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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第6章 桃井最萌華は動かない
28/130

02

 桃井さんのSNSアカウントは、ものの二分で見つかった。


 SNSが好きだと自分で言うだけあって、彼女はかなりのインフルエンサーらし   

い。フォロワーは約十二万人。投稿内容はその日の行動を自撮り付きで呟くのが主

だけれど、時々ユーチューバーみたいな企画もやっているみたいだ。いくつかの企

業がスポンサーになっているのか、中には企業案件っぽいのもある。


 盛んにSNS活動に勤しむ彼女に対し、フォロワーの評判は上々だ。投稿画像を

加工しているらしく、髪の発光が見られないため、魔神だとばれていないらしい。

ファインダー越しに存在する桃井さんは人間で、単なるちょっと派手な外見をした

おしゃれな今風女子高生と思われているのだろうか。もしも本当にそうなら、どれ

ほどよかっただろうか……


「ふむ……これが桃井最萌華のアカウントですか。なるほど、言われるまで全く気

づきませんでしたよ」


 翌朝早朝、定時連絡に来た政府の人間が私のスマホを見ながら目から鱗が落ちた

様子でそんな事を言っていた。魔神対策庁に連絡が行っていないところを見るに、

十二万人のフォロワーは本当に桃井さんの正体に気付いていないようだ。


「……しっかりしてくださいよ。魔神の情報を集めるのも政府の仕事でしょう?」

「SNSアカウントなど、今や国民全員が持っている時代ですよ。無茶を言わんで

下さい。それよりも夢路さん、桃井最萌華の能力については本当でしょうね?」

「もちろんです。『天色眼鏡』……他の魔神の能力に負けず劣らずとんでもない効

果でした。遠く離れた場所から、ほんの一瞬でたくさんの人間に暗示を掛けたわけ

ですからね。あの後、本当に照が周りからただの人間として扱われていたので驚き

ましたよ」

「ぞっとする話です。もしもその暗示が我々にも掛けられたら、たとえ相手が空々(そらぞら)

(しのぶ)でも、我々は気づけないわけですな」

「……忍さんの場合、気付いたところで手遅れでしょうけどね」


 魔神を魔神だと認識出来たところで、無意味と言えば無意味だ。極論を言えば、

この世界が既に魔神の手中にある事に変わりないのだから。逃げようが逃げまいが

結果は一緒である。


「相変わらず達観してますな。あなた、メンタルの方は平気ですか?」

「大丈夫……とは言えませんね。魔神の機嫌を取るのも一体いつまで続ければいい

のやら……」

「魔神と人間との戦争が終わるまでですな」

「それ、事実上の終身刑じゃないですか?」

「心中お察ししますぞ」

「そう思うなら、早いところ魔神を倒す方法を見つけて下さい……」

「まあ、そう仰らないで。我々も決して無策ではない」

「と言うと?」

「政府のお偉いさんの方で、いくつか立案している事があるのですよ。今日の情報

と合わせれば、まもなく方針が決まるはずです。あるいはそれこそが、人類の反撃

の狼煙となるかもしれませんな……」


 そう言って、政府の人間──大柄で太っているので、私は彼を『丸太』と呼ぶ事

にした──は鷹揚に帰っていった。魔神の街にあって、珍しく肝が据わった男だっ

た。その胆力、私にも分けて欲しい。あるいは役目を代わって欲しい。


 政府の案ってなんだろう。今もって魔神に対して有効な攻撃手段が何一つ見つか

っていないというのに、一体何をどうする腹積もりだろうか。何か出来るのなら是

非ともやって貰いたいけれど……望みは薄いんだろうなあ。


 そんな事よりも、現実を見なければならない。

 楽しい休日は終わった。今日からまた学校が始まる。憂鬱だ。


 昨日で六月が終わり、季節はいよいよ本格的な夏の顔を見せてきた。例年よりも

暑いように感じられるのは、地球温暖化の影響か、あるいは魔神の誰かの仕業か。

 来年はもっと暑くなるだろうか。来年にはどのくらい人類が生き残っているだろ

うか。というか、世界は終わっていないだろうか。これが人類史最後の夏になって

もなんら不思議ではない状況だ。


 頭上でぎらつく太陽が、世界の残酷さを声高に主張している。私は早くも疲弊し

始めた身体をのっそりと動かし、学校へと向かった。





 桃井さんの個性を一言で表すなら、「ギャル」だ。


 授業中でもスマホを弄っているし、休み時間には化粧もしている。お世辞にも生

活態度は良くないけれど、毎日学校に来ているようで、学園生活に不満があるわけ

ではなさそうだ。


 我が強く、不真面目ゆえに委員長である三途璃さんとはしばしば衝突し、そのた

びに私は肝を冷やす。そういう意味ではトラブルメーカーだけれど、「芸術家」や

「黒魔術師」なんかよりはよほど常識的な言動なので宥めやすい。御し易いとは決

して言えないけれど。


「ちなみにむーちゃんさんの裁定ですと、私はどういう肩書になります?」

「……当然のように心を読まないでくださいよ、忍さん」


 忍さんは、何だろう。「ぺてん師」って呼び方が一番適切だろうなあ。もちろん

当人にこんな事言えないけど。


「ちなみに忍さんって、桃井さんと仲良かったりします?」

「いえ、全然。あんまり気が合わないと思うので、お互い話しかけないんですよ」

「え、そうなんですか?」

「他人の話を聞かなそうな強引さがあるでしょう」

「え、ええと……」

「おや、同調したくなさそうですねえ。ふふふ、他人の陰口に付き合わないのは良

い事ですよ」

「……」


 いや、そういう話じゃなく、「どの口がそれを言うのか」という旨の発言をしよ

うとしただけです。もちろん口には出せません。まだ私、死にたくないので。


 忍さんの事は置いておく……というか彼女は問題外として、だから桃井さんは他

の魔神よりも仲良くなりやすい……はず。


 もちろん相手は魔神。彼女と私の関係は、今のところクラスメイト以外の何でも

ない。昨日は照がいたから普通に会話出来たけれど、本来彼女は私の名前さえ憶え

ていないくらいなのだ。取っ掛かりを作るところから始めないと、あっさり殺され

ても不思議じゃない。


 どうしようかな……


 考えが纏まらないまま、じっと桃井さんの挙動を見つめる。幸いにも彼女は私の

すぐ前の席にいるので、観察は簡単だ。完全に背を向けている以上、気付かれる心

配も……


「……夢路、あたしに何か用があるの?」

「ひえっ!?」


 桃井さんが突然振り返った。


 え、なんで? いくら観察していたからって、露骨に視線を送るような真似はし

てないはずなのに! 眼鏡を具現化するくらいだから、元々視線に敏感だったのか

な? 魔神は感覚が鋭いのもあるし……いや、そんな事はどうでもいい。

 弁解を、弁解をしないと!


「す、すみません!」

「は? いきなり何よ」

「あ、いえ、その、怒られるかと思って……」

「別に怒ってないけど……用が無いならいいのよ」

「あ、え、えと……はい」

「ところで顔、いじっていい?」


 そう言って桃井さんは自分の机からポーチを取り出し、私の机に中身を出した。

いくつかの小さなビンと小道具が転がる。化粧品かな。


「え、えっと……あの、どうするつもりですか?」

「聞いたじゃん。顔いじっていいかって。あんたすっぴんでしょ?」

「は、はい。でも別に化粧なんて特に必要ありませんし……」

「化粧した事ない奴は皆そう言うのよ。あんた素材がいいんだからやってみるとい

いわよ。てゆーか弄り甲斐があるからやらせなさい」

「え、ええと……」


 答えは聞いてない、と言わんばかりに桃井さんは私の顔を掴み、腕によりをかけ

始めた。視界の端で、忍さんが「私の言ってる意味、分かりました?」と言外に言

葉を述べてくる。

 強引か……なるほどなあ。


 幸いにも桃井さんには悪意が無かったらしく、私は十分ほどで解放された。


「終わったわよ。感想は?」


 そう言って桃井さんが手鏡を渡してきた。自分の顔を見つめるのは嫌いだけれど

……うう、仕方がない。受け取った鏡に自分を映すと、いつも通り不景気そうな表

情をした女がこちらを見ていた。ただ、いつもよりまつげが長くて目元の色香が増

しているような気がする。頬に赤みが差し、顔色も良くなっている。これが自分の

顔だと思うとぞっとするけれど、桃井さんの手腕はかなりのものらしい。


「いい……と、思います」

「何よ、煮え切らないわね。はっきり言いなさいよ!」

「い、いいです! すごく気に入りました! 顔の皮剥がして家宝にします!」

「……とりあえず、ものすごくお気に召さなかったのは分かったわ」


 桃井さんの眉が吊り上がり、目つきが鋭くなった。きちんとお世辞を言ったのに

どうして……


 怒られる……というか殺される。


 そう思ったけれど、私の五体は満足なままだった。代わりに桃井さんは私の肩を

抱き、不機嫌そうな顔のまま顔を近づけてきた。


「あんたがあたしのメイクを気に入らないのは想定の範疇よ。あんたとあたしの顔

のタイプって、全然違うものね。あたしは可愛い系で、あんたはどっちかっていう

とクール系だもの。今のあたしの手持ちじゃ上手くいかない。でも道具さえあれば

今度こそあんたに似合うメイクを施せるのよ!」

「そ、そうですか……いや、あの、そうですね。桃井さんは悪くないかと……」

「本当にそう思ってる? 思ってないでしょ! あたしのメイクの実力なんて、実

際に見ないと分かんないもの……そうよね?」

「え、ええと……」

「ちょっと今から付き合いなさい」

 桃井さんはそう言って自分の席に引っかけた鞄を掴み、私の腕を取った。

「道具を買いに行くわよ。ついでにネイルとヘアメイクもやったげる」

「え? ち、ちょっと待って下さい!」

「何よ、今の拘りでもあるの?」

「い、いや、違くて……」


 時計を見る。時刻は午前十一時の少し前……三限と四限の間の休憩時間だ。放課

後まではまだ遠い。


「あの、授業ありますし……」

「あん? 何よ、そんなのサボればいいじゃない」

「い、いや、そういうわけには……」

「問題無いわよ。どーせサボろうがサボるまいが、授業そのものに意味なんて無い

んだもの。黄泉丘(よみおか)が怖いなら、後であたしが代わりに怒られてあげるから」


 なんだかんだ魔神達の出席率は滅茶苦茶高いので、平然とサボろうとする桃井さ

んの発言は意外だ。彼女とて、普段からサボっているわけではないのに。

 口実があればサボる気ではあるのかな? あるいは「サボる」という行為そのも

のもまた、学園生活のロールプレイとしては魅力的なのだろうか。


 どちらにせよ、三途璃さんの方さえ何とかなるのなら、私も授業を真面目に受け

るつもりはない。彼女と仲良くするという意味でも、この誘いには乗っておきたい

のだけれど……


「で、でも……」

「何よ、まだあるの?」

「その、放課後には城菜さんと予定があって……」


 言いながら、横眼で城菜さんを覗き見る。新雪のような美しい白髪を揺らしなが

らクロッキー帳を広げて絵を描いていた彼女は私の視線に気づくとこちらを向き、

桃井さんを視界に入れるや否や、眉を顰めた。


「白瀬……ふん、上等よ」


 一方の桃井さんも、輪を掛けて機嫌が悪くなっている。

 え、何?


「ちょっと面、貸しなさいよ」

「……構わないよ。人気の無いところへ行こうか」


 修羅の顔つきで二人は教室を出て行ってしまった。


 えーと……どういう事?


 状況を呑み込めずにいると、忍さんが私の肩をぽん、と叩いた。その表情はいつ

もの貼り付けたような笑みだけれど、またしても私を揶揄っている様子だ。


「むーちゃんさん、どうやらあの二人は仲が悪いみたいですねえ」

「そう……なんですか?」

「あの調子だと、あなたを取り合って喧嘩しちゃうんじゃありませんか?」

「ま、まさか……」


 あり得ない、とは言わない。城菜さんも桃井さんも喧嘩っ早い性格ではないけれ

ど、何をきっかけに暴走するかは分かったものじゃない。私が割って入ってどうな

るとも思えないけれど……行ってこよう。


 教室を飛び出し、廊下へ。二人の姿は見当たらない。どこへ行ったのかな。


 探す手間は必要無かった。私がどこへ向かおうか決めるよりも前に、頭上からと

んでもない爆音が聞こえてきたからだ。


 校舎の天井や壁が崩壊し、爆風とコンクリートの土煙が周りを包む。すぐに床も

崩れ落ち、私の身体が浮き上がる。


 浮遊感に包まれて数秒。あわや落下死寸前の私の身体をお姫様だっこの容量で支

えたのは、桃井さんだった。

 一体何があったのか、腹部と額から血を流している。けれどそれも見ているうち

に再生し、ほんの少しの跡も無くなる。そして彼女は何事も無かったかのように土

煙だらけの校舎跡を一足で脱出し、校門を抜けた公道で私を降ろした。


「とりあえず話はついたわ。あの白い女はあんたをモデルにする変態行為を隔日に

控えるってさ。それじゃあ行くわよ」

「い、いや、あの、壊れた校舎はどうするんですか……?」

「壊れた校舎ぁ?」

 桃井さんはこれ見よがしにしらばっくれた声を上げ、振り返った。

「どこに壊れた校舎があるのよ」

「え? いや、あれ?」


 校門越しに見る校舎は、全く壊れていなかった。破損はおろか、土煙さえも跡形

も無くなっている。確かに壊れていたのは間違いないんだけど……


「あの、ひょっとして桃井さんの能力で直したんですか……?」

「違うわよ。白い女の能力よ。詳しくは知らんけどね」

「し、白い女って……」

「あんな奴は白い女で十分よ!」

 口に出すのも嫌なのか、桃井さんの機嫌がどんどん悪くなる。

「っていうか夢路、あんたあいつの事名前で呼んでるわけ?」

「は、はあ……本人がそう望んだので」

「で、あたしは苗字呼び?」

「え? あ、あの……」

「別にあんたが他人をどう呼ぼうがあんたの勝手だけど、仮にあんたがあたしより

あいつを尊重してて、それが呼び方に表れてるんだとすると面白くないわね。あた

しの事も愛称で呼びなさい」

「と、突然そう言われましても……」


 そういえば、照は桃井さんの事「モモちゃん」だなんて呼んでたっけ。ここは彼

女のネーミングセンスにそのまま乗っかるとしよう。


「モモさん、で……いかがでしょう」

「四十点くらいね」

「それは……褒め言葉でしょうか」

「及第点って程度ね。いいわ」


 そう言って桃井さん……いや、モモさんは薄く笑った。可愛らしい容姿の彼女の

笑みは、まるで天使のようだ。でも彼女は悪魔、天使のような悪魔なのだ。ゆめゆ

め忘れないようにしないと……


「ええと……それで、どこへ行くんですか?」

「とりあえず近くの繁華街でいいでしょ。おしゃれな店は大体あたしの庭だから」

「そんな『悪い奴は大体友達』みたいな……って、あれ?」


 モモさんの姿が消えた。


 ちょっとツッコミの間に意識を逸らしただけなのに、いつの間にかいなくなって

いる。彼女の能力によるものかそうでないのか、それさえも分からない。その気に

なれば魔神は能力なんて使わずとも、人間の反応速度を超える動きが出来る。

 というか、一体どういう理由でこのタイミングで消えたのか。


 その謎はまもなく解けた。しばらくすると向こうの路地から見覚えのある車がこ

ちらに向かってきたからだ。

 政府の人間が乗っている車だ。でも中に乗っているのはモモさんだ。モモさんが

ハンドルを握り、運転している……!


「お待たせ、夢路。乗って乗って」

「いやいやいや、なんでそうなるんですか!?」


 思わずツッコミを入れずにはいられない。


「一体どこからその車持ってきたんですか?」

「どーでもいい事気にするのね、夢路。番地で言うと……」

「いや、場所を訊いているのではなく……」


 言いながらモモさんを見ると、彼女はいつのまにか赤い縁のおしゃれな眼鏡を掛

けていた。『天色眼鏡』……まさかこれに乗っていた政府の人間に暗示を掛けて車

を奪取したのか。


「人聞きの悪い事言わんでよ。人間が勝手にくれたんだから」

「勝手、とは……? というかモモさん、免許あるんですか……?」

「あんたと同い年なんだから、免許なんてあるわけないじゃん。人間の法律は魔神

には関係無いのよ。それよりほら、早く乗ってよ」

「あ、はい……」


 授業をサボるのはともかく、盗んだ車で無免許運転とは……やっぱり彼女も魔神

である。忍さんやジュジュさんとは別ベクトルで倫理観が無い。まあ、一般人に迷

惑を掛けていないだけましか。車を盗まれた政府の人間に関しては、後でフォロー

を入れておけばいいんだし。


 わたしが助手席に乗ると、モモさんの運転で車が走り出す。意外と運転が上手い

のか、人間の街に入って他の車と一緒の車道に入っても事故にはならない。赤信号

は守るし、車間距離も適切だ。


「……一応、交通ルールは守るんですね」

「破る理由は無いもの。破っても咎められないからって無意味にルールを破るのは

無粋だし、だからって無意味なルールに従うのも等しくばかのやる事よ。あたしは

魔神なんだから、あたしのやりたいようにやってんの」

「は、はあ……」

「夢路、あんたも変な我慢しちゃ駄目よ。傍から見てると、ただでさえ色々背負い

込み過ぎなんだから。場合によっちゃあ、あたしが手を貸してあげてもいいのよ」

「……ど、どうも」


 モモさんはどういう感情で物を言っているのだろう。私に対してさしたる関心が

あるとは思えない彼女だけれど、これで結構面倒見がいいのかな……


 ぼんやりとそんな事を考えている間に、車が目的地へ近づいていた。

 その最中、私のスマホが鳴った。電話ではなく、SNSの通知だ。


「あ、あたしの事は気にしないで。スマホはいつでも見ていいわよ」


 運転中のモモさんの配慮でスマホを確認すると……丸太からだ。


『不破夢路 様。

 今朝話した計画について、上からの許可が貰えたのでお知らせします。

 近日中に魔神「桃井最萌華」を連れ、以下の位置情報へと赴いて下さい。

 目途が立ったらご連絡願います。具体的な指示はその時に』


 通知の続きには、地図の表記と住所が記されていた。


 これは……政府からの指令と見ていいのだろうか。目下の指令である魔神と仲良

くするという以外の、具体的な指示が来たのは初めてだ。政府はなるべく魔神を刺

激したがらないし、何なら接触したがらないんだけど……どういう風の吹き回しな

んだろう。


 しかし……無茶を言うなあ。私がどうやってモモさんを連れてどこかへ行こうだ

なんて提案すればいいというのだろう。照くらいならいざ知らず、モモさんとはま

だそんな提案が出来るほど仲良くなっていないのに……


「別にあたしは構わないわよ。いつでも付き合ってあげるけど」

「え……モモさん、私のスマホ画面見えてるんですか!?」


 現在、彼女は運転のために前を向いている。私はうつむき気味で自分の身体を壁

のようにしているのに……


「前にも説明したでしょ。あたしの『天色眼鏡』は視力を強化するって。視野も広

がるし透視だって出来るわ」

「そ、そこまでは聞いてません……」

「覗き見する気は無かったんだけど、あたしの名前が見えたからつい、ね」

「……」


 要するに、この時点で政府の目論見は当の本人に筒抜けというわけか。どんな企

画かは分からないけれど、分からずじまいなんだろうなあ……


「って、あれ? モモさんさっき、付き合うって言ってました?」

「言ったわよ」

 とモモさんが平然と言う。

「あんたにはこうして買い物に付き合ってもらってるもの。お返しにあたしの方も

付き合うわ」

「で、でも……その、私が言うのもなんですけどこれ多分、罠張ってますよ」

「そりゃあ、張ってなきゃ呼び出す意味は無いでしょうね。でもそういうのに付き

合ってあげるのも優しさのうちよ」

「……」

「なんて、そんなの建前ね」

「へ?」

「あんた、位置情報の場所がどこなのか知ってる?」


 その問いに答えるために、位置情報を見直す。


 世界地図で見ると、ブラジリアの辺りか。南アメリカについての私の知識は残念

ながらほどんと無い。以前ジュジュさんに連れて行かれた彼女の箱庭があの辺にあ

るという程度しか分からない。


 というか、そもそもあんなところには何もない。

 だってあの辺りは、魔神によって跡形もなく滅ぼされたから。


 かろうじて陸地は残っているけれど、攻撃からまだ二ヶ月も経過していない。建

造物の復興なんてとても間に合わないはずだ。


「そこね、オカルトスポットらしいのよ」

「え?」

「一ヶ月くらい前にユーチューバーの一人が立ち入って、そのまま消息を絶ったら

しいのよ。で、彼が回していた動画にはものすごい数の幽霊が映ってたんだって」

「そんな……どうせ合成でしょう」

「そう思う? でも本当に幽霊が出てきたら、面白いと思わない?」

「……」


 幽霊なんているわけがない。


 いくら魔神なんてものが存在する世の中とはいえ、死んだ人間が現世に留まるな

んて非常識的過ぎる。そんな事が許されるのなら、世界は幽霊で埋まってしまう。


 でももしもこれがデマではないのなら。

 本当に幽霊がいるのなら。

 もしかして政府の人間は、幽霊に魔神退治を期待しているのだろうか。


 バケモノにはバケモノをぶつける的な……?

 いよいよ、政府も打つ手がなくなってきたとしか思えない。

 本当に大丈夫かなあ……


「オカルトスポットなんて、映えるわよね。あたしも目を付けてた場所だったの。

でもせっかくだから、あたしの他にもリアクション役が欲しかったし、丁度良い機

会だわね。夢路、あんたも一緒に行きましょう」

「は、はあ……」


 どうしよう。どう転んでも面倒だ。


 仮に本当に幽霊が魔神に匹敵する力を持っているのなら、それはそれで私も危な

い。いや、こんな事真面目に考えるのがそもそも間違っているんだろうけれど。


 何とも……希望の薄い作戦だなあ。

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