……車を止めて、丸太には「今から向かう」って

旨の連絡を入れて、それで……


「そこから先、全然覚えてません……」

「そりゃあそうよ。あたしの能力、忘れたわけじゃないわよね?」


 そう言ってモモさんは耳に掛けたおしゃれ眼鏡をくい、と可愛らしい仕草で持ち

上げた。『天色眼鏡』……あ、私に暗示を掛けたのか。多分、意識を奪う方向で。


「な、何故私の意識を奪う必要が……?」

「必要なんか無いわよ。運び方が企業秘密ってだけ。あたしの能力って、披露する

には不向きなのよねー。映えないし」

「さ、さいですか……」


 どうやら『天色眼鏡』とは違う方法で運ばれたらしい。やっぱりモモさんも、自

分の能力をむやみやたらと見せるつもりは無いようだ。むう、ちょっと残念だ……


 まあいいや。とにかくあれからほとんど時間は経過していないという事か。


「……で? ここからどうすればいいの?」


 モモさんが退屈そうに私に問う。ええと、スマホに指示が来てるかな……


「あ、圏外ですね」

「まあ、当たり前だわね」


 周囲は本当に何も無い。どこを向いても砂と土だけの荒野だし、地面はどこまで

も無表情な黒を晒し続けている。星が瞬く夜空の方が見上げていてずっと面白い。


「電波塔どころか電柱の一つも無いなんて、不便な場所よねー」

「ま、まあ、魔神が滅ぼした地区ですし……」

「誰がやったのか知らんけど、あたしならもっと文明残すわよ。っていうかここで

一体何があったわけ?」

「……核兵器が落とされたらしいです。やったのは恋心(こいごころ)(あい)さん」

「恋心って……ああ、あの子ね。へえ、意外に大胆な事するじゃない」

「ここ以外にも何か所か、大量に投下されたらしいですよ……」

「ふぅん……夢路、あんた随分詳しいのね」

「そ、それはまあ、私も人類の端くれですし……」


 モモさんは何の感慨も無さげに「へーえ」と呟いた。


「まあ、目的地に着いてるのは確かなんだし、怪奇現象が起きるまでここでのんび

りしてましょう」


 そう言ってモモさんは伸びをして、星空を見上げた。しかしそれもすぐに飽きた

らしく、「暇ねー」などと言い出す。


「現代人としちゃあ、スマホが弄れないのは退屈過ぎるわ! SNSチェックした

い! 呟きたい! 自撮りしたいっ!」

「じ、自撮りはオフラインでも出来るのでは……?」

「それはそうだけど、こんな状況でやっても映えないし……ああもう限界、ちょっ

と待ってて!」


 そう言ってモモさんは消え、またすぐに戻って来た。

 手にはポップで可愛い柄のピクニックシートと化粧ポーチを持っている。


「座りましょ!」


 ピクニックシートを広げ、モモさんが私に着座を促す。言われるままに従うと、

モモさんは化粧ポーチをひっくり返した。


「顔、いじっていい?」

「なんというかモモさん……自由ですね」

「褒めても何も出ないわよ」


 またしてもされるがままに顔を貸す。モモさん、やっぱり強引だなあ。


 っていうか、こんなにのんびりしていていいのかな。ここ、一応オカルトスポッ

トなんだよね……? それにしては何にも無いけど。


「あの、モモさん……例の行方不明になってユーチューバーなんですけど」

「ん? ああ、例のね。それがどうしたの?」

「あ、いえ。彼が本当に霊に襲われたのなら、ここには霊がいるって事ですよね?

やばいんじゃないでしょうか……?」

「平気よ。霊なんているわけないでしょ!」

「本当にそう思ってます……?」

「いや、そういう感じで構えてた方が幽霊サイドも出てきやすいかなーって」

「モモさんって実は、異様なほど気遣い屋ですよね……」

「褒めても何も出ないってば」

「褒めてないです……」


 霊……いるのかなあ。そう考えると、なんだか落ち着かなくなってきた。魔神で

あるモモさんが霊に対して耐性があるかどうかは知らないけれど、私には間違いな

く無い。行方不明になったユーチューバーと同じ末路を辿るに違いない。


「あ、あの……そういえばモモさん、『天色眼鏡』で霊視は出来ないんですか?」

「ああ、そういえばそうね。出来るかも」

 そう言いつつも、彼女の視線は私の顔から離れない。

「でも霊視しても意味無いの。実際に画面に映らなきゃ、SNSに投稿出来ないじ

ゃない」

「え……まだそんな事言ってるんですか?」

「まだも何も、あたしの目的は最初からそれだけよ。でなきゃこんなスマホも繋が

らない場所には来ないわ」

「し、しかしですね……」

「大丈夫よ。最悪あんたが死んだら生き返らせてあげるから」

「あ、ありがたいですけど、そういう問題じゃありませんよ……」


 笑顔で恐ろしい事を言うなあ。今更ながら、モモさんと二人きりでここに来たの

は失敗だったんじゃないかと思わずにはいられない。万が一モモさんに何かあった

ら、私は一人になってしまう。ただでさえ移動手段の無い不毛の大地で、私は魔神

をも打ち倒すポテンシャルを持った霊を前に無防備で晒される事になる。そんなの

死んだ方がましじゃないか。


「まあ、そう深刻に構える事も無いわよ……はい、終わった」

 ようやくモモさんから解放され、またしても手鏡を渡される。「どう?」

「どう、と言われましても……」


 さっきとどう変わったのだろう。私には美醜のセンスが無い。ただでさえ自分の

顔なんて、正視に耐えないというのに……


「あれ?」


 手渡された鏡には、私の姿が映らない。

 否、映るには映る。でもなんだか薄い。まさか私、死んだ!?


 驚いて鏡から目を離すと……私だけじゃない。あらゆるものが薄くなっている。

まさか、周り全部幽霊に!?


「落ち着きなさいよ。ちょっと霧が出てるだけじゃない」

「霧……? あ、そ、そうですね……」


 情けない取り乱し方をしてしまった。確かにこれはただの霧だ。水平線が瞬く間

に掻き消えて、手を伸ばした先さえ見えなくなるほどの濃い霧が周囲を覆う。まさ

か、これが怪奇現象……?


「ゆ、幽霊がいますか!? どこかにいますか!?」

「いないわよ。ちょっと夢路、取り乱し過ぎ」

「だ、だって……」

「もう動画、回してるからね」

「ええっ……!?」


 衝撃の事実に視線を向けると、確かにモモさんはスマホを構えている。こんな状

況で肝が据わり過ぎている……


「このくらい普通よ。失踪したユーチューバーだって似たようなもんだし」

「それは……まあそうですけど」


 確かにこれはリアクション役が欲しくなる気持ちも分からないでもない。こっち

としては置いてけぼりな気分なんだけど……


 でもまあ、確かに落ち着いてみればなんて事はない。霧くらい日本でだって普通

に起きる現象だし、たまたまオカルトスポットで起きているだけだ。なんて事も無

い。何も怖くない。


 そう思った直後、つんざくような悲鳴が飛び込んできた。


「ヒィヤアアアアアアッ!」

「ぎゃあああああっ!!?」

「ふっ……あっはははは! びびりすぎでしょ!」


 モモさんが笑っている。なんで笑えるの!? 今の悲鳴、別にモモさんのせいっ

てわけじゃないよね……?


 その後もそこかしこから怨念のようなおどろおどろしい声が響き渡る。その度に

私は震えあがり、とうとう最後にはモモさんの胴にしがみついてしまった。モモさ

んは私の醜態を観て、目に涙を浮かべて高笑いし続ける。うう、なんて生き恥……


 やがて霧が晴れ、湧いていた声も消えた。

 そしてクリアになった視界には……いつの間にか巨大なお城が建っていた。


 え……いつのまに?


「蜃気楼……? いや、幻、でしょうか……?」

「砂漠じゃあるまいし、違うわよね……」


 さすがのモモさんも、笑みを消して夢幻の建造物を見つめている。


 さっきまで何も無かった場所に、いきなりこんなものが現れるなんて……まるで

現実味に欠けている。魔神の能力でも無ければあり得ない話だ。


「モモさんの能力じゃないんですよね……?」

「もちろんよ。それじゃあヤラセになっちゃうでしょ」

「じゃあ、あれは……」

「……」


 モモさんは何も言わず私の腕を掴んだ。


「百聞は一見に如かず……行ってみましょ!」

「え、ええ……? あの、お城に入るんですか!?」

「大丈夫だって、ほら早く!」


 強引に腕を引かれ、連行される。


 怪奇現象に自ら足を踏み入れるなんて……死にに行くようなものじゃん。


 ああもう……こうなったらいっそ、私ごとモモさんを食い殺せばいいじゃん!

 やれるもんならやってみろっ!

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